『まんぷく』脚本・福田靖氏インタビュー 「私は武士の娘です」は実話

オファーを受けて「ついに来たか!」という感じ
連続テレビ小説「まんぷく」公式インスタグラムより
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@nhk_mampuku

【まんぷく】脚本・福田靖氏、80%はフィクション、「私は武士の娘です」は実話

 NHKで放送中の連続テレビ小説『まんぷく』(月~土 前8:00 総合ほか)。日清食品創業者の安藤百福氏と妻の仁子氏をモデルに、戦前から高度経済成長にかけての激動の時代を何度も失敗しては這い上がり、「インスタントラーメン」という世紀の大発明へと辿り着く夫婦の"人生大逆転"の成功ストーリーを紡いでいく。小気味よいストーリー展開やキャラクター描写のうまさで、番組当初から注目を集めている本作はどのようにして生まれたのか。脚本を手がける福田靖氏に聞いた。

■オファーを受けて「ついに来たか!」という感じ

 若い女の子が、けなげに頑張るというのが、僕が思っていた"朝ドラ"のイメージです。大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)の話をいただいた時も、大河を見たことがないとお伝えしたんですが、"朝ドラ"も実はあまり見たことがないんです。大学進学のために東京に出てきた年に『おしん』(1983年度)が放送されていて、目覚まし代わりにテレビをつけてウトウト見るのですが、おしんがつらい思いをするのが忍びなくて「ひどいだろう!」と目が覚める(笑)。それぐらいしか、"朝ドラ"の思い出がないんです。ただ過去の"朝ドラ"に影響を受けるということもありませんので、そういう意味では新鮮でいいんじゃないかとも思っています。

 お話をいただいた時は「ついに来たか!」という感じでした。大河ドラマを書いたので、いつか"朝ドラ"の仕事をいただく可能性もあるのではないかと思っていました。僕は大人が主人公の話を書くことが多いので、若い女の子が主人公の話は苦手で、ちょっと苦労するただろうなぁと最初は思っていました。さらに 15 分という尺(時間)のドラマができるだろうかという不安があったんですが、考えてみると昔、NHKで『トキオ 父への伝言』(2004年)という15分のドラマを書いたのを思い出したんです。あらためて見返してみたら、「あ、面白いじゃん」と思いました。短いなら短いなりの、"どんどん見ていく""次を楽しむ"という感覚を思い出し、大丈夫な気がしてきました。それで、 先ほどの話(若い女の子の話は苦手)に戻りますが、結果的には「若い女の子」の話ではなくなったので、 そういった意味でもいけるかなと思いました。

■主人公は波乱万丈の夫ではなく、何も資料がない妻

 物語を作るにあたって、まず「オリジナルにしますか?」「それともモデルを探しますか?」というところから打ち合わせをして、結果、モデルを探すことになりました。プロデユーサーさんのほうから、いくつかの「モデル候補」が挙がってきて、そのなかに安藤百福さんの妻・仁子(まさこ)さんがあったんですね。 いろいろな業績を残したのは百福さんなんですが、調べれば調べるほど、成し遂げてこられた内容がすばらしくて。インスタントの袋麺を作ったこと、カップ麺を作ったことは、本当に画期的だということで決定したのです。

 ところが、仁子さんに関しては本当に何も資料がないんですね。インターネットで検索しても出てこないし、「大宅壮一文庫」というマスコミの方がよく調べ物をなさる雑誌の博物館でも「安藤仁子」で検索してみましたがヒット数はゼロ。本当に表に出てこない方なんです。この方を主人公にするということは、ほぼオリジナルの世界だなと。ちょっと、異例のケースですよね。夫は波乱万丈にいろいろあるけれど、主人公は夫ではなく妻のほうですので。

 仁子さんの子孫の方にお話を聞いてみると、「優しい人だった」「泣いているところや夫婦げんかをしているところを見たことがない」など、人としてはすばらしい方だったようですが、物語を作る立場からすると、やはり何か際立った特徴を求めてしまいます。いろいろ伺う中で、仁子さんのお母様が「私は武士の娘です」 という口ぐせのビシッとした方だったと聞き、それがヒントになりました。夫婦二人の関係性だけに着目すると、夫唱婦随のありきたりなイメージに留まってしまいますが、そこにりんとしたお母様が関わることで、 物語が立体的に浮かんできたのです。

■キーパーソンは"鈴さん" 最後の最後まで萬平さんのツッコミ役

 百福さんはすばらしい人ですが、明治生まれの昔かたぎのお母様からすると、波乱万丈の勝負師のような生き方は受け入れられなかったのではないだろうか。もちろん、それはあくまでもフィクションです。実際のところはどうだったのかわかりませんが、そんな二人の間に立つ妻は、母と夫、両方を差配していったのではないか...と想像していったところ「究極のマネジメント能力を持つ女性」というイメージが浮かびました。そうなると、当然、ヒロインはポジティブシンキングでしょうし、奥ゆかしく支えるというよりも、臨機応変に二人の立場に寄り添いながら、最終的には理想的な方向へと二人をうまく導いていくようなイメージが浮かびます。

 少し前に書いたドラマの脚本で、人を励まして奮起させるための「ペップトーク」というトーク術の存在を知りましたが、福ちゃんはまさに"ペップトーカー"ではないだろうかなどとだんだんオリジナルのキャラクター像ができあがっていったのです。

 打ち合わせの初期に「鈴さんを含めて三人の話ぐらいのつもりで作ったらどうでしょうか?」と言った時、そこにいた全員が納得してくださったんですね。萬平さんは最終的に、ほぼ一文無しになって、需要ゼロ、市場ゼロのインスタントラーメンを作り始めます。世間は「インスタントラーメンっていうものがあったらいいな」とは誰も期待していないのに、萬平さんの中にだけイメージがあってそれを作り始める。スティーブ・ジョブズみたいなものです。

 だから、鈴さんはきっと萬平さんのやることについて「自分の理解を超えている」と思い続けるのではないかと。鈴さんという設定を作った以上、もう最後の最後まで、萬平さんに「何なんだ!」って突っ込み続けたほうが絶対に面白いでしょうし、萬平さんと福ちゃんは自らコメディを演じるわけじゃないけれど、鈴さんが加わることでコミカルになっていく。鈴さんは、そんな大事な役割なんです。

 子孫の方に伺った、実話のエピソードとしては、仁子さんは三女で、長女のお姉さんがそれはそれは美しく大変おモテになったということ、次女のお姉さんが画家と結婚されて、その家にはなぜかたくさんの鳥がいたこと。それから、歯医者さんが長女さんに何度もプロポーズに来られて、その方が馬に乗って家の前までいらっしゃったとか。そのエピソードで生まれたのが、牧善之助(浜野謙太)です。このドラマの中で最 も僕が好きなキャラクターです(笑)。NHKさんのことだから、スタジオに馬を入れるんだろうと思ったら、案の定(笑)。ビルの中に白馬が入っていくところを見たかったですね。そういった事実を織り交ぜながらではありますが、やはりこのドラマの80%ぐらいはフィクションと言ってもいいでしょう。

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