日本の中小企業には、優秀な人材も技術力もそろっている。だが、ビジネスのためにお金を集める「金融」と、商品を広めるための「流通」の昔ながらのシステムに囚われていると、このまま成長が止まってしまう。
ネットを通してお金を集め、販路を開拓する新しい仕組み「クラウドファンディング」にはその二つの"日本的な呪縛"から抜け出すためのヒントがあるように見える。
業界大手「マクアケ」の中山亮太郎・代表取締役社長に聞いた。
——中山さんが感じているという中小企業の"しがらみ"とはどういったものでしょうか。
クラウドファンディングは、アイデアを持った人が、ネットに商品やサービスの企画を発表して、それに賛同した支持者からお金を募る仕組みです。最近では、「こんな商品を作りたい」と企画を立ち上げる実行者の中に、中小企業の経営者も増えてきました。
そんな中、違和感を覚えたことがありました。それは、消費者が実際に手に取って購入する製品を作っている「B to C企業」でも、自分たちを「B to B企業」だと表現している場面に立て続けにでくわしたことです。
(注:「B to C企業」:消費者向けの製品・サービスを作る企業、「B to B企業」:企業向けの製品・サービスを作る企業)
たとえば、マグカップを作っている中小企業があるとします。そのマグカップは「東急ハンズ」や「ロフト」など街の雑貨店でも売られ、ふつうの消費者が手に取ります。でも、マグカップを作っている中小企業は、「このマグカップはどうやったら、消費者に魅力的な商品になるだろう」ではなく「このマグカップはどうやったら大手流通に仕入れてもらえるだろう」としか考えていない。おそらくそういったことから自社を「B to B企業」と表現していたのだと思います。
それは、大量生産して大量にさばくためには、仕方のないことでしたが、いまの時代はネットによって直接ひとり一人の消費者と向き合えるし、画期的な商品づくりにつなげられます。
それなのに、消費者の方を向くことに慣れていないと感じる時が何度かありました。
——それはなぜでしょうか。
日本の経済全体が合理化を正義としてエコシステムを作ってきたことで、作り手と比べて流通が強い力を持ちすぎてしまったんだと思います。たくさん製品を仕入れて一気に売ってくれる流通販路へのアプローチを考えたほうが効率がいいですから。
中小企業は金融の論理にも縛られてきました。資金を調達するために、金融機関に説明しやすいようなビジネスが中心となってしまい、直感的で思い切った製品やコンテンツを作りにくくなってしまった。
日本企業は、合理化の名の下に産業を成長させてきましたが、それと引き換えに流通と金融の論理に組み込まれ、どんどん消費者に向き合った画期的な製品が誕生しにくくなってしまったんだと思います。
——流通と金融の二つは強固なシステムを作ってきました。そこに囚われてしまうと、消費者にとってつまらない物ができてしまいます。
当然、誤解してはいけないのは流通と金融は全く悪くないということ。
ただ、それら以外に、企業が成長するための社会的システムがきちんと育ってこなかったため、結局、中小企業は合理化の名の下に、コスト競争をし続けることになりました。
見たこともないような新しい製品作りにチャレンジするのではなく、ある程度成功しているものを真似して少しでも安く売る、というやり方です。消費者もそれに応じるようにして、少しでも安いものを買おうとする習慣が身についてしまったと思います。
——「安ければ安いほど」は良いような気もしますが...。
安いことも魅力でしょうが、安さだけが魅力とは限りません。
実際10万円以上するiPhoneが世界で飛ぶように売れていますよね。私が以前駐在していたベトナムでは、借金までしてiPhoneを買う若者がたくさんいました。
人間は根源的に「新しいもの」や「見たこともないもの」に惹かれる性質があると思いますし、喜んでお金を出したいのではないでしょうか。
——中小企業が"BtoB根性"から脱却し、消費者がワクワクするような新しい製品やサービスが生まれるために、マクアケは何をしていますか。
マクアケには専任の「キュレーター」がいます。プロジェクト実行者さんの製品やサービスの本当のターゲットは誰なのかという抽出作業をお手伝いします。また、製品やサービスの魅力が消費者に最大限伝わるようなストーリー作りをリードするなど、マーケティング・広報活動全般をサポートしています。
クラウドファンディングは、プロトタイプ(原型)の段階でも、ネットでその魅力を伝えることで、実際にお金やユーザーの感想が集まります。潜在的なニーズを把握ができるので、その後の販路開拓につなげられるし、商品の発売前からロイヤルカスタマー(優良顧客)と関係が築けます。グルメサイトの「食べログ」ではコメント欄を通して飲食店と顧客がつながりますが、それがサービスの本格展開前から出来てしまう。
流通や金融の論理とは別の、消費者視点が生まれます。その手伝いをキュレーターがするのです。
日本は中小企業大国ということはよく知られていることだと思います(注:日本の企業のうち99.7%が中小企業)。数もさることながら、世界と比べて技術レベルが圧倒的に違いますね。
だてに何十年も続いてないし、だてに親の代からやってないし、あるいは、だてに一代でここまで大きくしてないんです。新興の中小企業を含めて、世界は日本の中小企業を"舐めてはいけない"と思います。
マクアケでは、2017年7月に、1億円以上を集めることに成功したプロジェクトが生まれました。これは和歌山の中小ベンチャー企業が作ったプロダクトです。
自動車と電動バイクを組み合わせたハイブリッドバイクを開発しました。プロジェクト開始時の目標金額が300万円だったのに対して、2カ月足らずで1億円以上を調達しました。
——マクアケのような"ネット企業"が、地方や中小企業に営業を仕掛けていくのは意外です。
多くの新しいネット企業は、ネットで完結できる効率化や自動化は得意なんですが、IT企業以外の会社にリーチするのが苦手です。そこを、我々は泥臭くやっています。
マクアケは、どうすればメーカーさんと接点を持てるか。そう考えた時に銀行だと気づきました。
銀行はメーカーの新規事業の情報をいち早く知る存在ですし、社長のゴルフのスコアまで知っているぐらい、隅々まで地元企業に根付いています。「これだ」と思い、銀行との連携を推し進めました。現在、約75行の銀行様と連携させていただいています。
銀行にとっても、顧客であるメーカーをサポートすることになりますし、事業性や商品性が世の中に受け入れられるかを知る判断材料にもなるのでお互いにメリットの大きい座組なんですよね。メーカー、銀行、マクアケの"三方よし"なモデルになりました。そして、さらなる成長のためにはマクアケ自体がマスメディアになる必要があると感じています。
——マスメディアですか。
いわゆるテレビや新聞などといったマスメディアという意味ではないですが、「多くの人が集まる場所」という意味でのマスメディアです。
プロジェクト実行者には、製品やサービスを世の中に出そうとする裏側のドラマチックな「ストーリー」があります。
たとえば、 老舗の足袋製造業者がランニングシューズの開発に挑戦する「陸王」や、街中の小さな企業が宇宙ビジネスに挑戦する「下町ロケット」など池井戸潤さん原作の「中小企業もの」のドラマが高視聴率を得ています。
「ガイアの夜明け」や「プロジェクトX」など、多くの人は、ビジネスの裏側のストーリーに魅力を感じます。そうしたストーリーが毎日毎日更新されるサイトだと考えれば、マクアケは一種のマスメディアになれるのではないでしょうか。
——ただ、現状マクアケは営業利益が300億円規模のサイバーエージェントグループの中では、大きな利益を生むビジネスというより社会貢献的なCSR事業ではないでしょうか。
時にマクアケはCSR事業だと捉えられることもあります。事業として大きくならない領域だと思われることもあります。
しかし、私は、マクアケはCSRにとどまらないどころか、人が、新しい挑戦を始めるために欠かせない巨大なインフラになって、世の中に事業の規模としても、収益面としても大きなインパクトを与える存在になっていくと考えています。