東京都目黒区で2018年3月、船戸結愛ちゃん(当時5)を虐待によって死なせたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告(27)の裁判員裁判が9月17日、東京地裁であった。
守下実裁判長は、虐待における優里被告の役割について「相応の役割を果たしていて、厳しく非難されるべき」とした上で、夫の雄大被告によるDVの影響を否定できないとして、被告に対し懲役8年(求刑懲役11年)を言い渡した。
判決によると、優里被告は当時の夫である雄大被告(34)=同罪などで起訴=と共に、2018年1月下旬ごろから長女である結愛ちゃんに十分な食事を与えず、医療機関にも連れていくことなく放置し、肺炎などによる敗血症で死亡させた。
守下裁判長は、結愛ちゃんが亡くなる数日前から数回吐くなど衰弱していたにもかかわらず、優里被告が医師に診せずに放置していたことなどを「相応の役割を果たしていて、厳しく非難されるべき」と批判。
一方で、雄大被告から度重なる説教を受けたり、目の前で結愛ちゃんを蹴るなどの暴行を見せられたりすることで、優里被告が精神的な支配下にあったことも「看過できない雄大(被告)からの心理的影響があった」と認め、「量刑上、適切に考慮すべきである」と言及。
その上で、雄大被告の目を盗んで結愛ちゃんに食事を与えていたことなどから、「心理的DVにより逆らいにくい面はあったにせよ、最終的には、自らの意思に基づき雄大(被告)の指示を受け入れた上で、これに従っていると評価するのが相当である」と指摘。
「被害児童の衰弱の状況は明らかで、これを助けるため雄大(被告)による心理的影響を乗り越える契機があったというべきであるから、この点を被告人の責任を大幅に減じるほどの事情と見ることはできない」とし、5歳の結愛ちゃんが命を落としたことに対する刑事責任は重いと判断した。
一方で、優里被告について「わが子を死に至らしめたことを深く悔やみ反省している」とも言及。
求刑より3年短い懲役8年の判決に至った理由について、「雄大(被告)とは離婚し被害児童の弟の親権者となっており、今後その子を扶養すべき責任をおっていること、被告人の父が出所後の被告人を支える旨証言していることをも考慮」した、と結論づけた。
検察側、弁護側の双方の主張を整理する
9日に結審した際、検察側は「命を守る親として、最低限度の責任を果たさなかった」と非難し、懲役11年を求刑していた。
弁護側は夫からの心理的DVの影響により、精神的に支配されていたことを考慮すべきであると主張、懲役5年が相当だと述べた。
検察側は論告で、優里被告は夫との関係を優先し、2月9日に品川児童相談所の職員が来ても追い返し、香川県で通っていた病院からの連絡も無視するなど「誰も助けられない状況を自ら積極的に作り出した」とした。
同年3月2日に結愛ちゃんが亡くなるまで「終わらない空腹の苦痛を与え、心拍が確認できなくなるまで放置した犯行はこのうえなく悪質」と言及していた。
一方の弁護側は、結婚直後から夫の雄大被告が優里被告に対し連日、長時間にわたる説教をしたうえで、目の前で結愛ちゃんを蹴るなどの暴行を見せつけるなどした心理的DVの影響を考慮すべきだと主張。
優里被告は、雄大被告に「精神的に支配されていた」とし、雄大被告の機嫌をうかがうことで結愛ちゃんへの虐待がエスカレートしないように考えた結果、助けを求めることができなかったと説明し懲役5年が相当だと述べていた。
事件の経緯は、次の通り
判決の分析については、後日アップロードします。
この記事にはDV(ドメスティックバイオレンス)についての記載があります。
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