韓国・平昌冬季五輪(2018年2月)をめぐってアメリカが揺れている。アルペンスキーの有力選手が公然とトランプ大統領を批判したかと思えば、北朝鮮問題で連日、各国と交渉にあたっているヘイリー国連大使が、問題に進展がなければ、選手団を派遣しない可能性も匂わすなどしているからだ。
五輪をめぐっては、ロシアが国家ぐるみのドーピング問題で国としての参加を禁止されたばかり。スポーツの祭典であるはずの五輪に、政治的な要因が暗い影を落としている。
「大統領のために五輪に出るのではない」
「私はアメリカ国民を代表して五輪に出場したいのであって、大統領のためではない」。アメリカを代表する女子アルペンスキーのリンゼイ・ボン選手(33)は、12月7日に公開されたCNNのインタビューでそう語った。
ボン選手は2010年のバンクーバー冬季五輪で、滑降の種目で金メダルを獲得。ワールドカップでも優勝を重ね、別の選手が持つ史上最多86勝の記録を更新することも射程に入れている。
ボン選手はインタビューでさらに続ける。「私は五輪をとても真剣に考えている。五輪の意味、五輪によってどんなメッセージを打ち出すのか、そして開会式で自国の旗と一緒に行進することの意味を」「五輪に出場することで、私はアメリカをいい形で示したいが、今の政府の中には、そうしようとしている人が多いとは思えない」
ボン選手が懸念するのは、人種差別を容認しているかのようなトランプ大統領の言動とみられる。トランプ氏は9月、アメリカプロフットボールリーグ(NFL)の選手らが、試合前にあった国歌演奏の際、膝をついたり、腕を組んだりして斉唱を拒否したことを批判した。
ことの発端は2016年、アメリカで黒人や有色人種に対する差別的な事件が起きていることに抗議するため、1人の黒人選手が取った行動だったが、その後同調する選手が続出した。トランプ氏は「高額な報酬を得る特権が欲しいなら国歌斉唱のときは起立すべきだ」などと批判のボルテージを上げたため、抗議活動はほかのスポーツへも波及した。
ボン選手は、平昌五輪で金メダルを獲得してホワイトハウス(大統領府)に招待されても「絶対行かない」と断言した。
アメリカ、五輪参加ボイコットも
一方、ヘイリー国連大使はFOXニュースのインタビューで、アメリカが平昌五輪に選手団を派遣するかどうかは「議論の余地がある問題」と発言。開会までに韓国の隣国、北朝鮮の核・ミサイル開発問題で何らかの進展が見込めなければ、参加をボイコットする可能性を示唆した。
ヘイリー氏は「私たちは何も恐れないし、我が道を行きます」と前置きしながらも、「選手たちの安全を確実にし、五輪で起きているすべてのことを把握できるよう警戒を怠らないようにするのが私たちのやるべきこと」と指摘。国民の安全を守ることが第一との考えを明かした。
平昌五輪をめぐっては、国家ぐるみで選手らにドーピングをさせていたとして、ロシアが国としての選手団の派遣を禁止されたばかり。潔白が証明された選手に限り、「中立選手」として参加できる見通しだが、ロシアを「背負う」ことを禁じられたことへの選手たちの失望は大きく、ボイコット論が浮上している。