あなたの町の図書館は、誰が運営しているかご存知でしょうか?
これまでは、自治体が自ら運営していた図書館ですが、2003年に施行された指定管理者制度により、企業やNPOなどの民間組織に運営を任せることができるようになりました。指定管理者による運営で閉館日が減ったり、開館時間が増えたりといったサービスの向上がみられる一方、数年単位の契約になるため、専門的な人材育成や長期的な計画による図書館運営が懸念され、現在もその導入の賛否について激しい議論が続いています。
そうした公立図書館とはまた違った立場から、我々NPO法人情報ステーションは、民設民営の公共図書館を運営しています。商店街の空き店舗や人が住まなくなった空き家、商業施設や医療・介護施設、マンションの共用部などちょっとしたスペースに本棚を設置し、皆さまから寄贈頂いた本をボランティアで管理をする、誰でも無料で利用できる図書館です。現在、千葉県船橋市を中心に全国で70館ほどを開設・運営しています。
そして2017年度から、私たちが本拠地とする船橋市でも、西図書館を除く3館が指定管理者による運営へと変わろうとしています。年内には指定管理者が決定する予定で、期間は5年間。参考金額として約21億円が提示されています。建物の大きな改装等を予定していないと思いますので、図書館の指定管理としては比較的大きな案件だと思われます。
しかし、我々は公立図書館の指定管理導入に対し極めて否定的です。そもそも行政が取り組む事業や施設という物は、公共性が高く、民間での運営が困難であるからこそ税を財源とし取り組まれているはずです。安易に民間に任せて良いものでしょうか? 民間図書館を運営してきた経験から、指定管理者の問題点と今後の展望を述べたいと思います。
■公立図書館と民間図書館
指定管理者を導入する図書館は全国に増えています。すでに近隣の野田市では2006年から導入され、市川・茂原・流山・八千代の各市でも指定管理となっています。習志野市では大久保図書館以外の4館が指定管理となっています。
今回の船橋市の導入により、千葉県内の公立図書館ではますます指定管理化が進むのではないかと危惧するところです。
情報ステーションの民間図書館は、提携先からの委託費や広告費などの売上と皆さんからの寄付・会費で運営されています。単純に本を貸す、また読む機会を提供するというだけであれば、既に独立採算で継続的に施設を運営するという事は何も公金を使わずともできる事を我々は実証しています。
公立図書館は、図書館法という法律に則り設置・運営されている社会教育の為の施設です。これは本を貸すだけでなく、資料の収集や整理、保存など多くの役割を担っている重要なものです。
交流と読書だけを目的とするならば我々の様なボランティアでも十分ですが、地域の社会教育や生涯学習を担う公立図書館はより広い視野で考えなければなりません。
■ 指定管理と課題
ところで、直営から指定管理にかわる事を民営化と表現する方がいますが、間違っているとまでは言えないものの扇動的な表現ではないかと感じます。
一般に民営化とは、国鉄がJRになったり総務省の郵政事業が日本郵便になったりといった事をイメージするかと思いますが、指定管理は管理を民間企業等に代行させる行政処分です。ですので、今回の様に船橋市図書館が指定管理になったからと言って、管理をする職員は変わっても、船橋市図書館である事は変わりません。
ちなみにこの管理・運営を代行する事ができるのは民間企業だけでなく、NPO法人なども可能な場合が多いです。法律上は個人でなければ指定管理者になる事ができますので、任意団体でも可能ですがそれぞれの募集要項等で要件が変わってきます。
さて、それでは今回の本題である図書館の指定管理について考察したいと思いますが、あくまでも否定的な立場からの意見として読んでください。
まず、現場の職員が行政職員から指定管理者に変わります。ここでは「弾力性や柔軟性のある施設運営」という建前で、民間の力を活かすといわれることが多いですが、規則などに阻まれ柔軟な運営が必ずしも可能とは限りません。この点に関しては、中の人が変わっても看板は変わりませんし、新たなトラブルを回避したい行政側がブレーキをかけてしまいがちです。加えて、行財政改革の名の
もとに運営費の削減も同時に求められます。そして決められた期間後に再度その企業が指定される確約はありません。よって、今までよりも少ない費用でより良いサービスの提供が求められますが、新たなチャレンジは中々認められませんし、期間が決まっているので大きな投資や長期的な取り組みは非常に難しくなります。能力をしっかりと見極め、期間の長期化や裁量の拡大など、指定管理者の力を十分に発揮できる環境整備を行政ができるかが、公立図書館発展へのカギとなるでしょう。
次に、長期的な人材育成も課題です。指定管理者にとっては、期間満了後の不安がありますので正規で職員を増やし教育するのは困難です。
同時に行政職員にとっても、現場を離れてしまう事で専門性が薄れてしまう可能性があります。もし仮に指定管理者が期間満了後に継続せず、誰も応募しない様な状況となったとき、質を維持したまま直営に戻す事ができるでしょうか?
能力は知識と経験によって培われます。どちらか片方ですべてを補うのは不可能です。現場を知りまわりを見ることのできる職員が育たなければ図書館は良くなりません。
その為には、指定管理者と教育委員会、また図書館協議会などとの密なコミュニケーションと信頼関係が重要となってきます。
最後に、これは指定管理に限った話でも無いと思いますが「市民の声」をきくべきだという意見です。実際はともかく民主主義国である我が国において、主権者である市民の声というのは大切にしなければなりません。しかし現場の職員となる指定管理者に市民の声を聞けと求めるのはいかがなものでしょう?
図書館を設置している地方自治体は、根拠となる法の下に事務の処理と行政の執行を行っています。その法や条例は議会において制定されます。その議会での承認を必要とする指定管理者は、あくまでも行政処分により代行する存在です。市民の声を聞くべきは議会などの意思決定機関であって、彼らが民意を汲みながら公共性や社会のあり方などを総合的に判断し、行政やその代行をする指定管理者に執行を求めるべきだと考えます。
そうした衆議を重ねなければ、目の前の声の大きな人に左右され本質を見誤る事になるでしょう。
例えば、「最新の人気小説を読みたいが予約がたくさん入っているのだから大量に本を揃えるべきだ」「僅かな人数しか利用をしない書籍は購入する必要が無い」「雑誌や新聞などをゆっくり読むためにスペースをもっと増やすべき」「勉強をするための専用スペースが欲しい」「インターネットを使いながら珈琲が飲めくつろげるスペースが欲しい」など等、本来の社会教育の観点から外れたり、公共空間を個人が過剰に占有する用途での要望が出てくるでしょう。
これらのニーズを満たすべきは、地域の経済を支える民間事業者であり、公立図書館がこれらに取り組むことはまちの発展を阻害する要因になりかねません。
■ 図書館協議会のあり方
一般に図書館を所管するのは首長部局ではなく教育委員会です。教育委員会において主要な業務は学校教育であり、生涯学習や社会教育は非常に小さな割合となっています。教育委員会は首長から独立した執行機関というていになってはいますが、実態としてはあまり差異はないでしょう。すなわち、自治体全体から見た時に図書館の優先度というのは中々高くなりにくい構造に置かれています。
しかし図書館は老若男女あらゆる人が利用することのできる施設ですし、地域の教育と文化の発展になくてはならない存在です。ときの首長による政治的要因や、社会情勢等による経済的要因などでサービスの低下を招かぬようにする為には、自主性と独立性を強化しなければなりません。
現行法での図書館協議会はそもそも必置ではありませんし、単なる館長の諮問機関ですが、人事や計画策定、予算執行などの権限を集約させる事ができ、メンバーを民主的な方法で選出する事ができれば、ガバナンスを強化することが可能です。
図書館協議会の改革は長い道のりとなりそうですが、指定管理者側がそこに向けて歩むことも可能です。我々が指定管理に手をあげることはないでしょうが、地域の図書館を地域で守り育てていく。その環境づくりが求められている気がします。