2018年8月、東京医科大学が医学部医学科の入学試験において、女性や浪人生の点数を一律に減点していたことが発覚しました。
東京医科大学は一律に女性受験者を減点した理由として、結婚や出産による女性医師の離職率の高さへの懸念を挙げました。これは明らかな女性差別であり、断じて許されるものではありません。家事や育児など家庭への責任は男性にもあるはずで、その発言の背景に透けて見える「家事や育児は女性」という差別的な固定観念を問題視するべきです。
家庭での無償労働が女性に偏る中、女性の離職率が高い背景として、絶対的な医師数の不足による過酷な長時間労働も無視するわけにはいきません。限られた医師数の中、離職が増えることは確かに現場の負担です。大学はそうした労働環境の改善や産休や育休後の職場復帰の支援など、性別に関わらず仕事とプライベートを両立できる医療現場の整備こそ取り組むべきであり、長時間労働の問題を盾に、大学入試における差別を正当化するべきではありません。
また、東京医科大学の件や、昭和大学が「将来性が優れている」ことを理由に現役と一浪の受験生へ加点していたことから、大学が受験生を労働力として評価していることも浮き彫りになりました。しかし、本来大学は学問を学ぶ場です。教育機関として、「将来医師としてどう働くか」を入試の基準とすることが正しいとは思えません。
東京医科大学の問題を受け、文部科学省は全国の医学部を有する大学を対象に緊急調査を開始しました。9月4日の結果速報では、2018年度までの過去6年間の入学試験において、約8割の大学で男子の合格率が女子を上回っていたことが明らかになりました。
その後10月12日までに30大学に対して訪問調査を実施し、23日の中間報告では、「書類審査の際に現役生に加点し多浪生に加点しない事例」や、「浪人生や女性は面接試験等でより高い評価を得ないと合格としない事例」など、東京医科大学の他にも不適切な入学試験の実施が疑われる大学の存在を公表しました。しかし、調査継続などを理由に該当する大学は公表せず、大学による自主公表を求めるに留まりました。
性別や年齢などの属性を理由に学ぶ機会や職業選択の自由を奪われることは到底許されないことであり、これらの事例は明らかな差別です。不当な得点操作によって不合格となった元受験生は、さらなる浪人や進路変更を強いられ、その被害ははかり知れません。元受験生の被害救済のため、これらの事例に該当する大学には、早急な事実確認と説明、その上での適切な被害救済措置が求められます。
文部科学省は大学へ自主的な公表を求めましたが、差別的な入試や不正を行っていた当事者である大学の内部調査では客観性に乏しく、信頼性が確保できません。
事実、9月4日に速報として公表された書面調査では、全大学から「不適切な得点操作はない」との回答があり、大学による恣意的な隠蔽の可能性が疑われます。現役と一浪の受験生への加点を認めた昭和大学は、「不正と認識していなかった」と説明しており、第三者による調査の重要性が浮き彫りとなりました。
これらのことから、文部科学省によるこれまでの調査報告は非常に不十分であり、早急に不適切な事例に該当する大学を公表し、第三者委員会の設置を促すべきです。来年度の入学試験が迫る中、現在の受験生はどの大学が不適切な入試を実施していたか分からないままに志望校の選択を強いられる状況であり、その側面からも一刻を争う事態といえます。
入学試験における差別は、元受験生やこれからの受験生の人生が左右される問題です。文科省には大学側ではなく受験生の立場に立ち、教育行政のトップとして、過去の全ての被害者の救済と入試差別の撤廃に全力で取り組む責任があります。
また、不正を行った大学が実施する追加合格措置に伴う問題もあります。10月23日の第三者委員会による第一次報告書を受け、東京医科大学は11月7日、不当な得点操作により不合格となった101人の受験生のうち最大63人の追加合格を認める方針を公表しました。追加合格枠には来年度入学試験の一般入試枠とセンター利用入試枠を充てる予定であり、来年度の募集枠が105人から42人へ大幅に減少する可能性があります。
医学部入学定員は文部科学省により年間9419人と定められており、東京医科大学が来年度合格者枠に追加合格枠を含めたため、実質的な来年度医学部入学定員は減少します。つまり、今回の件に少しの責任もない来年度の受験生が、例年よりも少ない枠での争いを強いられることになるのです。
元受験生の被害救済のため、東京医科大学を含め不適切な入試を行っていた大学の追加合格措置は必要です。しかし、それによって来年度受験生が不利益を被るなどということがあってはいけません。来年度の受験生も例年と同じように、医学部を目指し必死に勉強してきた受験生であり、大学による不正のあおりを受けて来年度分の定員が減らされるのは全くの理不尽です。
文部科学省は元受験生の被害救済に加え、緊急的な医学部定員増など、これからの受験生に影響が出ない措置を講じるべきです。
一連の問題を受け、複数の弁護団や支援者が被害者救済のために立ち上がりました。大学や文部科学省の対応が遅れる中、そうした勇気と実力ある方々の取り組みは、非常に心強いものです。そうした方々の活躍に触発され、私たち医療系の学生もどうにかしてこの問題立ち向かいたいと考え、緊急的な団体として「入試差別をなくそう!学生緊急アピール」を立ち上げました。
まだ社会的になんの力もない医学生という立場で何ができるのか、声を上げても入試差別をなくすことはできないのではないか、という思いも確かにあります。しかし、たとえ小さい声でも「おかしい」と声を上げなければ、永遠にこの問題を解決することはできません。
この問題は被害を受けた元受験生の問題であり、これからの受験生の問題であり、私たちと、私たちの先輩や後輩と、私たちとともに受験を経験したかつての仲間たちの問題です。そして、医学部入試に限らず、同じような差別に苦しむ全ての人の問題なのです。私たち一人ひとりが当事者としての意識を持ち、声を上げていくことが、入試差別をなくす第一歩となるはずです。
少しでもこの声を大きくしていくため、私たちはchange.orgによる署名運動というかたちで入試差別をなくすための活動をスタートしました。医療関係者に限らず、たくさんの人のご協力とご賛同を頂き、この運動を大きくしていくことを目指します。
私たちの活動趣旨に賛同してくださる方は、是非署名にご協力ください。
【ネット署名(change.org)】
【呼びかけ】
入試差別をなくそう!学生緊急アピール
事務局:
宮崎大学医学部医学科2年 中田恭真
東北医科薬科大学医学部医学科3年 長谷川碧紀
筑波大学医学群医学類6年 山本結
筑波大学医学群医学類6年 前島拓矢
E-mail no.nyushisabetsu@gmail.com
(MRIC「医学生として入試差別問題に声を上げる理由」より転載)