ピエール瀧出演作の“自粛ムード“に東映が一石投じる。白石和彌監督「過去作を一律でなくすのは、文化にとって損失」

東映が、ピエール瀧容疑者が出演する『麻雀放浪記2020』をノーカットで公開すると発表しました。
©2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

”自粛ムード”に一石を投じることになるかーー。

映画配給大手の東映が、麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたピエール瀧容疑者が出演する作品「麻雀放浪記2020」について、予定通り4月5日にノーカットで公開すると発表した。

3月20日に東映で開かれた記者会見には、同社代表取締役社長の多田憲之氏と、「麻雀放浪記2020」の白石和彌監督が出席。

製作委員会や社内で協議を重ねた結果、劇場公開の決断に踏み切ったことを発表した。批判が起きることは覚悟の上という。

芸能人が不祥事を起こした時に、関連作品が“自粛”の対象になるケースは多い。しかし、その風潮については「過剰ではないか」とする意見もあり、賛否両論が巻き起こっていた。

多田社長は「個人としても、ちょっと『行き過ぎだな』という印象は持っていました」と見解を示し、「映画会社の責任として公開したいと社員に伝えて、(作品に関わる)皆さんを説得しましょうとなった」と話した。

白石監督は、「議論なく一様に決まったかのように蓋をしてしまうことはよくないのでは、と個人的に思います」と投げかけ、「過去作まで一律でなくすのは文化にとって損失だと思うので、そろそろガイドラインなり何かを作るべきではないかな、と思っています」と提案した。

会見での質疑応答の主なやりとりは以下のとおり。

——製作委員会の出資企業からは様々な意見があったと思うが、どのような声があがったか

多田社長:製作委員会の各社の皆さんと何度も協議を重ねた。

各社それぞれの意見が違う中で、いろんな議論があったのは事実です。また、現在も議論が続いている。ただ、配給を受け持つ弊社としては、時間が迫っている中で早く決断を出したい、そして製作陣の思いも含めてなんとか完全な形で作品を提供するのが配給会社の責任であろうという思いで、ノーカットで配給することを決断しました。

このことはまだ劇場もご存知ないと思うが、劇場からどういうリアクションがあるかということも考えながら、公開することには強い意志を持っています。

記者会見する東映・代表取締役社長の多田憲之氏
記者会見する東映・代表取締役社長の多田憲之氏
HuffPost Japan

——公開時のスクリーン数は

多田社長:現時点では51スクリーン。(上映できないという劇場側からの意見は)現時点ではございません。

——「作品に罪はない」という世間の声が上がっているが、こういった声をどう受け止めているか

多田社長:不祥事や事件があると、公開が中止になったり延期になったり、編集し直すなどの対応をしている。

映画会社や製作委員会のご判断だと思いますが、東映として、また個人としても、ちょっと「行き過ぎだな」という印象は持っていました。役者とスタッフ皆で総力をあげて作ったものをボツにしていいのか、ということに関しては疑問を持っていました。

ただ、こういう出来事が東映に起きるとはほとんど思っていませんでした。当事者になったことで、私自身も悩みました。

個人の会社ではなく株式会社でもあり、コンプライアンスという問題もある。映画会社の責任としてここは公開したいと社員に伝えて、(作品に関わる)皆さんを説得しましょうとなった。

白石監督:作り手としての意見ですが、基本的な姿勢としては、作品に罪はないという姿勢でいいとは思う。

劇場が上映できないとか、どういうテーマの映画なのかとか、役者が犯した罪がどういう質のもので、その役者がどういうポジションにいるなど、いろいろな状況はあると思います。

その辺の議論なく、一様に社会の流れの中で決まっているかのように蓋をしてしまうことは良くないんじゃないか、と個人的には思います。

「上映できない」というのがあくまでも特例であってほしい、というのが僕の願いです。 

白石和彌監督
白石和彌監督
HuffPost Japan

——ピエール瀧容疑者に対する今の率直な気持ちは

白石監督:僕を監督として大きく引き上げてくれた一人。

僕自身、彼が持っているキャラクターと男っぷりの良さとか、いろんなところに男惚れをして、通算5本仕事をしていました。

ニュースの中でも20代から(禁止薬物を)やっているとあったが、少なくとも、仕事している時はそういう兆候は僕にはわからなかった。

薬物を過去の作品で描いている中で、こういうことが起きたのは本当に残念ですし、瀧容疑者のスタッフやファン、家族がどういう思いをしているかは言葉にできない。

本当に今は「馬鹿野郎」としか言いようがないし、これからどういう人生を歩んでいくのかわからないし想像できないが、自分の罪をちゃんと反省して、まずは治療して、人として歩いてほしいという思いしかないです。 

——自粛に関して「行き過ぎ」という話もあった。公開にあたり、コンプライアンスやリスクマネジメントという観点で問題ない、という判断か

多田社長:ここ10日間くらい、製作委員会と社内で話し合った中で厳しい判断をしていったんですが、マニュアル的にやることが果たしていいのかという疑問は持っている、という意味です。

コンプライアンスという意味であれば、社内でも「公開はおかしいんじゃないか」という声はあるかもしれませんけれども、真摯に説得してまいりたいと思います。

また、少々株価が落ちるかな、ということは覚悟しております。

白石監督:僕からも一つ。逮捕されている現状で、公開をどうするか協議するのは当然で、そこで撮り直しをするか公開するか、その判断は各映画会社の判断するのがいいと思います。

あと、過去作ですよね。過去作まですべて選択の余地がないようにするのはさすがにどうなんだろうと思っています。

やっぱり、世に作品を放って公開も終わった状態であれば、観るか観ないかという判断は、ユーザーやお客様に判断を委ねるべきだと思います。

その代わり、今回はポスターや映画のスタートにテロップを載せたりするんですけれど、そういった注意喚起はあってもいいのかなと思います。

過去作まで一律でなくすというのは、文化にとって損失だと思うので、そろそろガイドラインなり何かを作るべきではないかな、と個人的には思っています。

——作品の中身の確認だが、禁止薬物を使用しているシーンはあるか

白石監督:戦後のシーンで、和田誠監督の『麻雀放浪記』のように、ピエール瀧容疑者ではなく別のキャラクターが当時は禁止されていなかったヒロポンを打っているシーンがワンシーンだけあります。 

——ピエール瀧容疑者側に損害賠償を求める予定はあるか

紀伊宗之プロデューサー:損害賠償については検討しております。先方とのお話も一部始めております。

——前売りの払い戻しはあるか

紀伊プロデューサー:すでにムビチケを売っておりますので、こういう事件が起きたので、不愉快であれば払い戻しは対応します。

——出演者との間の契約上、このような問題が起きた時のペナルティーに関して明文化はされているか

紀伊プロデューサー:契約書ではペナルティーについての明文はされていません。 

——他の出演者と、公開についてやりとりはしたか?

白石監督:事件があってからみんなと会う機会がなかったので特にはない。主演の斉藤工さんとメールでやりとりは少ししました。

『凶悪』に出演したリリー・フランキーさんとは、「何でこんな残念なことになっているのか。あいつは何をやってるんだ」というようなやりとりはしましたが…みんな一様にびっくりしていました。

——損害賠償の対象は。何に対する賠償を請求することになるのか。また、DVDやブルーレイ販売についての対応は

紀伊プロデューサー:現状、まだ製作委員会で協議をしている。

これから、もしかしたら製作委員会から離脱をする会社が現れるかもしれません。その部分に関しては賠償の対象にはなるんじゃないかな、とは思っています。

劇場公開以降の二次利用については、製作委員会方式なのでそれぞれの担当者様の見解をお聞きしながら、今後どのような対応については改めて協議を続けていきます。

「麻雀放浪記2020」のポスタービジュアル
「麻雀放浪記2020」のポスタービジュアル
(C)2019「麻雀放浪記2020」製作委員会

注目記事