「女子学生はメイク術も磨こう」と勧める就活本に、市民団体から抗議の声があがっている。
抗議をした団体のメンバーは、これから働こうとする人の尊厳やアイデンティティを踏みにじるものだと述べている。
「女子学生はメイク術も磨こう」
問題になっているのは、2023年5月26日にマイナビ出版から発行された「オフィシャル就活BOOK内定獲得のメソッド就職活動がまるごと分かる本いつ?どこで?なにをする?」に掲載されているアドバイスだ。
同書籍の「実践就活講座」の一つでは、「女子学生はメイク術も磨こう」と勧められており、ノーメイクで面接に臨んだある女性の実例が書かれている。
この面接で、面接官は「女性が人前に出る時にノーメイクというのは、いかに失礼で恥ずかしいことなのかを認識していないの?」と伝え、最終的に不合格になったという。
書籍はこのエピソードを実話だとして「スーツを着てノーメイクだと、『ぼやけた印象』『顔色が悪く疲れた』ようにも見え、周りのメイクをした学生と比べると印象で損する場合もあるのが現状です」というキャリアカウンセラーの発言を紹介。
「数多くの採用担当者が、女子学生のメイクはTPOの範囲と回答している」と述べ、基本的なメイク術は押さえよう、と女子学生に求めている。
私の素顔はマナー違反?
このアドバイスを疑問視したのは、就活の服装・マナーにおける性別二元論やジェンダー規範押し付け、性差別に反対する市民団体「#就活セクシズム 署名チーム SSS(Smash Shukatsu Sexism)」だ。
団体は10月19日、「就活本がすべきは、こういうときの通報窓口を紹介することでは?」とXに投稿した。
この問題提起は、SNSで拡散され「他人の化粧にどうこう言うのは失礼」「女性だけに求めるのはおかしい」「大学の就活メイク講座もやめるべきだと思う」など様々な反響を呼んでいる。
団体メンバーの水野優望さんは、こういった就活アドバイスは性差別的であり尊厳を踏みにじる、とハフポスト日本版の取材でコメントした。
「自身が望むと望まざるとにかかわらず『女性』として生活している人々や、他者から『女性』とみなされる人々に対してのみ、『マナーだから化粧をしなさい』と説くことは、『あなたの素顔はマナー違反で醜い』『あなたは鑑賞物として美しくいなければならない』と言っているも同然だと私たちは思います。それは、多くの人たちの尊厳やアイデンティティを踏みにじるメッセージです」
水野さんは、こういったアドバイスは仕事をしようとする人たちを精神的に追い詰める可能性がある、とも述べている。
「これから働こうとする人たちは、ただでさえ弱い立場にいます。その人たちが『仕事を見つけなければいけない』と追い立てられる時にまず直面させられるのが、尊厳やアイデンティティを踏みにじられる経験で、『これから死ぬまでこれに耐えなければならないのか』と絶望したり、自分が何者であるか分からなくなるような感覚を覚えたりする人も多いと思います」
「就活産業は、これから働こうとする人たちの立場の弱さにつけ込み、その人たちにとって良いサポートを提供するどころか、真逆のことをしていると見なされても仕方がない振る舞いをしているように思え、私たちは強い怒りを感じています」
就活本や就活セミナーで、性別に基づく固定観念を強化する表現が根深く残っている状況を踏まえ、団体は2020年11月に、二元化した男女別スタイルやマナーの押し付けをやめるよう求める署名を立ち上げた。
2021年6月には、集まった署名を複数の企業に提出し、マイナビからは「頂いた署名やご意見につきましては、今後のサービス運営および改善に活かしてまいります」という回答を受け取ったという。
しかし同社が2023年に発行した書籍には、女性だけノーメイクをNGとしたり、「女性らしい気配りが必要」と伝えたりする内容が含まれている。
水野さんは「これまで無数の人々が抗議の声をあげてきましたが、マイナビを始めとする多くの就活産業は一向に改善の様子すら見せず、こうした性差別を続けています」とも述べる。
団体は10月22日に、今回の書籍を発行したマイナビ出版と著者の岡茂信氏に対して抗議文を発行し、回答を求めている。
この抗議文への受け止めについてハフポスト日本版がマイナビ出版に問い合わせたところ、「抗議文は23日に受け取って社内で対応を検討しております。何らかの対応をする予定です」との回答を得た。