住宅ローンを抱えて被災した時のために、今、多くの人が知るべき『制度』がある

熊本地震から2年。今、住宅ローンを抱えて被災した人はどうしているのか

熊本地震から2年。今、住宅ローンを抱えて被災した人はどうしているのか

熊本地震から2年。現在、熊本地震での避難者数は、38,112名(平成30年3月31日熊本県HPより)。阿蘇郡市では3,288名である。熊本地震から2年が経過した今、被災した人々は、今後どのように自宅再建を果たしていくのであろうか?

阿蘇西原新聞が実際に直面した深刻な状況

阿蘇西原新聞は、西原村に自宅を新築して2年1ヶ月で被災した。建物こそ新築で頑丈だったものの、宅地内の道路が崩壊し、その影響で建物が傾いてしまった。傾いた建物を修繕するためには1,000万円以上の予算がかかるという厳しい現実があった。そこで頭を悩ませたのが住宅ローンである。

当時、スタートしたばかりの3,000万円ほどの住宅ローンを抱えていた。多額の住宅ローンのうえに、さらに1,000万円以上の修繕費。まだ幼い子どもたちを抱えて『二重ローン』になるのか・・・と、住宅ローンの存在が生活再建の重い足枷になることは簡単に想像できた。そのため、被災した住宅ローンをどうにかしなければならないことは、生活再建を果たす上で最重要課題であった。熊本地震後、避難所で過ごしていると携帯電話のSNSから『とある情報』が流れてきた。とある情報とは、ある『制度』についてのことだった。藁にもすがる思いで、その『制度』について知ることから、生活再建に向けての一歩がスタートした。

家族の思い出がつまった自宅が解体されていく姿は心が引きちぎられる思いだった
家族の思い出がつまった自宅が解体されていく姿は心が引きちぎられる思いだった
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今から住宅ローンを抱える人にも知って欲しい『制度』がある

住宅ローンを抱えた人が被災した場合、そのローンはどうなるのだろうか?

阿蘇西原新聞独自のSNS上の調査によると『災害で被災してしまった場合、住宅ローンはどうなるか知っていますか?』という問いに『知っている』が31%、『知らない』が54%、『分からない』が15%という結果となった。なんと、69%の人が『住宅ローンを抱えて被災した場合の手段を知らない(分からない)』ということになる。これは驚愕の数字だった。

阿蘇西原新聞が避難所で生活していた時、藁にもすがる思いで『知ること』からスタートした、とある制度。それは、今は被災していない人、住宅ローンがないという人にも『自分ごと』として知っておいて欲しい『制度』だ。

それが、一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関が公表している『被災ローン減免制度(自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)』である。全ての人に知って欲しい。

『被災ローン減免制度(自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン)』とは

熊本地震から現在まで、この制度について積極的に発信し続け、全国を飛び回る弁護士がいる。熊本県弁護士会災害対策委員会委員長の鹿瀬島正剛(かせじま せいごう)弁護士(弁護士法人リーガル・プロ代表弁護士)だ。

鹿瀬島先生のfacebookでは、常に熊本地震についての情報が発信し続けられている。
鹿瀬島先生のfacebookでは、常に熊本地震についての情報が発信し続けられている。
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「現時点(平成30年5月18日時点)で熊本県弁護士会への被災ローン減免制度の受付は719件です。そのうち、234件が成立し、被災した家屋の住宅ローンの減免を果たしています。特に、自宅の再建を望まれる被災者の方々には、この制度の活用を促し、二重ローン問題を解消することにより自立再建の足がかりとなるように尽力していきたいです」と鹿瀬島弁護士。

住宅ローンを抱えて被災してしまった人たちの大きな希望ともなる『被災ローン減免制度』とは、具体的にどのような制度なのだろうか?

「弁護士会では、当時、最低でも1,000件近くの申し込みがあるだろうと想定していました。でも、思っていたよりも少ない。各銀行は、熊本地震後、住宅ローンを抱える被災者全員に対し、この制度の存在を通知していると聞いています。でも、それがきちんと手元に届いていたか、届いていても理解していたのか、そこが問題です。地震発災から長く時間が経つと、この制度を知らないために、既に払ってしまった人や住宅ローンを組み替えてしまった人がおられます。払ってしまった人についてはどうしようもないのですが・・・住宅ローンを組み替えてしまったという人は、この制度を知った後でも巻き戻すことができるのです。ただ、手続きや解決までの時間がかかるため、面倒で諦めてしまう人がいるのも事実です。本当は制度を使えた人でも使わなくなる人も出てきます。だから、1日でも早く、多くの人にこの制度を知って頂くことが大切になります」

そう語る鹿瀬島弁護士。具体的には、被災ローン減免制度とは・・・

ブラックリストにのらず、一定の財産(最大500万円の現預金など)を手元に残し、原則として連帯保証人への支払い請求がされずに住宅ローンや事業性ローンなどの免除や減額を申し出ることができる制度である。

この制度によって救済され、再建へ踏み出すことができた人々が熊本にも多く存在する。しかし、この制度は全ての自然災害に適用されるという訳ではない。まずは、被災した災害そのものが災害救助法適用の自然災害なのかどうかである(熊本地震は該当する)。そして次に、その自然災害により収入が減少した等の理由で、被災前ローンの支払いが困難になったことが必要である。また、注意すべきなのは『このガイドラインは住宅ローン以外のローン(自動車ローンや学資ローン等)にも使えるということである。そして、最重要事項は、関係する全ての債権者がガイドラインに応じ、そして全ての債権者全てが減免に応じなければ成立しないというルールなのだ。

手続きについては、まずは住宅ローンを組んでいる銀行等から「同意書」を発行してもらい、それから県弁護士会へ正式な申し込みを行う。解決までには最低でも半年以上はかかるが、この制度は非常に希望のもてる制度である。被災し、再建を果たすためには住宅ローンが足枷となる。それが減額となるかどうかは、自立再建に直接的に関係するのだ。

「この制度を知らなかったために使えなかったという被災者の皆さんが家を諦めることはあってはならない。だから私たちは継続して今後もこの制度の周知徹底を続けていきます」。そう鹿瀬島弁護士は話す。そして、熊本県弁護士会では、地震直後から現在まで地震関連の無料相談を継続して行っているのだ。

『1人でも多くの被災者を笑顔にしたい・・・』そんな強い想いを感じる鹿瀬島弁護士は、最後にこう話してくれた。

「熊本地震より前に発生した自然災害よりも絶対に被災者の状況を悪くしてはならない。熊本地震を経験している私たちが、これから起こる災害時のために『いい前例』を作っていくことが重要。だから、制度の中で変えるべき運用については行政に対し積極的に働きかけていく」

実際に、阿蘇西原新聞もこの制度があったおかげで二重ローンを免れた。ぜひ、今はまだ住宅ローンを抱えていない人でも真剣にこの制度を知って欲しい。詳しくは、一般社団法人自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関のホームページ熊本県弁護士会のホームページで確認して欲しい。

この制度を知ることは、いざという時に、自分だけではなく、周りの人の役にも立つのである。

どうか、この制度を1人でも多くの人に知ってほしい。

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