化粧品メーカーは世界を変えるのか。LUSHの挑戦

「動物実験ゼロ」を目指す、ラッシュプライズとは

イギリスの化粧品メーカー「LUSH」(ラッシュ)は挑戦している。世界を変えるために。

EUでは2013年、動物実験を用いて開発された化粧品の販売が全面禁止された。近年は、動物に苦痛を与える動物実験に対して、国際的に非難が集まっており,動物を使用しない代替法が検討されている。

日本では、化粧品大手の資生堂などが社内外での動物実験の廃止をしているが、動物実験をめぐる動きは議論が進んでいないのが現状だ。

そんななか、LUSHは、動物を使用しない安全性試験の導入を実現させるための取り組みとして、イギリスの消費者団体と共同で2012年、「LUSH PRIZE」(ラッシュプライズ)を設立した。

動物を使用しない実験分野で、世界中の研究者やプロジェクト、研修、ロビー活動などを表彰しており、1回の賞金総額は世界最大規模の33万ポンド(約4600万円)に上る。

ロンドンで開催されたラッシュプライズ授賞式の様子
ロンドンで開催されたラッシュプライズ授賞式の様子
LUSH

2017年のラッシュ・プライズの授賞式が11月中旬、ロンドンで開催され、「サイエンス部門」は、「生体機能チップを組み立てる3Dバイオプリンティングの開発」をアメリカ・ハーバード大学が受賞。日本からは、高崎健康福祉大学の小山智志氏が「若手研究者部門アジア」を受賞した。

化粧品メーカーが動物実験の代替法を後押しする理由は? この賞は研究者にとってどんな意味があるのか。受賞者の声やLUSH創立者の思いと合わせて紹介する。

若手の研究者にとって「研究資金は大事」

小山さんは、ヒト由来の材料を用いて肝臓における代謝酵素の変動を評価する実験法を構築することを目的に、本賞に応募したという。

「若手研究者部門アジア」を受賞した高崎健康福祉大学の小山智志氏
「若手研究者部門アジア」を受賞した高崎健康福祉大学の小山智志氏
LUSH

小山さんはハフポスト日本版に対し、「いろいろな研究をしているなかで、肝臓の研究が代替法に応用できるかもしれないと思い応募しました」と語った。約150万円の賞金は大学での研究費として使われる。

小山さんは「私の研究分野は医薬品。動物実験を廃止していこうという動きが活発なのは化粧品」と前置きした上で、「医薬品は、新しい物質を作り出して、それを飲んで体に作用させるもの。いきなり人に(投与)は難しい。でも今後は、ヒトの細胞を使って生体に近い実験系を作っていくことで、投与した際のリスクを評価する動きも進めばと思います」と語った。

小山さんは、研究者にとって「研究資金はすごく大事」と本音を明かす。

「研究者としては、実験をした方がデータが取れて論文が書けます。その論文で研究資金が得られる。ラッシュ・プライズのように、この研究費(賞金)では動物実験してはいけませんという枠組みがあると変わっていくかもしれません」

「ヒトの効果や安全性は、ヒトの組織や細胞で評価を」

2016年にラッシュプライズの「若手研究者部門アジア」を受賞した、現・京都大学大学院の辰己久美子さんは、当時、自身の研究促進のために応募したという。

ハフポスト日本版のメールインタビューに対し、「患者治療という場面で、効果や安全性を治療前に評価する必要性から代替法に興味を持ちました」と語った。

辰己さんの目的は、動物実験の廃止ではなく、あくまでひとりひとりの身体で起こる効果や安全性をいかに評価するか。「ヒトの効果や副作用の評価を行うには、ヒトの組織や細胞を用いた評価方法が必須です」と語った。

また、「日本では、欧米と異なり、ヒト組織の入手は困難。必要な研究者が誰でも、ヒト組織や臨床情報を利活用できる社会システムが必要と考えます」とコメントした。

「代替法の推進、世界的なネットワークを」

ラッシュプライズは、2012年に創設され、賞金総額はこれまでに180万ポンド(約2億5000万円)に上る。

イギリス発祥の化粧品メーカーであるラッシュは、オーガニックな原材料を生かして商品を手作りしている。日本では神奈川県の工場で生産するなど地産地消にこだわり、人、動物、環境に配慮したビジネスを展開。設立当初から、化粧品ブランドながら一切広告費もかけず、チャリティや社会貢献に取り組んでいる。CSRの一貫ではない。

LUSH創立者のマーク・コンスタンティンさん
LUSH創立者のマーク・コンスタンティンさん
LUSH

LUSH創立者のマーク・コンスタンティンさんは、「社会貢献な側面とビジネスをくっつけるべきだという国をひとつ挙げるとしたら、それは日本です。忙しく働いていて、いつやるんですか? やりがいのあることをするなら、職場でやるしかない」とコメントした。

ラッシュジャパンの広報、小山大作さんは、「今年は世界の39カ国から応募があり、11カ国から選出されました。代替法の取り組みを進めている世界の研究者や団体が、ネットワークする場になればと考えています」と語る。

ラッシュプライズ2017の受賞者たち
ラッシュプライズ2017の受賞者たち
LUSH

「動物実験の廃止」のために、賞金を提供して、世界の研究者や団体を巻き込み、各地域のロビー活動も後押しするラッシュ。CSRではない。企業として、社会問題を解決しようとする本気が見えた。

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ハフポスト日本版は、ラッシュジャパンより招待を受け、今回の授賞式に参加しました。

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