違憲判決が出たのに、なぜ国会は動かないのか――。
法律上同性カップルの結婚の実現を国会議員に求める院内集会が3月22日、衆議院第一議員会館で開かれた。
国会議員に直接声を届けたのは、全国5カ所、6つの地裁・高裁で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告や、憲法学者、弁護団だ。
この裁判では、30人を超える性的マイノリティ当事者が「法律上同性のパートナーと結婚できないのは違憲」だとして国を訴えている。
これまでの7つの判決のうち6件で違憲と判断されているものの、国会での法改正の動きは進んでいない。
原告らは集まった国会議員に、「結婚したいという願いを無視しないで」と訴えた。
私たちは2級市民扱いされてきた――1日も早い法制化を求める
中でも、札幌高裁判決では初めて「憲法24条1項は異性間だけではなく、同性間の結婚も保障している」という判断が示された。
しかしこの翌日、岸田首相は法律上同性カップルの結婚は「憲法上想定されていない」「訴訟の判断も注視したい」と、従来の主張を繰り返した。
院内集会に集まった全国各地の原告は首相答弁への落胆を伝え、一日も早い結婚の平等実現を国会議員へ求めた。
山縣真矢さん(東京2次訴訟)
「札幌高裁判決で、24条1項違憲という判決が出て涙しましたが、首相がいつもと同じ『注視する』とコメントしたのが残念でした。これ以上待っていられません。早く国会で議論して同性婚を1日も早く実現させてほしい」
中谷衣里さん(北海道訴訟)
「(札幌高裁判決は)私たちの願いに寄り添った判決を書いてくれて嬉しかったです。人として尊重されていると感じられました」
「翻って国はどうでしょうか?判決が出るたびに『動向を注視していく』と同じことを言い続けています。この発言を聞くたびに、自分の人生を先延ばしにされ、生き方を軽んじられているように感じてきました。どうかこれ以上、好きな人と結婚したいという私たちの願いを無視しないで議論をしてください」
こうぞうさん(九州訴訟)
「同性婚の法制化が間に合わずに亡くなった友人もいます。残された僕の家族も高齢です。これ以上、政府が向き合わなかったから間に合わなかったという人が増えないことを切に願います」
大野利政さん(愛知訴訟)
「直近までずっとクローゼットでしたが、里子を迎え入れたことをきっかけに人事権のある上司に伝えたところ『困った時には相談をしてくれ』と温かく言ってくれました。この裁判が始まってから、自分の中での社会的立場も変わってきています。世の中も同じように変わってほしいと切に願っています」
田中昭全さん(関西訴訟)
「(パートナーの川田有希さんと)婚姻届を出した時に受け取ってもらえず、とてもつらい気持ちになったのですが、札幌高裁で24条1項には同性愛者も含まれると言われて救われる思いでした。そのことを知っていただき、早く法制化をお願いします」
小野春さん(東京一次訴訟)
「今日は娘の大学の卒業式です。保育園の頃から血のつながらない(パートナーの西川麻実さんが生んだ)娘を育ててまいりましたが、こんなに大きくなるまで結婚できないとは思いませんでした」
「子育ては本当に幸せでしたが、子どもの入院手続きを同性パートナーができない、自分のがん治療の時に困るなど、結婚できていれば必要ない苦労もたくさんありました。何より、法律上の家族になれず、親子ともに2級市民扱いされていると感じてきたのが一番つらかったです」
あなたの政党は法整備をしますか?
法律上同性カップルが、異性カップルと同じように結婚できるようにするには国会で法律を変える必要がある。
院内集会では、「あなたの党は法律上同性カップルも結婚できるよう法整備をするか?」という質問に各政党の議員が◯、×、△で答えた。
◯と回答したのは、公明党、立憲民主党、共産党、日本維新の会、社民党、れいわ新選組、教育無償化を実現する会。
自民党と国民民主党は、◯と△を上げた。
◯と△を上げた自民党の牧島かれん議員は、△について「党としては、同性婚についての議論をする場は現時点では設定できていない」と説明。
その上で、◯について「違憲という判断が出たことについて自民党議員の中でも議論しなければいけないと話しており、この輪を広げたいという思いで札を上げた」と述べた。
同じく◯と△だった国民民主党の玉木雄一郎代表は、個人的には賛成だが、党内で正式な意思決定をしていないので△も上げたと説明した。
◯と回答した立憲民主党の西村智奈美議員は、「党は結婚の平等を実現するための『婚姻平等法案』を提出しており、審議をして成立させたい」と述べた。
同じく◯とした公明党の谷合正明議員は「党として法整備を進めることを明言しており、世論の動向や、当事者の思いをしっかり踏まえて進めていきたい」とした。
結婚の平等、ハッピーになる人が増えるだけ
7つの判決中6つで違憲判断が示される中、法整備のための国会審議が進まないことに対して、憲法学者からも苦言が呈された。
慶應大学法学部の駒村圭吾教授は、違憲・合憲に関わらず7つの判決で共通する点があると指摘した。
一つは、すべての裁判所が「同性カップルは、深刻な社会的不利益を被っている」と判断したこと。
もう一つは「国会は何もしなくてもいい」と言ってる判決は一つもないという点だ。
駒村氏は、「今や、何らかの法的対応をしなければいけないのは自明ではないでしょうか。不利益の状況にあるということを(国会議員の)皆さんが共有しながらも何らの措置も取らないというのであれば、その責任を厳しく問われることになると思います」と述べた。
さらに駒村氏は、結婚の平等が実現しても不幸になる人は誰もおらず、性的マイノリティ当事者が不利益を被っている状況を国会が放置するのは理解に苦しむとも語った。
「異性愛者の方は婚姻を続けられますし、同性愛者の方も婚姻ができます。みんながハッピーになるだけです。ハッピーになる人が増えるだけで不幸になる人はひとりもいません」
「それにも関わらず何もできないということは、同性愛者たちにはハッピーになってほしくない。同性愛者の方たちはアンハッピーのままでいてほしいという常識では考えられない発想があるのではないかと疑いたくなります。そういうことがないと私は信じております」
「結婚の自由をすべての人に」訴訟は、2019年の開始から5年たち、院内集会も6回目になった。
この間、裁判の結果を見届けずに亡くなった原告もいる。駒村氏は「この家族の問題はそんなに時間がない」と釘を刺し、国に立法機関として責任を果たすよう求めた。
原告代理人の上杉崇子弁護士も、「セクシャルマイノリティであることを理由に結婚の選択肢を奪われ、今この瞬間も不利益に直面し、尊厳を傷つけられているたくさんの人たちを国会はこれ以上無視しないでください」と集まった国会議員に訴えた。
「裁判所は私たちの声にきちんと耳を傾け、答えを出しています。国会も今すぐ立法に動き出してください。それが日本に住み、日本を支えているたくさんの人の願いです」