「同性婚ができていたらこんな結果になったのかな」
ケイさんと20年連れ添った同性パートナーのAさんは、別れることになった後にお互いに口にした。
ケイさんは結婚の自由をすべての人に裁判・東京2次訴訟の原告だ。LGBTQの人権や尊厳を回復し、クローゼット(周囲にカミングアウトしていない人)の思いを知ってもらいたいと声を上げている。
1月26日に開かれた同訴訟の7回目の口頭弁論(飛澤知行裁判長)では、「友情結婚」などで嘘をつき続けて生きなければいけなかった苦しみを意見陳述で語った。
💡「結婚の自由をすべての人に裁判」とは:30人を超える性的マイノリティが、結婚の平等(法律上の性別が同じふたりの結婚)の実現を求め、全国5つの地裁・高裁で国を訴えている訴訟。2022年11月の東京1次訴訟は、法律上の同性カップルに結婚が認められていないのは「重大な脅威、障害」で違憲という判断を示した。
できなかった親へのカミングアウト
ケイさんとAさんは、20代半ばだった1990年代に知り合い、趣味や価値観が似ていたことから話が弾み交際を始めた。
当時はふたりとも実家に住んでおり、お互いの家族には親友として紹介。家族との死別などつらい時間は精神的に支え合って乗り越えた。
しかし30歳を過ぎてケイさんとAさんが一緒に家を買うと決めた時、親は結婚や出産をする気がないと捉えたのか同居に強く反対した。
「Aさんは信用できない」とパートナーを否定され、思わず「結婚はできない」と伝えたケイさん。その理由を「日本では同性婚ができないから…」と説明した。
すると親が「Aさんに騙された」と取り乱したため、ショックを受けたケイさんは「同性愛ではない」とカミングアウトを取り消さなければならなかった。
「友情結婚」が突きつけた現実
待ち望んで始めた同居も期待していたような幸せな時間にはならなかったという。
親にパートナーを否定された痛みや、孫の顔を見せられない自責の念に苦しんでいたケイさんは、同居を始めて間も無く何をしても楽しくないことに気づき、病院でうつ病と診断された。
Aさんにも次々とお見合いの話が舞い込み、想像していたような新婚生活との乖離に苦しんだ。
さらに30代半ばで子どもを持つ可能性を考えた時に、現実的な選択肢に見えたのがゲイ男性との「友情結婚」だったという。
友情結婚は、親や世間体から自分たちを守るためにゲイとレズビアンが形だけ結婚をするもので、当時はそのための婚活コミュニティもあった。
ケイさんも、結婚すれば子どもを持てる可能性があるだけではなく、親を安心させられ、Aさんとの生活を守れるかもしれないという思いから、自分と同じように同性パートナーがいるゲイ男性との結婚に踏み切った。
しかし、表面を取り繕った関係はうまくいかず、1年ほどで破綻。
友情結婚はケイさんを守ってくれたどころか「異性との関係は婚姻届1枚で守られるのに、同性同士には何の保障もない」という現実を改めて突き付けた。
「同性婚ができていたらこんな結果になったのかな」
うつ病や友情結婚で苦しい30代を送ったケイさん。自分と同じようなクローゼットの人たちの問題について考えるようになったきっかけは、40歳を迎えた時にSNSを通して多くのLGBTQ当事者とつながるようになったことだった。
LGBTQの当事者が身近にいることに気づくと同時に、クローゼットの人々の存在が見えないことになっている状態に問題意識を持つようになったケイさん。
クローゼットの人たちを可視化したいと、仲間とともにレインボープライドのパレードを歩き、2015年7月には同性婚人権救済申立の申立人になった。
そして2021年に始まった結婚の自由をすべての人に裁判・東京2次訴訟にも原告として加わった。
しかし訴訟が始まった年に、20年以上をともにしたAさんと別れることになった。
ケイさんは「住んでいた部屋を片付けながら、どちらからともなく『同性婚ができていたらこんな結果になったのかな』という話になりました」と声を詰まらせながら法廷で振り返った。
「別れるに至って多くのすれ違い、言い争いがありましたが、二人の最後の意見は一致していました。『なってなかったと思う』」
声を上げにくいクローゼット人たちの分も思いを伝えたい
ケイさんは裁判後の記者団の取材で、申立人や原告となり、性的マイノリティが置かれている現状を訴える理由を「クローゼットの存在が見えない=いないことになっているという現状を変え、思いを伝えたいから」と語った。
LGBTという言葉が社会に浸透し、メディアなどで顔や名前をオープンにして活動する人たちも増えてきた一方で、声を上げにくいクローゼットの人たちは存在自体もなかなか知ってもらえない。
離島や地方などに住むクローゼットの仲間たちの中には、住んでいる自治体にパートナーシップ制度があっても周りに知られることを恐れて利用できない人たちもいる。
不安と隣り合わせに生きる仲間からは「法律婚が認められるようになれば、理解は広まり、恥じることはない」と応援の声も届いている。
ケイさんは、そういった仲間たちの分も思いを伝えたいと考えている。
「結婚の自由をすべての人に」訴訟の原告には、ケイさんの他にも顔や名前を公表できない人たちもいる。彼らは、結婚を認められないことは性的マイノリティの尊厳を奪い、それ自体が差別や偏見偏見を生んでいると訴え続けてきた。
しかし岸田首相は1月25日、衆議院本会議の代表質問で結婚の平等について聞かれ「我が国の家族の在り方の根幹にかかわる問題であり、極めて慎重な検討を要するものと考えている」と、過去の自民党首相と同じ内容の答弁を繰り返した。
ケイさんは首相の言葉に対して怒りを感じると述べ、「家族の前に私の個人の尊厳に関わる問題だからと思っています。なので、一刻も早く法制化をお願いしたいです」と訴えた。