在宅勤務が“むずかしい”会社で7割がリモートワークに。45歳社長「お客様400社に頼み込んで実現した」

ソフトウェアの品質保証やテスト事業などを行うSHIFTの丹下大社長にコロナ後の会社のあり方についてインタビューをした【前編】
オンラインでの取材に答える丹下大社長
オンラインでの取材に答える丹下大社長
HuffPost Japan

新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきたと判断し、東京都が6月11日、「東京アラート」を解除した。社会経済活動も戻りつつあるが、緊急事態宣言が出る前にいち早く「危機」を察知し、働く場を再考した会社がある。

ソフトウェアの品質保証やテスト事業などを手がける株式会社SHIFT(本社・東京、東証1部上場)だ。

新型コロナの感染拡大をきっかけに、2800人の従業員の70%を在宅勤務にきりかえた。

これまで、同社のような会社ではリモートワークは「難しい」とされていた。

まず、取り引きをしている会社が約400にのぼり、自社のエンジニアを相手先に常駐させている場合もある。自分たちの判断だけで、エンジニアを引き上げて在宅に切り替えるのは難しい。何より、セキュリティレベルの高い仕事なので、パソコンを家に持ち帰ってしまうと情報漏洩のリスクがある。

それでも、丹下大社長をはじめ同社の社員が、顧客に説明してまわり、リモートワークに踏み切った。

どのようにして「従業員7割のリモートワーク」を実現したのか。これからの企業のあり方をどう考えているのか。

「コロナと企業のあり方」を社会全体で模索しているときだからこそ、考えてみたい。

丹下大社長
丹下大社長
SHIFT提供

「これから恐ろしいことが起こる」直感的に思った

丹下社長が新型コロナのニュースに触れたのは1月ごろだ。

当時、海外出張と語学研修を兼ねてロンドンに1ヵ月ほど滞在していて、現地の公共放送BBCでこの話題が流れていた。

日本では「毎年のインフルエンザのようなものだ」と思っていた人もいたため、丹下社長の中でも危機感は、現在ほど高まっていなかったという。

それが帰国後の2月27日、安倍首相が「学校休校」を要請したため、「これから恐ろしいことが起こる」と直感的に思った。

翌日には役員や幹部と対策会議を開き、在宅勤務の環境整備を始める。

「新型コロナという未知のウイルスに関して、従業員の安全をとにかく考えました。私たちは、医療や金融の方のような『インフラ』に近い仕事です。100%は無理でも、できるだけ在宅勤務に切り替えようと決断しました」

丹下大
丹下大
SHIFT

在宅勤務に切り替えるため取り組んだ3つのこと

まず社内で ①ノートパソコンを3億円分用意し、全従業員が在宅勤務に切り替えられるようにした。自宅のネット環境が整っていない人には、Wi-Fi機器を配った。3月下旬には従業員の20%が在宅勤務に変えることができた。

4月に入ると、在宅勤務率が30-40%に伸び、緊急事態宣言が出された数日後には70%に達したという。 

顧客企業の理解も不可欠だ。そのため②顧客に安心してもらうためのセキュリティ対策を考えた在宅勤務の仕組みをつくった

「3月から、営業担当の社員がお客さま400社に毎日電話しました。我々もお客様も、どうしたら良いか分からない中、『こういう体制なら、在宅勤務をしてもよろしいでしょうか』と積極的に働きかけて、許可をいただきました」

同社が考えた在宅勤務の体制は次の図の通りだ。

SIHFT
SIHFT
SHIFT提供

在宅勤務をベーシックな「レベル1」から最もセキュリティレベルが高い仕事に必要な「レベル3」まで用意。

たとえばレベル1では、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使う。通信経路が暗号化され、外部から干渉を受けないとされる仕組みだ。レベル3では、在宅する従業員の部屋に、あらかじめ双方が合意したうえで、カメラを置き、万一のために遠隔で録画をしておく想定だ。

レベル3まで選ぶ顧客は今のところいないというが、「そこまでやるのですね」と驚かれたという。

さらに、③在宅勤務中は、1日2回の報告で従業員にその日の仕事の振り返りをしてもらった。それによって、在宅勤務になっても業務の生産性に支障が出ないことが証明された。

1日に社員がどのぐらいZoomなどのオンライン会議に時間を使ったのか、PowerPointやエクセルをどのぐらい触ったのか、開発のソースコードをどこまでつくったのかなどをログで残すこともできる。そうした記録をきちんと取っておけば、「お互いがどんな仕事をやっているか分からない」という不安感は取り除けるという。

在宅勤務へのSHIFTで行ったことをまとめると、①ノートPCなど機器の購入 ②顧客への説得と3つのレベルの在宅勤務の体制づくり ③勤怠や生産性の管理、の計3つになる。

在宅勤務体制をつくるため、ホワイトボードをつかって議論をした
在宅勤務体制をつくるため、ホワイトボードをつかって議論をした
SHIFT提供

ロジックだけでは分からない「従業員の気持ち」とは

どうしてここまで変えたのか?

「これまでの社会では、会社の従業員にとって、仕事のやりがいや給与が、働く上で大事なことでした。ところが、今はコロナの感染のリスクと常に向き合わないといけず、働く人は『身の安全』を一番に考えるようになります。『欲求』が変わるのです」

「たとえ会社の中がクリーンな環境でも、通勤途中に感染することもあれば不安になって安心して働けない。そこを一番に考えました」

「新型コロナの感染が広まった初期の頃は、『交通事故やインフルエンザの致死率の方が高い。だから大丈夫だ』と言う人もいましよね。でも、こうした未知のウイルスに対して従業員が不安に思う気持ちは当然だと思うんです。経営者は、必ずしもロジックでは捉えられない社員の心の変化も把握するのが務めです」

オフィスの消毒を実施する様子
オフィスの消毒を実施する様子
SHIFT提供

「家族」への説明も求められる

 丹下社長は、会社としてのコロナ対策や自身の考え方について、およそ20本の文章をnoteで書き、社内メールも数多く送り、従業員に考え方を説明してきた。

今後は社員だけでなく、家族へのメッセージも必要になる。在宅勤務を行う場合、同居する家族らの理解も求められるからだ。

「家族との関係は間違いなく変わると思います。パートナーとの関係も変わるでしょうし、食事も家族でとる機会が増える」

「平日は家族で過ごす分、週末に会食をいれ、土曜日にビジネスランチをする文化も生まれるかもしれません。コロナの第2波が来る可能性もあり、こうした状況は1-2年続くと思います」

「ある程度時間がたてば、人の価値観は変わり、『在宅OK』と言わなければ優秀な人材が来なくなる。そうした新しいライフスタイルに対応した仕事のスタイルの改革をこれからもどんどんやっていきたい」

なんとなく受け入れてきた日常の中のできごと。本当はモヤモヤ、イライラしている…ということはありませんか?「お盆にパートナーの実家に帰る?帰らない?」「満員電車に乗ってまで出社する必要って?」「東京に住み続ける意味あるのかな?」今日の小さな気づきから、新しい明日が生まれるはず。日頃思っていたことを「#Rethinkしよう」で声に出してみませんか。

注目記事