私は毎日新聞にいた頃、セクハラする側に間接的に加担していたのかもしれない

本来、感謝されるべき人間が、なぜ陰口を叩かれてしまうのか。
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財務省の事務次官によるセクハラ疑惑で、テレビ朝日が当初、女性社員からの申告を放置していたことがわかり、メディア全体へのバッシングにつながっている。確かに、テレビ朝日の対応は良くなかったが、セクハラ問題は社会全体の問題であり、特定の業界だけを批判しても建設的な議論にはならない。私は毎日新聞に3年半いたが、私の上司たちは女性記者がセクハラの被害を受けないよう、最大限の配慮をしていた。しかし、それでも、セクハラが起きるのは、メディアほどセクハラが起きやすい業種は他にはないからだと思う。若い女性が4-50代の男性(警察官や政治家)宅の前で夜遅くまで毎日待つ様な業界は他にはないだろう。「じゃあ、セクハラをなくしたいのなら、女性記者に夜回りをやめさせよう」となっては本末転倒で、加害者側が日頃の行いを改めなければならないのだが、それもすぐには変わりそうもない。ここは社会全体で、どうすれば被害者が声を上げやすい社会を作れるかを考えるべきだ。

毎日新聞時代に参加した社内研修で、女性記者が会社の幹部に、夜回り先の警察官からのセクハラ被害を訴え、「関係を切れば情報が取れなくなるし、どう対応したらいいのかわかりません」と尋ねた。幹部は「関係を切りなさい。それで他社が特ダネを取ったとしても、それは仕方ない」と言い、別の幹部も「嫌な気持ちになってまで特ダネを取る必要はない」と言った。(だから、今回の件で、「メディアは女性を利用して情報を取ろうとしている」と批判をする人までいたが、中にはこういう立派な方もいらっしゃるという事は理解してもらいたい)

問題はその後だ。研修後に2-3人の男性の同僚と食事に出かけた時、一人がセクハラ被害を申告した女性記者について、「何、あいつ、でしゃばりやがって」と言ったのだ。私はそれを聞いた時、「ああ、そういう考え方もあるのか」とくらいしか思っていなかった。

しかし、今考えれば、この一言こそ、セクハラの被害者たちが声を上げることができない大きな要因ではないか。なぜ、私は、この同僚に対し、「そんな風に言うなよ」と言うことができなかったのか?彼女が声を上げてくれたおかげで、他の女性記者たちは救われる想いだっただろうし、私たちも会社のセクハラに関する考えを知ることができた。本来、感謝されるべき人間が、なぜ陰口を叩かれてしまうのか。結局のところ、私も何も言えなかったわけだから、私自身も間接的にセクハラに加担していたということになるのではないか。

メディア業界ほどセクハラが起こりやすい世界はないのだとしたら、今回の様に勇気を振り絞って声を上げてくれた人に私たちは最大限の敬意を示さなければならない。そうすれば、メディア業界に限らず、どの業界でも、被害を受けた人が声を上げやすくなっていくのではないか。

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