「どんな部屋に住みたい?」と聞かれた時、あなたは何と答えるだろうか。
大きなリビングルームや青空の見える大きな窓、駅近で便利、愛犬と一緒に住める……。
どんな答えであれ、ワクワクしながら思いを巡らせる人が多いだろう。しかし社会には、外国籍や生活保護を受けているなどの理由で、住まいの選択肢が限られている人々も存在する。
こうした「住宅弱者」と言われる方を一人でもなくすため、LIFULL(東京)はこのほど、新たな取り組みを始めた。「LIFULL HOME’S ACTION FOR ALL」だ。
あらゆる人の「暮らし方」を改善するために行動を起こそうとするこの取り組みについて、担当者たちに聞いた。
取り組み、SDGsへも
LIFULLはこれまで、事業を通して、様々な社会課題にも意欲的に取り組んできた。「LIFULL HOME’S ACTION FOR ALL」もその一環で、特に国際社会が取り組んでいる「持続可能な開発目標(SDGs)」にも通じる。
その内容は、様々な事情で、安心した住まいが確保できない、住宅が借りづらい人たちに「住まいの選択肢」を広げるための事業だ。
第一弾は二つのプロジェクトからなり、一つは「FRIENDLY DOOR」。外国人やLGBTらの住宅弱者と、彼らに親身になってくれる不動産会社をつなぐプロジェクトだ。
もう一つは「えらんでエール」。ユーザーがLIFULL HOME’Sのサイトで物件を問い合わせると、 画面に応援したい対象の方々が表示され、選択することでLIFULL HOME’Sがその方々の住まいを支援する団体に寄付をするという仕組みだ。
各サービスを生み出した担当者たちの思いを紹介する。
「外国人」を理由に契約を断られる
「大家さんの意向で、契約はできないと……」
LIFULL HOME’S事業本部の龔 軼群(キョウ イグン)さんは大学生の頃、日本に留学したいとこの家探しを手伝ったが、行く先々で入居を断られ続けた。
いとこはある程度日本語もできるし、日本人の保証人もいるのに……。不動産会社の社員は、歯切れの悪い説明を繰り返すだけだった。
「大家さんにはコミュニケーションに関する不安や、友人を連れてきて家で騒ぐのではないかといった心配もあったのだと思います。でも外国人というだけで、部屋を貸さないのはやはり理不尽だと感じました」と振り返る。
龔(キョウ)さんは中国・上海で生まれ、5歳から日本で暮らす。
いとこだけでなく、長く日本に暮らす龔(キョウ)さんですら、一人暮らしの物件探しで何度か断られたそうだ。
こうした自身の経験から「人種や国籍に関係なく、自由に住む場所を選べるようにしたい」と考えるようになった。
家探しに困っているのは外国人だけではない。
同社が男女約1,795人に実施したアンケート調査によると、低所得女性の35.9%、生活保護受給者の50.5%、LGBTの4〜5割が住居の賃貸契約の際に不便を感じたり、困ったりした経験があると回答した。
シングルマザーに家を貸したら、子どもの病気などで働く日数が減った時、家賃の支払いが滞るのではないか、高齢者は認知症などを発症したら、ごみをためるなどして家が荒れるのではないか……。
多くは貸し手の取り越し苦労に過ぎないが「大家さんの多くは、家賃の滞納や他の入居者への影響を考えるあまり、リスクを取りたがらない」と龔(キョウ)さんは説明する。
住宅弱者をなくし、すべての人が平等な選択ができるように
「FRIENDLY DOOR」には、すでに不動産会社520社が参加を表明している。
龔(キョウ)さんは、「仕組み化以外にも外国人入居者向けの通訳サービスや入居サポートサービス、高齢者の異変を家族に知らせる見守りシステムなどがあれば、家主の負担は軽減し、物件を貸すハードルが下がります。生活保護受給者やひとり親世帯を支援するNPOなどと連携し、専門的なノウハウを生かして一緒に取り組んでいきたい」と今後の展望を明かす。
プライベートでは、子どもや難民を支援するNPO法人にも参加している龔(キョウ)さん。
「すべての人が平等に選択肢を持てる社会を実現するのが、私の目標です。特に住まいの領域はまだ挑戦の余地が大きいので、これからもLIFULLで取り組んでいきたいと考えています」と抱負を語った。
あなたの応援(エール)が寄付になる DVシェルターや子どもシェルターの支援へ
一方、「えらんでエール」は、LIFULL HOME’Sで物件の問い合わせをした際、DV被害や虐待に苦しむ子どもなど自らが応援したいと思う対象者を選ぶと、ユーザーに代わって同社がそれらの支援団体に寄付を行う仕組みだ。
喫緊の住居に困っている方々が応援(エール)の対象となり、今回は民間シェルターの住環境の整備(住宅建設費の一部、住宅等修繕費、住宅内で使用する家具・家電、その他住生活に必要なもの)に活用されるという。
「『LIFULL HOME’S』はあらゆる人々の”したい暮らし”を支援します。様々な環境があると思いますが、なかには家を探すどころか、安心・安全な生活すらおぼつかない方々もいる。『えらんでエール』を通じて、こうした方々の住まいにも想いを馳せる、優しい社会になればと思っています」
サービスを担当する新垣優美さんはそう説明する。
内閣府が5月に発表した調査では、DV被害者のシェルターなど民間の95施設のうち8割以上が、財政的な問題やスタッフ不足に悩まされていた。DVに限らず子どもシェルターやホームレスの支援施設なども、資金面で苦労を抱えていることが多い。
新垣さんは「この取り組みで解決できる課題はほんのごくわずかです。しかし、世間の人々が彼らの存在に気付き、支援の輪が広がることで今困っている人たちが、いつかよりよい住まい、理想の家にたどり着けるようになることが最終的な目標です」と微笑んだ。
利益を過度に追求しない 持続可能な事業を
LIFULLは、「あらゆる人が、当たり前に無限の可能性から自分の生きたいLIFEを実現できる社会へ。」を目指し、様々な領域の事業を通して、解決できるよう日々奮闘している。
基幹事業LIFULL HOME’SのSDGsへの取り組みとして「住まい」にまつわる社会課題の解決を目指す。
山田貴士取締役は「当社はすべての住宅情報を公開する仕組みを作り、住まい選びをする人の役に立ちたいという思いから創業され、社会課題を解決するための事業を展開してきた」と説明する。
このため採用に当たっても、龔(キョウ)さんや新垣さんのように「社是である『利他主義』に共感し、人々に笑顔と喜びを提供したいという同志たちを、妥協なく集めている」と、力を込めた。
そして今、同社は成長に伴い、貧富の格差やセクシュアルマイノリティなどへと活動の領域を広げようとしている。
山田取締役自身、様々な事情で親と暮らせない子どもなどと接するうちに「住宅弱者とそうでない人の差は紙一重。何とか支援できないか」と感じたという。
「社会が効率性を重視しすぎたがために、住宅弱者のような『取り残された』人たちが生まれてしまった。一連の取り組みを通じて、当社もSDGsの達成に貢献できるのではないか」と期待する。
最後に山田取締役は、このように語った。
「今後も利益や効率を過度に追及しすぎず、社会課題の解決を事業化することで、より持続可能にしていきたい。既成概念にとらわれず、自由な発想で解決策を提供することで成し遂げられると信じています」
(取材・文:有馬知子 撮影:川越麻未)