「北方領土はすべてロシアの主権だと認めよ」 ロシアのラブロフ外相が河野太郎外相に迫る(会見全文)

「『第2次大戦の結果を認める』発言の正当性は国連憲章」 ラブロフ外相が根拠を示す
ロシアのラブロフ外相との会談に臨む河野太郎外相=1月14日、モスクワ
ロシアのラブロフ外相との会談に臨む河野太郎外相=1月14日、モスクワ
Anadolu Agency via Getty Images

河野太郎外相とロシアのラブロフ外相が1月14日(現地時間)、モスクワで会談し、両国の平和条約締結に向けた条件などについて協議した。

会談後、ラブロフ外相が単独で記者会見に臨み、北方領土におけるロシアの主権を認めるよう、日本側に改めて要求したことを明かした。

また、日本の法律で「北方領土」という文言が使われていることについて「受け入れられない」と反発したことや、平和条約について交渉を進めるにあたり、日本側が第2次世界大戦の結果をすべて認めることが必要だと伝えたという。

1月14日、モスクワで開かれた日ロ外相会談
1月14日、モスクワで開かれた日ロ外相会談
Maxim Shemetov / Reuters

ラブロフ外相の会談の冒頭あいさつ記者会見での発言は以下の通り。

【会談の冒頭あいさつ】

親愛なる大臣とみなさん。みなさんをモスクワにお迎えできてうれしく思います。何よりもまず、(マンションでガス爆発があった)マグニトゴルスクの件で安倍晋三首相から我が大統領、プーチン氏にお悔やみを頂き、感謝を申し上げます。

さて、2018年11月のシンガポールと12月のブエノスアイレスでの首脳会談の結果、両国首脳が指示をした平和条約締結に関する交渉を本日より始めます。

ここ数年のロ日関係は様々な分野で、悪くないスピードで発展していることを指摘しておきます。基本的には、外相同士、防衛分野トップ同士の会談もあり、「2プラス2」や、安全保障当局トップ同士の会談も開かれています。

難しい外的要因もありますが、それでも経済協力は発展し、ロシアが力を入れている計画や、安倍首相の様々な協力プランについても同様です。

「ロシアにおける日本年」「日本におけるロシア年」の計画も着実に実現し、両国民の距離は縮まっています。

とりわけ、経済や投資の分野や安全保障分野での積み重ねは大きいものがあります。新たな信頼の水準、真のパートナーシップのもと、両国関係のために積極的に努力をしているところです。それは外交問題についても同様です。

このような方法が、両国の国益に反映するし、同時に世界の安全や安定、アジア太平洋地域における一体感のある安全保障と平等性、世界のあらゆる分野で役立つと確信しています。

そのような論理に即して、両国首脳は私たちに1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約締結に向けた作業を活性化するよう課題を与えました。

もちろん、プーチン大統領と安倍首相は、条約締結をめぐる交渉について、それまでの約束を曲解することなく、緊張状態を生み出すことなく、また公の場で一方的かつ矛盾するような言い回しをしない形で、プロフェッショナルに進めるよう合意しました。

そこで日本側に求めます。両国首脳が合意したことを、交渉の場や平和条約に関する作業の本質においても、厳密に実行していただきたい。

第2次世界大戦の「遺産」として、私たちには難しい問題が残りました。あなた方もご存知の通り、大戦の結果というのは、国連憲章と連合国の様々な文書で確定しています。

私はあなたと何度も会っているからわかるのですが、あなたは私たちの会談を相互に尊敬し、両国首脳からの課題を何よりも大切に考慮するという信頼の雰囲気を生み出すことができると思っています。

率直で具体的な議論になることを期待しています。もう一度申し上げます。ようこそモスクワへ。

【会談後のラブロフ氏による単独記者会見】

(冒頭発言)

親愛なるみなさん。プーチン大統領と安倍晋三首相から1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させるよう言われたとおり、日本の河野太郎外相と会談しました。

日本側からの提案で、共同記者会見を本日はやらないとの認識にいたりましたので、私から要点だけ申し上げようと思います。河野外相は後ほど、皆さんにブリーフィングをするでしょう。

すでに申し上げたとおり、両国首脳の指示に基づき、1956年の日ソ共同宣言に基づく平和条約の問題について協議しました。

率直に申し上げて、両国の間には本質的な隔たりがあります。そもそも立場が全く相容れません。それについては何度も話し合っています。両国首脳の政治的な意志は、ロ日関係の完全なる正常化であり、協議を活発するよう求めています。

北方領土はすべてロシアの主権

本日私たちが確認したのは、1956年の宣言に基づいて作業を始める用意があるということでありますが、何よりもまず、日本側が南クリル(北方領土のロシア側の呼称)の島々はすべてロシアに主権があることも含めて、第2次世界大戦の結果をすべて認めることが第一歩です。それについては議論の余地はありません。

そのことは、国連憲章や大戦終結に関する大量の文書、1945年9月2日の一部の文書で確定されています。それが私たちの基本的な立場であり、(日本側の)譲歩がない限り、次の問題を前に進めることはとてもむずかしい。

「北方領土」という呼称、認めない

日本の記者の皆さんに申し上げたいのは、島々に関する主権の問題は協議していません。島々はロシア領です。日本の国内法で、島々を「北方領土」と呼んでいることは、ロシアは容認できないと指摘しておきます。

内政干渉はできないので、私たちとしては、日本側がこの問題についてどう解決しようとしているのか、国内法とに関係する問題はどう解決されるのかについて質問しました。

また、日本側がロシアと議論したい問題はおそらく、その国内問題と関係するということについても問いただしました。私たちの議論はまだ始まったばかりです。

記者会見するラブロフ外相=1月14日、モスクワ
記者会見するラブロフ外相=1月14日、モスクワ
Maxim Shemetov / Reuters

共通認識もあります。この難しい問題を解決するためには、両国間系が根本的に良くならないといけないということです。経済や投資分野、文化面では関係は発展しています。

こんにち、「日本におけるロシア年」「ロシアにおける日本年」が開かれており、両国民の関心は高まっています。

約500のイベントが行われ、それは引き続き予定されています。しかし、経済分野、特に投資分野では今よりもっと大きく発展できるでしょう。

「共同経済活動の進捗、わずか」

南クリルでの共同経済活動について両国首脳が半年前に合意した事項は実現しつつありますが、ほんのわずかにすぎません。5つの計画が進んでいますが、画期的とは言い難いものです。

今日はみなさんに知ってほしいのは、共同経済活動は目に見える成果を成し遂げるため、しかるべき担当部局によってさらなる野心的な計画が行われるでしょう。

また、私たちは検討段階にある一連の文書があるにもかかわらず、いまだ実現していないことについても話し合いました。

特に投資とサービス分野における関税を優遇するという協議を始めることについてです。原子力エネルギーの平和利用における協力の拡大についての協議もそうです。あとは宇宙分野の利用、研究の合意についてもですね。

それから社会保障分野やビザなし制度についてもです。

ロシアはここ数年、ビジネスマンや観光客、教育関係者、スポーツや文化関係者についてビザなし制度を導入しようと提案してきました。グローバル化を考えてのことです。

ロ日がビザなし制度に踏み切れない理由は何もなくて、例えばサハリンと北海道の住民を対象としたビザなし渡航から始めればいいでしょう。

協議の3つ目は、外交や国際分野での両国の協力についてです。地域やグローバルな重要な問題について、両国の立場を文書にしました。

国連において、ロシアの提案について日本は頻繁にとは言いませんが、必ずしも賛同しません。それは両国首脳が望む信頼の水準ではありません。

両国首脳が1956年宣言を基礎に平和条約に向けた協議を活性化するよう合意したときに想定されたとおりに、外交当局者同士が具体的に接触し、互いの立場を明確にしています。

両首脳は今月会談する予定ですが、私たちは2人に進捗を報告します。

アメリカのミサイル防衛を懸念

もう1つ、安全保障分野で言及したい重要な点があります。1956年宣言というのは、日本が日米安全保障条約を更新する前に結んだものです。日米安保を更新したのは1960年。その後、日本側は日本側は1956年宣言の履行から遠ざかりました。

私たちは今、1956年宣言に立ち帰るわけですから、軍事同盟における状況が今とは根本的に違っていることを考慮しなければなりません。

アメリカは世界的なミサイル防衛システムを日本にも展開しており、それが軍拡につながっています。アメリカは北朝鮮の核の脅威を取り除く必要性を認める一方、ロシアや中国の安全保障上の危険を生み出している。

私から手短に指摘しようとしたのは、どの問題に取り組むのか、そしていずれも双方が受け入れ可能な方法によって取り組もうと明確にすることでした。

両国首脳が掲げた目標を達成するためには、私たちの関係が信頼できるパートナーシップの段階に移行することが必要だと確信しています。

平和条約問題について言えば、両国民からはっきりと支持されるような解決の模索を両国首脳は述べています。それはとてもむずかしい課題ですが、全体的に理解を深められるよう辛抱強く準備をしています。

(質疑応答)

――自民党の河井克行・総裁外交特別補佐が、日ロ平和条約の締結においてアメリカの支援を考えていると述べたこと、それから安倍首相が色丹島が日本に引き渡された場合、島民は出ていかなければないわけではないと発言したことについて、河野太郎外相はなにか話しましたか。また、それらに対するロシアの立場はどうでしょう。

ロシア側はすでに、安倍首相の発言に対するしかるべきコメントを表明しています。安倍首相の発言のあとすぐに、日本の大使を外務省に呼びました。その種の手法はまったく受け入れられないし、両首脳の合意に完全に反する発言だと述べました。

河井氏の発言については、中国への対抗勢力を強化することになると。彼はそう表現したそうですが。穏やかではない発言です。本日、私たちは率直に日本側にそう伝えました。

日本側はこう答えました。「そのジェントルマンは行政当局者ではない。彼は自民党の総裁補佐です」と。まあ、そうなんでしょう。不幸なことに、その総裁が安倍首相だったと。

私たちは厳重に警告しました。そのような発言は受け入れられないと。気になったのは、日本は独立国家でありながら、アメリカに頼りながら問題を解決するかもしれないのか、ということです。

日本は国益の観点から、自ら問題を解決すると(河野外相から)保証していただきました。そうなるように望みます。

第2次大戦の結果、容認要求の根拠は「国連憲章」

――第2次大戦の結果を認めることについての質問です。日本はまず、結果を認めなければならないとあなたは述べました。それに対する本日の日本側の回答にあなたは満足しましたか。

私は具体的に最大限、第2次大戦の結果についてのロシアの立場を伝えました。サンフランシスコ平和条約、その他の文書、1956年宣言がありますが、この宣言はサンフランシスコ平和条約とともに、第2次世界大戦に関する最終的な枠組みを構成する唯一、全体的なものです。

さらに重要な文書があります。それは国連憲章です。107条では、第2次大戦の結果を認めるよう書かれており、確固たるものとして、連合国が正式に作成したものです。私たちは本日、もう一度、詳細に日本側に伝えました。日本側からは反論はありませんでした。

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