「神はモーリシャスを最初につくり、それをまねて天国をつくった」
「トム・ソーヤの冒険」の著者、マーク・トウェインが1896年にモーリシャスを訪れた際の言葉だ。世界有数のリゾート地として知られるインド洋の島国「モーリシャス」に危機が迫っている。
7月25日、沖合いで日本の貨物船「WAKASHIO」(わかしお)が座礁。8月6日から1000トン以上の重油が海に流出して、自然環境への深刻なダメージが心配されている。
日本からモーリシャスへの直行便がないこともあり、実際に行ったことがある人は少ないだろう。モーリシャスはどんな国なのか調べてみた。
■ヨーロッパ人の入植後、ドードーが絶滅
モーリシャスは、アフリカ大陸の東方沖にあるマダガスカルから、さらに東に800km離れたモーリシャス島を中心とする島々から成る独立国だ。日本外務省の公式サイトによると、面積は2040平方キロ、人口は126万人。沖縄県の面積や人口に近いイメージだ。
10世紀ごろからアラブ人が訪れていたが、1510年にポルトガル人が訪れたときは無人島だった。1638年にオランダがインド航路の補給地として最初の植民を開始した。オランダ総督だったオラニエ公マウリッツの名にちなんで「マウリティウス島」と命名した。マウリティウスを英語読みすると、モーリシャスとなる。これが国名の由来だ。
ヨーロッパ人が来る前、モーリシャス島には「ドードー」という珍しい鳥が生息していた。「不思議の国のアリス」などにも登場するなど、絶滅動物の象徴的な存在だ。ハトの仲間だが飛ぶことはできず、全長は約1メートル、体重は20キロを超えた。オランダ人入植後の17世紀後半には姿を消した。水夫たちによる乱獲とも、持ち込まれたブタに卵と雛を食べられたのが原因とも言われている。
■サトウキビ栽培が生んだ「小さな多民族国家」
その後、モーリシャス島を領有したフランスは、アフリカから黒人奴隷を連行し、サトウキビのプランテーション栽培を始めた。1814年にはイギリス領になったが、1833年の奴隷解放令を定めたことで、アフリカ人奴隷に変えてインド人を導入して、サトウキビのプランテーションを拡大した。19世紀後半からは、中国人も流入した。
第二次大戦後は島民の自治が拡大され、1968年にイギリス連邦の国として独立した。
こうした経緯を受けて、住民のほとんどがモーリシャス島に住んでいるが、先住民がいなかったこともあり、入植者とその子孫による多民族国家になっている。
インド人が人口の68%を占め、「クレオール」と呼ばれる黒人と白人のミックスが27%で続く。中国人は3%、ヨーロッパ人は2%だ。宗教もヒンズー教、キリスト教、イスラム教と多彩。英語が公用語だが、話す人は非常に少なく、フランス語を基調にアフリカの諸言語と混成してできたクレオール語が住民のほとんどに普及しているという。
モーリシャスは、かつて砂糖を主軸とするモノカルチャー経済だった。その名残としてモーリシャス島の農耕地の90%はサトウキビ畑であり、自然植生は南西部のブラック・リバー渓谷付近にわずかに残存するのみだと「日本大百科全書」は記している。
■アフリカでは異例といえるほどの経済発展
モーリシャスは「インド洋の貴婦人」と呼ばれるなど、ヨーロッパ人にとって高級リゾート地として知られている。フランス人が最多を占める外国人観光客数や観光収入は急増。リゾートホテルがひしめき、ダイビングやゴルフなどのアクティビティも充実している。
「日本大百科全書」によると、モーリシャスは独立後、アフリカ諸国としては異例ともいえるほどの経済発展を遂げてきたという。
近年は砂糖の比重が低下し、輸出加工業や観光業の比率が高まった。日本外務省の公式サイトによると、現在はIT産業への投資や国際金融センターの設置を進めており、アフリカへの投資拠点となることを目指しているとしている。
■原油流出の影響は?
世界的に有名なサンゴ礁が、モーリシャスの観光の魅力の一つだったが、今回の重油流出事故の影響は避けられなくなっている。
BBCによると、座礁した「WAKASHIO」は日本の海運会社、長鋪汽船(ながしききせん)の関連会社OKIYO MARITIME社が所有。商船三井がチャーターし、運航していた。
船内に残っていた重油のほとんどは、船体が2つに割れる前に回収されたが、それ以前に重油約1000トンが流出。海洋生態系に被害をもたらしているという。
ロイターは、危機にさらされている生物を、浅瀬を覆う海藻、サンゴ礁を泳ぎ回るクマノミ、海岸を囲うように根を絡ませるマングローブ林、絶滅危惧の固有種モモイロバトなどと列挙。その上で、「被害からの回復には何十年も要するとみられ、中には二度と元に戻らないものもあるかもしれない」というモーリシャスの海洋学者のコメントを報じている。
【参考書籍】
・地球の歩き方 2017~18 マダガスカル モーリシャス セイシェル レユニオン コモロ(ダイヤモンド社)
・新版 アフリカを知る事典(平凡社)
・データブック・オブ・ザ・ワールド2020(二宮書店)