「若いのに、仕事頑張ってすごいね」「もういい歳なのに、まだそんな夢見てるの?」
社会から向けられる、「まだ早い」「もう遅い」。見えない壁を作り出しているものは、一体なに?
ヘアケア/ボディケアブランドの「ラックス」がスタートさせた“ソーシャル・ダメージケア・プロジェクト”(Social Damage Care Project)。キャンペーン第四弾のテーマは、「年齢は、何かの『期限』じゃない」。
20歳で芸能界デビューし長年活躍を続ける一方、48歳で大学編入試験を受験、現在50歳で大学生でもある俳優の水野真紀さん。23歳で株式会社arcaを設立、同社CEO、クリエイティブディレクター、さらに報道番組への出演も務める24歳の辻愛沙子さん。年齢や性別にとらわれない輝きを体現してきた二人の対談が実現した。
その活躍の裏で、二人はどんな「壁」に直面し、どのように乗り越えてきたのだろう?
年齢の「壁」を作ってきたのは、一体なに?
水野さん(以下、水野) 30年ほど前は「女の子は就職の良い短期大学を出て、”適齢期”になったら職場結婚して...」という雰囲気が残っていて、疑うことなく短期大学に進学しました。20歳の時に芸能の仕事を始めましたが、27歳までに俳優として認められていなかったらお見合い結婚して引退しようと思っていたくらい(笑)。今思えば、社会の「当たり前」とか「年齢」に、すごくとらわれていましたね。
この歳で大学生になるなんて、30年前は考えてもみなかったですから。「何歳までにこれをしよう」という目標設定ができるようになったのは、思い返してみると、仕事が私の考え方を変えてくれたのかなと思います。
辻さん(以下、辻) 私も仕事を通して学ぶこと、考えさせられることが多いです。
大学在学中、21歳の頃に今CEOを務めているarcaの親会社である株式会社adotでインターンを始めて、2週間でスピード入社することになったのが私のキャリアの始まりです。インターン数日目で、あるプレゼンに同行させてもらったとき、社長も上司も建前的ではなくフラットに「辻はどう思う?」と聞いてくれたんです。年齢や、学生、インターンであることに関係なく。それがすごくうれしかった。
その一方、「若いのに、女の子なのにすごいね」と言われたり、ビジネス系の討論番組に出演させてもらうと「見た目によらずしっかりしてるんだね」と言われたり...。この年齢で仕事を頑張ることや、髪色が明るい女性が深い議論をすることがそんなに珍しいのだろうか、というのを周りから感じさせられることがすごく多い。
水野 私は結婚当初、周りからは「相手が政治家なら仕事はセーブして、ご主人のお手伝いを?」と言われたけれど、私は仕事を続けたいと思っていたんです。夫は「どうぞ仕事を続けて」と言ってくれたし、義父母や周囲の理解もあり、本当に恵まれていたと思います。
実は私、20代半ばで、当時付き合っていた人からのプロポーズをお断りしたことがあったの。当時としては、 いわゆる“適齢期 ”だったのだろうけど、まだまだ働きたいという気持ちが勝って。その時初めて、自分に仕事を続けたいという意思があることに気づきました。
辻 年齢って、自分自身で制限をかけるというより、周りの目で意識させられることが多いんですね。逆に、水野さんの場合はパートナー、私自身は上司がすごくバックアップしてくれたので、年齢にとらわれずに行動できている。周りの存在ってすごく大きいなと。
キャリアだけじゃない、年齢や性別の押し付け
水野 女性ならではの「壁」もありますよね。出産にはどうしても年齢的な限界があるし、どういうライフプランを描くのかということにも関わってくる。
辻 キャリアのあり方も変わってきて、年齢に左右されるべきではない、というのが少しずつ根付いている一方、体は変えられない。企業や社会が正しい知識を発信し、制度面でサポートすることも、女性のキャリア支援では必要なんじゃないかなと思ってます。
水野 妻、母親という視点だと、「行きたいけど、食事を作らなきゃいけないから...」とか、「家族の目が気になるから、参加しないでおく」という声を周りでよく聞くんです。これが現実。
「女性は妻や母親になったら、家事や育児に努めるのが当たり前」という周囲の雰囲気に応えようとしてしまう。私たちの世代が、この「呪縛」に縛られた最後の世代かもしれない。でも、縛られている間に社会はどんどん変化していました。今は友達と「これからは、自由にやりたいことをやろうよ」と話しています。周りに作られていた壁は、もしかしたら自分達で作っていたのかも。だったら、自分達で壊すしかない。
辻 水野さんがおっしゃる通り、壁を壊していく声ってすごく大切だと思います。
中高生の頃は原宿系のファッションが好きで、パステルカラーに身を包んで、厚底の靴を履いたりしていました。生活スタイルに合わせて自然と着たいものも変化していますが、好きなもののルーツは変わらず、今でも少し癖の強い服装が好きだったりするんです。今、髪色を紫にしていて。こういう服装で報道番組に出ると「24歳でそんな格好するな」っていうコメントが稀に来ることもあって、社会にはまだまだそういう意見があるんだな...と。
「当たり前」は、確実に時代の流れとともに変わっていく
水野 見た目に関して言うと、随分前から「劣化」という言葉がよく使われる。歳をとれば性別に関係なく、みんなシワもシミもできますよね。なのに、どうしてそれをいちいちネタにするんだろう?
辻 10代の女性アイドルが濃い色のリップを塗ったら、ファンから「そんな色はまだ早い」「若いのにケバい」って言われたという衝撃的な出来事が以前SNSで話題になって。かと思えば、ある女優さんは「この年齢なのに、10代のように幼く見えて可愛らしい」と称賛される。「若いのに」「この歳なのに」という視点がすごく奇妙ですよね。
あるミュージシャンの方が、「この年齢になって、初めて自分が作りたい曲を作れた。続けてきてよかった」とインタビューで話していたんです。水野さんの学び直しもそうですが、年齢を重ねること=人生の経験が増えていくこと。そんな先輩たちを見ていると、年齢を重ねていくことが楽しみになります。
水野 大学で勉強していると、「今、この話を聞けて良かった」「今、この人に出会えて良かった」と思うことがとても多い。若い時だったら、こんな風に気づけなかったと思うんです。ただ、第二外国語を60歳で学び直すのは、私には自信がないかな(笑)記憶力とか、体力という意味でもね。私にとっては今がベストタイミング。
タイミングって、自分の気力、体力、能力...いろんなポイントから推し量って決めるもの。「まだ早い」とか「もう遅い」って、自分が決めることなんですよね。
辻 10代と20代、同じ「若者」でも、使ってるツールも見えてる世界も全然違いますもんね。今こうしてオンラインで対談しているけれど、これが日常になるって思っていた人、そんなにいないんじゃないかな。
スタンダードって時代や環境によってどんどん変化するし、絶対的、普遍的な「普通」なんてないと思います。だからこそ、「私の時代はこうだった」「この年齢ってこうだよね」という声に押しつぶされず、自分自身を指標にするしかないと思います。
水野 辻さんの話聞いて思い出したけど、30年前、友達に「コンピューターをやらないとダメよ。そうしないと、ATMからお金を引き出せないおばあちゃんになっちゃう」って言われたんです。「この歳だからもう...」ではなく、自分が生きている時代に追いついていくという、年齢軸とは別の視点で挑戦することも大切なんですよね。
辻 自分が水野さんと対談する日が来るなんて思ってなかったですから!良いことも悪いことも、未来は不確定要素がいっぱい。その変化を楽しみたいですね。
個人の意識も、企業のアクションも、社会を変える力に
水野 20代の頃から老後のことは考えていたけれど、40代になって「人生100年時代、社会にお返しするにはどうすればいいかな?」と思って、大学に通い直そうと。
大学では、教育やジェンダーの勉強をしています。私たちが小さい時の物語って「お姫様を、いつか王子様が迎えにくる」のが鉄板だったけれど、今は女の子が戦ったり、冒険に出たり...。卒業後は、そうした本を子どもたちにボランティアとして読み聞かせて、社会的性差にとらわれる必要がないことを伝えていきたいと思っています。
若い世代と関わっていると、「今時の若いもんは...」なんて言ってる場合じゃないなと思います(笑)。若者のパワーが、私のパワーにもなっているんです。
辻 水野さんの活躍を見て、私同様に、年齢を重ねることをもっとポジティブにとらえられる若者も増えると思います。
「もう遅い」「まだ早い」っていう壁を作るのは「周り」の目や声だったりするんですよね。でも「周り」は、確実に時代とともに変わっていく。それに振り回されずに、今の自分がどうありたいか、今何ができるのかというのを、自分自身に問い続けたいです。
水野 今の自分が一番楽しい、って思えないとね。「あんな大人って素敵だな」と思わせることも、私たち年長者の役割なのかなって。
辻 仕事やSNSを通して感じるのは、社会問題について考える若者がとても多いということ。いかに社会に貢献しているかという視点でブランドや企業を選ぶ消費者が、今後さらに増えると思います。購入も、就職も。
企業のアクションが、個人の行動も変える時代になってきていると思うので、履歴書から写真欄や性別記入欄をなくし、ジェンダーや容姿でのジャッジをなくしたラックスさんのように、企業が本気の姿勢を見せることで社会全体が少しずつ変わっていくんだろうなって。
水野 企業には、社会を変える力があると思います。女性が自分らしく活躍するモデルケースを企業が増やしていく中で、どうやって経験を積んだのか、その間にどんな壁にぶつかったのかという事例を共有していくのも一つかな。
辻 例えば、女性ばかりのお店に、男性が一人で入るとすごく居心地が悪いですよね。その逆が、今の日本の政治やビジネスの場で起きているんじゃないかと思います。
「女性、頑張れ!」と椅子を用意されても、ベースに「女なのに頑張ってるね」「若いのに、大人なのに...」という無意識の差別、偏見がまだまだある。その「いたみ」に一人でも多くの人が気付くことで、社会が変わる一歩になったらうれしいです。
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「性別」「見た目」「年齢」「職業」「家庭」...。さまざまなフィールドに存在する“見えない壁”。
ラックスはソーシャル・ダメージケア・プロジェクトを通じて、こうした壁への「気づき」を発信し、全ての女性が、今以上に輝ける社会の実現を目指していく。