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松坂桃李さんは、放送中のドラマ「パーフェクトワールド」(カンテレ・フジテレビ系列、火曜夜9時)に主演している。
演じる樹は一級建築士で、下半身不随で車いすで生活をする。作品は、樹と高校の同級生のつぐみ(山本美月さん)の関係を描くラブストーリーだ。
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作品のメッセージに魅力を感じて参加したと話す。
「30歳前後や大人になってからの恋愛って、『付き合う=結婚』に直結しやすい。その中で、家庭事情だったり、環境とか、様々な課題はあると思うんですよね。好きだけでは成立しにくい関係性の中で、どうやって2人で壁を乗り越えていくかというのが、このドラマのメッセージだと思ったので、それを見るお客様に伝えていければいいなと思いました」
樹は、大学生の時にあった事故が原因で、脊髄を損傷し、下半身が不随になった。「恋愛も、好きだったバスケットボールも、もうしない」と決意していたが、偶然再会したつぐみに心を開き、交際を始める。しかし、つぐみに「なにもしてやれない」と悩んだ樹は、5月21日に放送された5話でつぐみに別れを告げた。
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この役の話が来た時を、「これはなかなか表現として難しいだろうな、というのはちょっと覚悟しました」と振り返る。
自宅や周辺で車いすで生活をし、ベッドから出る時などの日常の動作に時間がかかることなどを実感しながら、「表現」の仕方を考えていった。
俳優とは「感情を伝える仕事」
5月14日放送の4話では、同じ設計事務所で働く晴人(松村北斗さん)との印象的な場面があった。晴人は義足で生活している。
おじでもある事務所の代表が「障害なんか乗り越えて」と鼓舞したのに対し、晴人は「障害乗り越えるとか、受け入れるとか無理なんだって」「みんな平気じゃないけど、平気なふりして生きてるだけなんだって」と感情を爆発させる。
その場にいた樹は、「その通りだな。障害をおったからこそ学べたことは山ほどあります。でもだからって、障害者でよかったなんて思ったことは一度もない。お前の気持ちはすごく分かる」などと晴人に寄り添い、「でも、俺たちだからこそできることもあるんだということをお前にも実感してほしい」と語りかける。
このシーンについて、「役を通じて、心から言えたような感じがありました」と話す。
「僕らの仕事って、感情を伝える仕事だとつくづく思っていて、この作品も本当にそうです。作品をきっかけに、皆さんが、違う視野を一つ自分自身の中にストックしていただけるといいなと思います」
「コンプレックスや劣等感は誰もが持っている。改めて自分自身と向き合うきっかけも与えることができるんじゃないかと個人的に思っています」
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自分の中にある「モノサシ」に気がつくには
作中には社会への問いかけも含まれている。
エレベーターがない建物で樹が移動できなかったり、駐車スペースに三角コーンが置いてあって運転席の樹が困ったり。見る側が、「気がついてなかった」ことに「気がつかされる」機会をはさんでいる。
「おのおの、自分が生きてきた中で作り上げてきたモノサシみたいなものができていて、そこをベースとして生きていると『気づけない部分』もある。そこに気がつくのって難しいですよね、無意識ですから」
ゆえに、このドラマのように視覚的に見せることも大切だと考えている。
「見たり聞いたりすることによって『ああそうか』と思うきっかけみたいなものがあれば、変わってくるんじゃないかと思うんです」
頼りあうことができる空気の社会になれば、皆の「心の負荷」を減らすことができるのではないかと感じているという。
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ドラマは後半に入り、28日に6話を放送する。
「なぜ二人がこういう風に進んでいくのかという姿を最後まで見届けてもらえたら。『周りが思う幸せ』ではなくて、『おのおのが思う幸せ』というものがきっと大事なんじゃないかということが、この作品が伝えることじゃないかと僕は思っています」
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「のびのびと豊かにやっていければ」
松坂さんは、2019年春に発表された第42回日本アカデミー賞では、映画「孤狼の血」で最優秀助演男優賞を受賞した。また、韓国の俳優シム・ウンギョンと共に主演を務める映画「新聞記者」の公開を6月に控えるなど、目覚ましい活躍を見せている30歳だ。
「その年齢になったからこそ挑戦できるものをやっていきたいですし、そこに行くための土台づくりみたいなものもやっていきたい。それがきっと40代につながっていく」
一方で気負いは見せない。
「それプラス、自分もきっとそのうち結婚もして、家族もできるだろうから、仕事もゆるやかにして、のびのびやっていきたいな。のびのびと豊かにやっていければな」
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(撮影:Jun Tsuboike / 坪池順)