「良い母親でいたいから、育児の愚痴は言いにくい...」「出産して、できるだけ早く職場復帰したいと思うのはダメ?」
国を挙げて“女性活躍”が目指される中、母親が感じるプレッシャーは、家庭、職場、社会にさまざまな形で存在する。その背景には、一体何があるのだろう?
ヘアケア/ボディケアブランドの「ラックス」が、この春スタートさせた“ソーシャル・ダメージケア・プロジェクト”(Social Damage Care Project)。キャンペーン第三弾のテーマは、「”良妻賢母”って、なに?」。
4歳と1歳のお子さんを育てる、歌手のAIさん。株式会社10X(テンエックス)の代表取締役で、二度の育児休暇を取得した経験から献立アプリ「タベリー」を企画開発した矢本真丈さん。そしてユニリーバ・ジャパンでラックスを担当、3歳のお子さんの母親でもある緒明彩さんの3名による座談会が実現した。
母親、父親、娘、夫...。3人がそれぞれの立場から考える、“良妻賢母”の今、とは?
親になって気付いた、母親の「いたみ」
緒明さん(以下、緒明) 日本でも女性活躍は目下の課題ですが、女性、特に母親であることによって「いたみ」を感じたり、何かの「壁」になってしまうケースがあるというのが現状です。
今日は「“良妻賢母”って、何?」ということを、お二人と一緒に考えたいと思います。
AIさん(以下、AI) 私が生まれた頃と今の日本の社会は全然違うから、「これが良妻賢母だ」っていうのは一概には言えないと思うんですよね。
私は鹿児島出身なんですけど、近所の集まりなんかがあると父親と母親は席が別々だったんです。「九州男児」たちはワーっと飲んで、台所に立って料理やお酒の準備をするのは女性の役目。うちのママは外国人だし、その価値観に慣れるのは本当に大変だったと思います。
時代、環境というのもあるけど、今は働いている女性もすごく多いから、家庭内での役割分担も平等にしていくべきですよね。
矢本さん(以下、矢本) その通りだと思います。僕は2014年、長男が生まれた時に3ヶ月の育児休暇を取ったんですけど、本当に考えが変わりましたね。
立ち会い出産で「こんな死にそうになりながら産むのか」と初めて知ったし、夜中、授乳のタイミングで一緒に起きて寝かしつけを替わったりしましたが、結局僕だと泣き止まなかったことも。自分が妻や子どもに対してできることがあまりに少ないんだということを痛感しました。産むことはできないし、母乳も出ないし、育児で力になれることは限られている。だからこそ、せめて家事の負担はゼロにしようと。そうした思いが、献立アプリ「タベリー」の企画開発につながりました。
AI それは最高ですよ!家事がゼロになるのが、どれだけ助かるか...!
矢本 あとは、子どもの命への責任感の捉え方が妻に比べて非常に弱かったなと反省しました。「この命は、少し目を離したら失われるかもしれない」という危機感を、妻は僕と比べ物にならないくらい感じていたんですね。産後少し落ち着いてから妻に聞くと、これが一番しんどかったと。自分はそんな大切なことにも気づけなかったんだと落ち込み、妻に申し訳なく思いました。
AI 母親は出産までの10ヶ月も本当に大変。私は妊娠中も出産後も、取材のときに愚痴とか文句ばっかり言ってました(笑)。
世の中のママたちは我慢強いから、愚痴も不安も自分の中で抱えたり、ママ友だけで共有したりする。でも私は、外に向かって声を大にして言って欲しいんですよ。発信しないと、気づいてもらえないから!
緒明 それこそ、「母親だからこんなこと思っちゃいけないのかな」というプレッシャーもありますよね。
家庭にも職場にも存在する、無意識の”良妻賢母”
AI 母親になって思ったのは、大変さを知らない人に伝えることが大切ということ。
自分の父親に「ダダ、子育てって本当に大変だね!私をこんな風に育ててくれたの?」と言ったら、「ちょっと手伝ってあげようかな」という気持ちになって協力してくれるんです。私を育てる時にはあまり参加できなかったけど、孫の世話をして気づくことがいっぱいある。
よく近所の人に「家の鍵を開けたいので、一瞬だけ、自転車の子ども見ていてもらえますか?」ってお願いするんですけど、それで「子育てってそんな暇もないのか!」と知ってもらえる。母親の大変さをどんどん発信していくことで、育児もしやすい環境になるんじゃないかな。
緒明 そうした「気づき」を増やしていくことで、母親に対するプレッシャーも無くなっていくかもしれませんね。
我が家も共働きですが、実家に預けた子どもを仕事帰りの夫が迎えに行くと「なんであなたじゃなくて旦那さんの方が先に帰って来るの?」と自分の両親に言われて。「あれ、母親がやらなきゃいけないんだっけ?」と感じたことがあります。
家庭でもキャリアでも、女だから男だからというのは、本当は関係ないはずなんですよね。ラックスが “ソーシャル・ダメージケア・プロジェクト”の一環として、履歴書からジェンダー要素をなくす取り組みをスタートさせたのも、そういう思いがあったからです。
矢本 企業の動きを見ていると、「管理職の女性比率を●%にする」という目標ができて、その真の価値よりも企業事情が優先され、女性を管理職に登用するという話も聞きます。しかし、それは根本的な解決ではない。「いたみ」や「壁」を取り除いて、女性が自分らしく働ける環境を作っていくことが必要だと思います。強いては女性だけの話ではなく、例えば何かしらのハンディキャップを感じる、あらゆる人が自分らしく働ける環境が必要だと思っています。
自分の会社は、社員の7割が未就学児を持つ父親・母親。早く帰ってパートナーや子どもと過ごす時間を持って欲しいので、5時に終業、6時には施錠しています。今はテクノロジーのおかげで家でできる仕事もすごく増えているし、少しずつ「母親だから、父親だからできない」という壁を壊していけるといいのかなと。
4時起きで家事をしているのに、妻が不機嫌なワケ
AI 矢本さんのように、母親の気持ちを分かってくれる人がいるだけでいいんですよ。それだけで、文句も愚痴も言いやすくて、話し合いの機会も持てますよね。
我が家は、夫も私も子どものお弁当を作りたい派。朝の準備をしていたら、私が卵焼きを作っている隣で夫も作っていて、「おい!それもう作ってるから!」なんてことも(笑)。お互いやりすぎても衝突しちゃうんですよね。それはパートナー、家庭にもよるから、まずは「自分は相手に何をしてほしいのかな?」という整理が必要。そのためにも、文句を口に出すって大切なことだと思います。
矢本 僕、毎朝4時に起きて洗濯したり、朝ご飯の支度したりするんです。自分では結構やってる方だと思ってたんですけど、なんか妻の機嫌が良くないなと思って...。それで話を聞いたら、「私は1日、完全にフリーな日がほしい」と言われてハッとしました。求めることって人によって違うし、夫婦でも話し合わないと分からないものなんですよね。だからAIさんが言う通りどんどん声に出してほしいし、より積極的にコミュニケーションをとるべきです。
“令和の良妻賢母”って何だろうって考えたときに、この言葉自体、捨てちゃえばいいなと思うんです。その言葉の存在がプレッシャーだし、性別や立場に伴う「壁」の原因になっている気がして。
「私、良妻賢母目指してます!」なんて口にすることないですけど、周りに対して“良妻賢母”であるように見せなきゃ、という見えないプレッシャーがあるように感じますね。
一人ひとりが社会を変える力に
AI あえて言うなら、母親である私たちが「自分らしい自分ってなんだろう?」と考えて、「こうありたい」と思って目指す姿が、これからの“良妻賢母”なんじゃないかな? 私の場合は、素直さと笑顔...って言いながら、今朝も子どもに「何やってるのー!?」って怒鳴っちゃったんですけど(笑)。夫と子どもに笑顔で「おはよう」「行ってきます」を言うとか、愚痴も文句も「愛してるよ」も素直に伝えるっていうのは、ずっと大切にしてるかな。
自分の目標を貫くのは大切だけど、すごく難しいこと。家族や周りの人に対して「この人頑張ってるな」と思わせるくらい貫いて、自然と応援したり、協力したりしてくれる人が増えれば、育児も仕事もすごくやりやすくなると思います。
緒明 女性の生き方って一人ひとり違うはずだから、お互いに目指しているものや求めているものに気づくためにも、ちゃんと言葉にすることが大切なんだなと、お二人の話を聞いていて思いました。
矢本 家事や育児に参加するほど、僕は自分がいかに無力なのかということを痛感しました。それに、今はこんなにテクノロジーが進んでいるんだから、「できない理由がある?」と旦那さんに問いかけてみてください(笑)。
AI 私が子どもの頃は「ランドセルは女の子が赤で、男の子は黒」のような、見えないルールがありましたが、「母親はこうじゃなきゃいけない」という押し付けられる“良妻賢母”もその一つ。もちろん考えは人それぞれ違うから、夫婦でも、そうでなくてもぶつかりながら、いろんな母親像や妻像があることに気付いて行けたら良いですよね。
日本のジェンダーギャップは、他の国と比べたら出遅れているのかもしれない。でも、「男は働く、女は家庭」というのが常識だった頃と比べたら、遅いけれど確かに変化はしている。こうして私たちが話すことも、一人ひとりがSNSで発信することも、必ず何かのきっかけになると思います。
全国のママさんは、旦那さんにも、仕事仲間にも、近所の人にも、性別、立場関係なく、いろんな人に愚痴を言ってくださいね。そこから夫婦や、「気づき」を得た周りの人も。みんなの力が集まれば、社会は大きく変わるはず。
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「性別」「見た目」「年齢」「職業」「家庭」...。さまざまなフィールドに存在する“見えない壁”。
ラックスはソーシャル・ダメージケア・プロジェクトを通じて、こうした壁への「気づき」を発信し、全ての女性が、今以上に輝ける社会の実現を目指していく。