セックスは「感想戦が大事」。 紗倉まなさんと一徹さんが語る”頭でっかちじゃないセックス”

「男性だからセックスをリードしなきゃいけないと思い込まなくていいし、女性も求められている“女らしさ”を演じなくてもいい」と紗倉さん。

恋人とのセックスが辛いのは私だけ?

どうすればもっと期待に応えられるんだろう?

セックスにまつわる、悩みを抱える女性は少なくない。女性向けAV俳優の一徹さんの元には、今日も悩める女性たちからの相談が舞い込むという。このような声に対して一徹さんは「男性がAVを教科書にしすぎていることが、女性を苦しめているのかもしれません」と話す。

男女のセックスのすれ違いはなぜ起きるのか。

どうすればもっと楽しいセックスができるのか。

著書『セックスのほんとう』の刊行にあわせて、AV女優の紗倉まなさんに会いに行った一徹さん。二人で悩みながら話し合い、男性も女性も「頭でっかち」になりすぎないことが大切なのでは? という結論に。

まずは対談の前編をお届けします。

川しまゆうこ

より即物的な男性向けAVと、ストーリー重視の女性向けAV

まず二人が話し合ったのは、男性用と女性用のアダルトビデオの特徴について。演出も、盛り上がるところも異なり、この時点ですでに「すれ違い」が起きているのかもしれない。

紗倉まなさん(以下「紗倉」):一徹さん、今日はよろしくお願いします。私は普段、男性向けのAVに出演していますが、今一番求められているものは何かを考えてしまうことが多々あります。毎月、できるだけ良い「新作」を世に出したい、という気持ちでチーム一丸となって頑張っている反面、オムニバス形式のものや総集編などの人気が安定してすごく高いなと感じます。

おそらく男性は、セックスが最も盛り上がるシーンだけを切り取ったような、より即物的なものを求めている感じがします。

一方、女性向けAVはもっとストーリーを重視していると思います。それこそ一徹さんの手の所作や、かける言葉、視線など。女性が普段パートナーにしてほしいと思っていることをしっかり詰め込んでから、セックスのシーンに入るというのが多い気がします。

例えば女性向け作品で男優さんが言う「俺に任せて」というセリフ。男性向け作品ではあまり出会ったことがないかも(笑)。

一徹さん(以下「一徹」):僕も普段プライベートでは「俺に任せて」とか言わないですよ(笑)。恥ずかしくてとてもじゃないけど言えないです…。

以前のインタビューで僕は、AVはある種のファンタジーなのに、多くの男性がAVを”お手本”にしてしまっているせいで、セックスに関する悩みを抱える女性が多いと感じる、と話しました。

でも、実は女性向けAVもそうかもしれませんね。女性の理想を詰め込んだ「ファンタジー」的な部分があるんですよね。たとえば、少女漫画の中に登場するような、ちょっとガサツだけど一途な男子みたいな振る舞いなども人気みたいで。マーケティングに基づいてそういう演出になっている部分もあると思います。

紗倉:てっきり一徹さんはプライベートでも「俺に任せて」って言ってるのかと思ってました(笑)。確かにAVは、リアルのセックスとは全く別物。さらにいうと、セックスのパフォーマンスだけでなく、演じている私たち(演者)も過度な幻想を抱かれてしまうパターンもあります。(イベントなどで)ファンの方とお話した際に、「あぁ、私ってそういう風に思われているのか」と、リアルな自分とのギャップに驚くこともあります。

一徹:そうなんですよね。僕も表向きはエロメンなんて呼んでいただいて、「セックスが上手い」、「全てを受け入れてくれそう」というイメージを持たれているような気がしますが、実際はそんなに完璧ではありません。(AV作品の)編集作業で色々カットされているだけで、リードがちぐはぐだったり、逆に女性にリードしてほしいと思っていたりする時もあるんですよね。

川しまゆうこ

少しずつ浮かび上がってきた、AVと実際のセックスの「ギャップ」。AVの「エンターテインメント性」を損なわないかたちで、両者を埋めることはできないだろうか。紗倉さんから、一つのアイデアが出てきた。

一徹:例えば、僕やまなちゃんに対してある種の幻想を抱くこと、あるいは普段はできないような、ちょっと過激な性行為を描くAVを見ることを否定するつもりはありません。誰かに話したらドン引きされるんじゃないか? と思うような欲求って誰しも多少は持っていると思うんです。それを実際の行動に移すのではなく、映像の中で解消するのは、リアルな誰かを傷つけてないわけだから、僕はいいと思うんですよね。もちろん「フィクションならいいのか」という点には多くの議論はありますが…。

でもこれを現実世界に持ち込んでしまうと、誰かを傷つけてしまうことになりかねない。喜んでいただきたくて作っているので、こうした言い方は悩ましいところではありますが、「AVはファンタジーです」ということをわかった上で楽しみませんか? とは思っていますね。

紗倉:健全に楽しんでいただくために、私たち作り手側はどう変わるべきなんだろう、と考えています。私は、AVも映画のR指定みたいな感じで、始まる前に注意喚起を流すようにした方がいいと思うんですよね。例えば男性向けのAVでは、撮影中にコンドームをしていてもそのシーンを映さないことが多い。そうした描写は「コンドームってつけなくてもいいものなんだ」「簡単には妊娠しないんだ」という誤った認識を広めてしまう危険性があります。

女性向けの作品では、コンドームをつけるシーンを積極的にお見せするパターンが多いと聞き、とてもいいなぁと思いました。男性向けの場合は、映像の演出上そこまでできないというのなら、オープニングに「実際はコンドームをつけています、そうしないと危険ですよ」といった内容のテロップを入れるなど、アナウンスした方がいいと思います。

自分の出演している作品が誤解を生むことで、無意識に女性を傷つけてしまうかもしれない…と考え出すと、演じながらも心に引っかかるものがあり、モヤモヤしてしまうこともあります。だから、そういった部分は変化してほしいと強く思っています。

一徹:ネットがこれだけ普及して、(レンタルビデオ屋などの奥の部屋の前に掲げられていて、普段はなかなか入れないようにしている)、「18禁ののれん」をくぐらなくてもこうしたコンテンツを見ることができてしまうような時代だからこそ、尚更ですよね。手軽に触れることができる分、かつての「のれん」のような、一種のブロック策も必要になってきているのかもしれません。

ネット時代のAVの難しさについて語る一徹さん
川しまゆうこ
ネット時代のAVの難しさについて語る一徹さん

 セックスには「感想戦」が必要なのでは?

AVの演出が変わったとしても、結局最後はリアルなセックスの場で、お互いがどう振る舞うかがポイントだ。ここがとても、難しい。一徹さんと紗倉さんの表情は、だんだん真剣になり、悩みながら二人は言葉を紡いだ。そこで飛び出したのは「感想戦」というキーワード。

一徹:ネットで検索してAVを見る時代になると、自分が好きなものばっかり見ちゃって、「セックスとはこういうものなんだ」という思い込みがどんどん強くなっていきそうな気がします。リアルな場で「それは違うんだよ、全然気持ちよくないし、本当に女性を思いやっているとはいえないよ」と訂正してくれる人がいればいいけど、なかなか難しいですよね。

紗倉:それは難しい…! 皆さんはプライベートのセックスの感想って言い合うものなんでしょうか…。私は結構感想をシェアしたいタイプなんですけど、それは相手をすごく傷つけるかもしれないし、情緒がない行為なのかもしれない。

情緒を重んじる男性って意外と多いような気がしていて、言葉で確かめ合うのは野暮だ、と嫌われてしまうんじゃないか…とか。一徹さんはどうですか?

一徹 : 僕は相手に「どうだったか」を聞く「感想戦」をしちゃうタイプですね。でもすごく難しい。だって女の人って男の人に「よくなかったよ」とはなかなか言えないですよね。「よかったよ」としか言えないから、どう質問の切り口を変えるのがいいのか…、いつも悩みますね。

紗倉:なるほど。実際どんな感じで聞くんですか?

一徹 :相手が「早く終わりたいモードだな」と感じた時には、「別の日に誘い直した方がいいかな?」と聞いたり、ですかね。でも本当、難しいですね…。

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Peter Cade via Getty Images
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紗倉:かつて私も、セックスが終わった後にピロートークがてらに色々と感想や疑問、時には不満も、伝えたりしていた時期がありました。今思えば、割と質問ぜめな感じで。でもやっぱり嫌そうな顔をされてしまうんですよね。だから段々と言いにくくなって…。もちろん人によって反応は違うのかもしれないけれど、いずれにせよ、これが正解という答えはないから難しいですよね。

ただ、もっと日常生活の中でセックスについてフラットに話せたらいいんじゃいかな、とは思います。例えば「あの時もしかして疲れてた?」 とか「今度は夜じゃなくて朝でもいい?」とか。思った時に言うのが一番な気がします。

一徹:お互い口には出さないけど同じようにモヤモヤを抱えていたり、似たような解決策を頭の中で考えていたりすることってありますよね。それもこれも、話してみないことにはわからない。

紗倉:募らせた不満を一気に爆発させるとシコリが残ったり、状況が深刻になってしまう可能性もあるから、ご飯を一緒に食べている時に「これ美味しいよね」「こういうのが好き」とおしゃべりするのと同じような感覚で、その都度伝えるのがいい気がします。

川しまゆうこ

セックスを重ねて、「伝えよう」と思ったら言ってみる

紗倉:感想を率直に言い合うためには、関係性は大事ですよね。付き合って間もない頃だとかなり難しい気がします。何回かセックスの回数を重ね、相手を信頼できるようになって「やっぱり伝えよう」と思ったら言うのがいいかも。

あと、タイミングだけではなく、言い方も大事だと思います。昔の恋人を引き合いに出すことや、人格否定につながるような伝え方、コンプレックスを刺激するような伝え方はしない方が、良い関係を保てると思います。

一徹:男性は、セックスの「うまい・下手」がアイデンティティと直結していて、「自分がちゃんと女性をリードしなきゃ」という信仰も強いので、すごくデリケート。そういう意味でもAVがある種の「教科書」になっている現状は問題だな、と感じますね。ある種の「正解」があると思ってしまうことで、うまくいかなかった時にーーというか、なかなかうまくいかないと思うんですがーー本人も相手も傷つくのはとても悲しいことですし。

どちらかだけが頑張るのではない。両者の「歩み寄り」が大事。

セックスは、デリケートなもの。お互いの身体も心も傷つけてしまう可能性は常にある。それに、「傷ついたこと」を相手に伝えること自体が、相手を傷つけてしまうかもしれない、というジレンマも抱えている。紗倉さんは女性の立場から、一徹さんは男性の視点から、少しずつ、慎重に、歩み寄る方法を語った。

紗倉:すごく難しいけど、女性も男性も、自分が当たり前だと思ってることは当たり前ではない、と再認識することがひとつ、とても重要だと思うんです。

例えば中イキも潮吹きも、AVでは当たり前とされているけど、全然当たり前じゃない。

女性はセックス中にしっくりこないことをされたら、「ちょっと違う」とストップをかける勇気がないといけないんだろうなと思いますし、当然、女性がストップをかけられる関係でいるためには男性側にも「あ、これはダメなんだ」とすぐに受け入れられる余白がないといけません。

女性側がイヤなことをイヤと言う勇気を持つのはとても難しいことだけど、どちらかだけが頑張って解消されるものではなく、両者が努力して歩み寄るしかないと思うんです。

川しまゆうこ

一徹:そうですよね。僕が女性の方たちからいただくお便りでは、やっぱり女性から本音を打ち明けるのが難しい、という内容がすごく多いです。痛みを我慢しながらごまかしている方はすごく多いですね。いち女性として、まなちゃんはどう思いますか?

紗倉 :“カード”みたいなものがあればいいのに、って思います。イエローカードやレッドカードがあって、不快なことをされた時に、さっと出すとか。それとなく相手に伝える方法があるといいですね。二人で隠語を決めるとか。

例えば私、現場で本当に撮影を止めてほしい時には、商標登録されているキャラクターの名前とか叫んだりするんです(笑)。

一徹:なるほど。それだと確かに作品として絶対使えないから撮影をストップせざるを得ないですね。それにしても女優さんは本当に大変ですね…、プロ意識に頭が下がります。

プライベートだとどうしたらいいんだろう?普通に「ストップ」って言うとか? いや、面白いから二人で決めたキャラ名を叫ぶのもいいかもしれないですね。大事なのは、意思を伝えあう共通の言葉や決め事ができているかどうか。

大事なのは「想像力」。相手を完全には理解できない状態と、どう付き合うか。

イギリスやアメリカなどを中心に重要なキーワードになってきた「性的同意」。セックスをする前に相手の意思確認をきちんとすることを訴えた言葉で、日本でも少しずつ広まってきている。セックスの「同意」、実際はどのように得ていけばいいのだろうか。



ロンドンのテムズバレー警察が作成した動画「Consent - It’s as Simple as Tea」(同意〜お茶の子さいさい〜)は、同意という概念を、お茶を淹れることに例えたもので、世界中で反響を呼んだ。

紗倉:同意の問題って本当に難しいですよね。ちゃんと考えると、すべてのワンナイトラブはもう成立しなくなるだろうし、付き合ってからだってセックスするたびに都度同意が必要なのか?という話だってあるじゃないですか。 

極論、相手との出会い方も、関わってきた年月も関係ない。さらに、言葉に出したことが文字通り本音とも限らない。本当に本当に難しい…。ただ、これさえやってればOK、という共通ルールなんてない、ということだけがわかっている感じ…ですね。

双方が合意をして手を添えることではじめて使えるコンドームが話題になったことがありましたが、一回のイエス・ノーで終わるんじゃなくて、色々な場面でそうした確かめ合いが継続的にあるといいと思うんです。

一徹:時間経過によっても気持ちや認識が変わることがありますしね。あの瞬間はいいと思っていたけど、やっぱり今思い返してみたら嫌だったと思うことだってあるでしょう。まなちゃんが言うように、決して正解はない。その中で、「わからない」という状態とどれだけ向き合えるのかが大事なのかもしれません

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紗倉:そうですね。さっきも話しましたけど、自分が当たり前だと思っていることを当たり前だと思わないのは大事な気がします。例えば男女という性別にも、そんなに縛られないで欲しい。

男性だからセックスをリードしなきゃいけないと思い込まなくていいし、女性も求められている“女らしさ”を演じなくてもいい。

自分と相手。その個々の関係性の中で、ギブアンドテイクの精神が一番大事な気がします。相手がしてくれたことを自分も返す。逆に、自分が嫌じゃないから相手も嫌じゃないだろう、と決めつけないことはもっと大切。常に尊重しあう関係を持ち続けたいです。 

自分だけの快楽を求めるならオナニーでいいわけで、セックスは二人じゃなきゃできないことをするってことですよね。そこの違いを考えれば、もっと楽しめるのかな、と思ったりもします。セックスって楽しいものだと思うんですよ。

一徹:そう。セックスって本来は楽しいものなんですよね。自戒を込めていうのですが、お互いが失敗を許せるぐらいの心の余裕は持てた方がいいんじゃないかなと感じますね。

相手を傷つけたいと思っている人は基本的にはいなくて、多くの「失敗」や「すれ違い」は、相手を気遣ったり、相手を喜ばせたいと願ったりするところからきている気がするんです。

だからその思いやりやチャレンジに対して「こんな失敗ができたね」って笑い飛ばせるぐらいの安心した関係性がないと互いに辛くなっていく気がします。

ネット上でAVも見られるし、SNSで情報収集もできる。色んなことを知った気になりやすい時代だけど、あまり頭でっかちにならずに行動して失敗を繰り返すことで見えてくる楽しさや喜びはあるんじゃないかな、と思います。セックスに限らず、恋愛も仕事も。 

*対談の後編は近日公開予定です。

『セックスのほんとう』

一徹さんの新刊『セックスのほんとう』 (ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は全国の書店やオンライン書店で好評発売中。