すべての女性は輝く権利を持っている──。だが、現実はどうだろう?
2019年12月に発表されたジェンダー・ギャップ指数では、日本は121位(153カ国中)という過去最低の結果が出た。これは女性だけではなく、社会全体の問題だ。
そんな現状を踏まえて、ヘアケア/ボディケアブランドの「ラックス」を展開しているユニリーバ・ジャパンが、この春、“ソーシャル・ダメージケア・プロジェクト”(Social Damage Care Project)と名付けた新たな取り組みをスタートさせる。そのキャンペーン第一弾として、冨永愛さんと井原慶子さん、そしてユニリーバ・ジャパンでラックスを担当する河田瑶子さん3名による座談会が実現した。
15歳からファッションモデルとして活躍を続ける冨永愛さん。レーシングドライバーとして世界中のサーキットを転戦し、現在は日産自動車の社外取締役も務める井原慶子さん。
性別にとらわれることなく、自らが選んだフィールドで輝かしい功績を残してきた2人は、職業と性別の関係性をどう捉えているのだろうか?
男社会の自動車業界、ジェンダーレスなモデル業界
河田さん(以下、河田) 「ラックス」は「女性の髪や肌を輝かせる」ことで、女性が自分に自信を持ち、社会で自分らしく輝くことを応援してきました。
ですが、今の社会で女性たちが本当に輝けているかというと、とてもそうとは言い切れません。性別に関係なく評価される社会にしていくために、企業や個人はどうすればいいのか、それぞれの業界で活躍されてきたお二人とお話しできればと思います。
井原慶子さん(以下、井原) 私が「レーサーになりたい」という目標を抱いて社会に出たのは約20年前。就職活動の段階から「自動車業界って男性社会なんだ」と感じていました。
でも私が25歳でカーレーサーデビューすることが決まったときは、周囲からすごく歓迎してもらえたんです。多分、“賑やかし”のように思われていたんでしょうね。
ところがレースで良い結果を出すようになったら、途端に意地悪を言われるように。結果を出しても、素直に実力としては認めてもらえませんでした。一方で、結果を出さなければやっぱり女性には無理だと言われる。どう転んでも女性が活躍しづらい社会だと痛感しました。
冨永愛さん(以下、冨永) 私の場合は、井原さんと対照的かも。
15歳でモデルになって、17歳で初めて海外コレクションに出たのですが、そこで感じたのはジェンダーレスな人が大勢いる業界なんだな、ということ。モデルだけでなく、ヘアメイクアーティストやフォトグラファーもそう。10代の私はそのことをすんなり受け入れていました。そういう意味で、私自身はジェンダーによる困難を感じたことはないんです。
井原さんは「女性」というだけで評価されづらい環境の中、どんな風に“壁”を乗り越えたんですか?
井原 私は海外に出る道を選びました。カーレースの本場であるイギリス、フランスに渡り、挑戦の場を欧州に移したんです。
そこでは性別に関係なく、結果を出せば素直に評価してもらえた。そういう意味では、実力が問われる厳しい世界。ジェンダーレスなファッションモデルの世界も、そこは近いのではないでしょうか。
冨永 そうですね。実力だけで評価される世界という点では一緒です。
多様な働き方を受け入れることが、企業の発展に
井原 私は自動車産業に20年間身を置いてきましたが、日本社会においては、昔も今も「女性が活躍しづらい」業界である点はあまり変わっていません。
世界選手権を転戦する中、帰国してLove drive株式会社を起業したのはその問題を解消していくためです。自動車産業でも女性の活躍を推進していきたい、そのためには意思決定の場における女性の割合も増やしていきたい。そう思ってさまざまな活動に携わってきたのですが、残念ながら女性側の責任“意識”が欠如しているケースも多く見てきました。
ただ、それは女性個人の問題だけではない。例えば企業で管理職候補として上司に育ててもらう機会は、これまで男性に多く与えられてきました。育成対象として機会を与えられることによって徐々に責任意識のような、やり抜く力も芽生えるものだと思いますが、日本ではそういった機会を継続して与えられた経験がない、という女性が少なくない。
冨永 それってきっと、どう生きたいかという価値観とも関わっていますよね。仕事に全力投球したい人もいれば、プライベートを充実させたい人もいるはずだから。
井原 その通りですね。
女性は、出産などライフイベントも多く、その度にどう生きたいかという価値観も変わっていく。そうした変化を受容できる働き方を組織が準備できれば、多様な価値観や知見・経験を持った人材が集まり、企業は発展していく。様々な働き方があれば、女性もチャレンジできるし、その経験の中で自信を獲得して活躍できると思います。
日本の社会がこういった労働市場の流動性に慣れていく必要があり、個人も様々なキャリアを通して、必要とされる能力と責任意識に磨きをかける。企業も個人も変化への対応力が問われる時代ですね。
「私には責任ある立場なんて無理です」と引いてしまう女性が多いのは、女性に責任“能力”がないのではなく、責任“意識”を育成する機会がなかったことに原因があるのかなと。
冨永 生まれ育った社会の中で、無意識レベルで刷り込まれてきた価値観が“見えない壁”を作ってきたのでしょうね。
履歴書からジェンダー要素をなくす?
河田 ラックスは “ソーシャル・ダメージケア・プロジェクト”の一環として、まさにその無意識レベルのジェンダー観を取り除こう、という試みを始めていくつもりです。
企業と最初の接点となる採用の段階で、履歴書からジェンダー要素をなくしていく。そんな取り組みを、新卒・中途採用ともに2020年3月6日以降の採用プロセスから導入していきます。
冨永 履歴書から性別欄をなくす、ということですか?
河田 性別、顔写真、下の名前。これらを履歴書からなくします。さまざまなリクルートエージェントの協力と理解を得て、ジェンダーに関する情報を一切なくした上で意欲と能力のみにフォーカスしていく、という狙いです。
人事担当者の目に性別の情報が写らないようにするため、性別に関連する項目をマスキングする担当者も立てるつもりです。
冨永 面白そう。日本はこれくらい思い切ったことをしないと変わらないと思います。
でも、採用の結果として9割が女性になったら、企業側も大変になるのでは? 産休や育休、復帰後の制度を、会社としてもちゃんと整えておかないといけませんよね。
河田 おっしゃる通りです。女性側はもちろん、男性側も、育休制度なども含めてサポートできる土壌を整えていかなければと考えています。
井原 私もすごく面白い試みだと思います。企業も、自治体も、国も、生き残っていくためには、今のままでは難しい。そういう分岐点に来ているからこそ、新しい採用方法の試みには価値があると思います。
Love driveでは履歴書を使わず、真っ白な紙を渡して「自由に何か書いてください」とお願いしています。顔写真をつける人、つけない人、マンガを描く人もいます。クリエイティビティが発揮されて面白いですよ。
私、日本の履歴書文化って通知表の延長線上にある気がするんです。5段階の評価で認められてきた人は、やっぱりあの形式に安心するんでしょうね。
冨永 学校教育も、数字で測れる部分以外のことにもっと目を向けていくべきですよね。ふるいにかけて落としていくのではなく、一人ひとりの個性を伸ばしながら、全員を引き上げていく。そういう考えの方がずっといいと思う。
性別という枠組みに関係なく、一人ひとりが輝ける場所に
井原 コミュニケーション力、公正さ、共感傾聴力など、そういった数値化されづらい部分は今後、より重要になってくるはず。これだけ社会が変化しているのに、成績評価と学歴だけで採用を決める、ということにはもう無理があると思います。
企業には変わっていく責任があります。社員の能力をどう活かしていくか、そのために評価基準や採用のあり方をどうしていけばいいか。そのことを柔軟かつスピーディーに意思決定できる組織でないと、この先、生き残れないでしょう。
冨永 変わっていかないといけないのは、企業だけではなく個人も同じですよね。
私はモデルとして海外に出て、さまざまな国の文化や習慣、人となりを受け入れながら、自分はどうあるべきか、どう行動を起こせばいいか、どうすれば自分の居場所をつくれるかということを、いつも真剣に考えていました。
私がいるファッション業界では、さまざまなセクシュアリティを持つ人たちが、ジェンダーに関係なく活躍しています。私にとってはそれが当たり前のことだし、日本社会もちょっとずつそういった方向に変わってきていると思います。
井原 仕事の向き不向きは当然ありますよね。でもそれは本当ならば、性別とは関係のないこと。
だから、性別という枠組みは一旦脇に寄せて、個人の能力やモチベーションという視点から、職業を選んだり、スキルアップを考えてみたりすると良いのではないでしょうか。企業と個人、それぞれがそういう視点で行動できるようになれば、本当の意味で一人ひとりが輝ける社会へと変化していけると信じています。
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「性別」「見ため」「年齢」「職業」「家庭」...。さまざまなフィールドに存在する“見えない壁”。
ラックスはソーシャル・ダメージケア・プロジェクトを通じて、こうした壁への「気づき」を発信し、全ての女性が、今以上に輝ける社会の実現を目指していく。