意外な医療過疎地域、兵庫〜関西修行記 vol.2~

生まれ育った関東を離れ、神戸で研修を始めて半年が過ぎた。土地や人に慣れ周りを見る余裕が出てくると、ある違和感に気づいた。その違和感とは何か?

生まれ育った関東を離れ、神戸で研修を始めて半年が過ぎた。より明快な発言の求められる関西で修行する中で臨床力やプレゼンテーション能力がついてきたことを感じる。土地や人に慣れ周りを見る余裕が出てくると、ある違和感に気づいた。その違和感とは何か?

前稿(MRIC vol.113異国修行のすゝめ)では地元を離れて研修することの利点を述べたが、本稿では「東京者」だからこそ気づいた兵庫県の医療における問題点を紹介したい。

違和感を感じたきっかけは救急搬送の多さだ。産婦人科だけでもほぼ毎日のように搬送を受けている。私が現在勤める神戸市立医療センター中央市民病院は三宮に程近い場所にあるのだが、神戸市内はおろか50-60km離れた姫路や加古川から患者が搬送されてくることもある。

なぜこんなにも遠くから?東京や、私が初期研修を受けていた川崎の病院では精々10-20km以内の隣接区からの搬送があるくらいだ。そもそも神戸市内に病院は多くあるのに、なぜこんなにも当院への搬送が多いのか?

気になり調べてみると、兵庫県内の医師不足と偏在に行き着いた。そもそも兵庫県の産婦人科医師数は全国平均16.7人(女性人口10万人あたり、以下全て同様*1,2)に対し15.7人とやや少ない。加えて神戸市17.8人に対し、阪神地区15.9人、播磨地区全体では14.4人と医師偏在の問題もある。細かく見れば、但馬地区9.9人、丹波地区10.6人、北播磨地区11.1人、西播磨地区9.4人とほぼ半数しか医師がいない地区もあるのだ。

さらに神戸市内で緊急腹腔鏡手術の対応が可能な病院は数少ないことも問題で、なんと夜間となると片手で数えるほどしかない。婦人科で緊急手術が必要な代表的疾患といえば異所性妊娠、卵巣腫瘍茎捻転が挙げられるが、治療は今や腹腔鏡手術が主流となってきている。

そのため、これらの疾患が神戸市内で発症した場合はかなりの確率で当院へ搬送されることになる。神戸市内には確かに多くの産婦人科医がいるが、クリニックに所属している医師も多く病院に所属する医師数は実は少ないのだ。

どうしてこのような医師不足・偏在が存在するのだろうか。原因は医師養成機関の少なさにある。兵庫県内には西宮に兵庫県立医科大学、神戸市内に神戸大学と2つの医学部があるが、北部の但馬・丹波地区や西部の播磨地区には医学部が存在しない。

医師養成機関がない地域では医師数が少なく、神戸大学や大阪大学、岡山大学などの医師派遣に頼っているのが現状だ。医師全体が不足しているならば、産婦人科のような医師全体の中でも成り手が少ない科はなおさらである。

では、解決のためにはどうすればよいか。根本的には姫路市など播磨地区の大都市に医師養成機関を設立することが望ましい。しかしそれではいつ実現するかもわからない。我々自身ができることはないだろうか。

現在、近畿地方の産婦人科で同期会を作れないか考えている。産婦人科医を増やすためには初期研修医、学生の勧誘が必要だが、最も効果的なのは優れたロールモデルだ。若手が活躍し、発信力の高い診療科ほど人気がある。若手がまとまり活躍するためには交流が必要だが、意外なほどに大学間、病院間の交流はないのが現状だ。

元々の母集団が少なく多くの医師は医局に属するが、医局の医師が他医局の医師に飲もうとは言いづらいのだろうか。その点自分は医局とは関係ないため声をかけやすく、既に幾つかの大学の同期とコンタクトを取っている。折角異なる地域に来たからには、自分にしかできない形でどのように地域に貢献していけるかを考えていきたい。

本稿をご覧いただいた近畿地方で働く産婦人科専攻医1年目の方、ぜひymaeda1636@gmail.com(編集部注:アットマークを半角に変える)までご一報ください。ご連絡お待ちしています!

*2 総務省統計局:人口推計

(2015年12月21日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)

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