レヴィー・クルピが語る、日本がW杯で実力を発揮できなかった最大の要因とJリーグへの提言

元セレッソ大阪監督で現在はアトレチコ・ミネイロ監督のレヴィー・クルピが見た日本の敗因、そしてこれから取り組むべき課題とは? 香川真司、柿谷曜一朗、山口蛍らを育て上げた名伯楽に話を聞いた。

元セレッソ大阪監督で現在はアトレチコ・ミネイロ監督のレヴィー・クルピが見た日本の敗因、そしてこれから取り組むべき課題とは? 香川真司、柿谷曜一朗、山口蛍らを育て上げた名伯楽に話を聞いた。

■ コートジボワール戦。気持ちで後手に回る。守備面での課題も

一次リーグ最初のコートジボワール戦に、今回のW杯に臨んだ日本代表の特徴が良くも悪くも凝縮されていたと思う。

立ち上がりはやや押されていたが、本田の見事なシュートで先制した。これは、彼の状況判断の良さ、技術、パワー、思い切りの良さから生まれたものだ。

元セレッソ大阪監督のレヴィー・クルピ氏

この得点で、コートジボールの守備ラインの間に速いパスを通せば大きなチャンスとなることが明らかになり、日本は慎重に戦いながらも、この相手の弱点を突いて追加点を狙うべきだった。

ところが、相手の高い身体能力を見せつけられて、気持ちの面で後手に回ってしまう。そして、いずれドログバが登場することはわかっていたのに、いざ実際に出てくると冷静さを失ってしまい、相手選手への集中力が分散したことで、連続得点を許してしまったのである。

この試合では、守備面の課題も浮き彫りになった。

現代のフットボールではサイド攻撃が非常に重要であり、またサイドを破られるとほぼ必ず大きなピンチを迎える。とりわけ、日本には高さと強さを備えたCBが少ないため、相手にサイドで起点を作られてクロスを入れられると、致命傷となることが多い。

これを避けるためには、全員が走って相手にスペースを与えず、サイドに起点を作らせないこと。これを、粘り強くやり続けるしかない。

また、本来は高くて強いCBとそれほど大柄でなくてもいいがスピードのあるCBが同時に出場し、互いにカバーし合いながら守ることが必要だ。しかし、この試合で、日本はそのどちらの条件も満たすことができなかった。

初戦で勝ち点を取れなかったのは痛かったが、敗れたとはいえ1点差。得失点差で大きなハンディを負ったわけではない。次のギリシャ戦で勝てば、一次リーグ突破の可能性はまだまだ十分にあった。

■ ギリシャ戦。決めきれなかったのは技術と精神面の問題

立ち上がりは、積極的に攻める姿勢を見せた。しかも、前半のうちに相手選手が退場するというまたとない状況となった。

ここで、深い位置で守備ブロックを作るギリシャ選手をサイドへおびき出し、ドリブル突破やワンツーパスで崩してマイナスのクロスを入れることができれば、あるいは精度の高いミドルシュートを放つことができれば、点を取ることは十分に可能だった。

先に失点すれば、ギリシャは守ってばかりはいられなくなる。ギリシャが前がかりになれば、岡崎や柿谷を走らせて背後のスペースへボールを送り込み、決定機を作り出すことを狙えた。そして、追加点をあげて得失点差で有利な状況を作り出せていた可能性があった。

相手が数的不利にある場合、通常は中央を固めてくるから、サイド攻撃がカギとなる。内田と長友の両サイドバックはそのことがよくわかっており、様々な種類のクロスを入れてチャンスを作り出していた。しかし、せっかくの決定機を大久保、大迫らが決め切れなかったのが痛かった。決めるべきところで決められないのは、技術の問題であると同時に精神面の問題でもある。

終盤に吉田をトップへ上げてパワープレーを行なったのは、監督の判断だ。ただ、吉田一人でギリシャの長身DF数人に競り勝つのは容易ではなかった。

テクニックでは、日本の方がギリシャより数段上。また、ギリシャがあまり空中戦を挑んでこなかったこともあり、この試合で体格のハンディはそれほど感じなかった。勝てるはずの試合だっただけに、引き分けという結果には初戦以上に悔いが残った。

■ コロンビア戦。限界を露呈した組織での守備

試合を通じて改めて浮き彫りとなったのが、日本選手の精神面の弱さだ【写真:Getty Images】

ギリシャに勝てなかったことで、日本は精神的に追い込まれてしまった。このような状況で、日本の選手が能力を発揮するのは容易ではない。

コロンビア戦では、前半からリスクを承知で攻めたが、本来、日本選手はこのような戦い方が得意ではない。不用意なPKを与えて先制され、それでも本田からのクロスを岡崎が頭で決めて追いついた。これも、状況判断とアイディアと思い切りの良さによって生まれた得点だった。

後半になって今大会のベストプレーヤーの1人であるハメス・ロドリゲスが出てきてから失点を重ねたのは、現状では仕方がない。彼を一人で抑え切れる選手は今の日本にいないし、組織で守るにしても限界があるからだ。

この3試合を通じて改めて浮き彫りとなったのが、日本選手の精神面の弱さだ。

内田、長友、本田、岡崎らは欧州でプレーしているだけに、気持ちの面で負けていなかった。試合を通じて、概ね冷静な判断を下していた。しかし、困難な状況で精神的な弱さを露呈し、強い気持ちを維持して闘い続けることができない選手がいた。

根本的な守備力の問題もある。

日本の場合、サイドバック、攻撃的MFには欧州でも通用する選手がいるが、CB、GK、ボランチ、CFでは非常に少ない。優秀なCB、GK、CFを育てるためには、将来大柄になる素質があるタレントを十代前半までにスカウトしてきて、かつてそのポジションで高いレベルでプレーした経験を持つ専門のコーチをあてがい、計画的に育成するしかないだろう。

技術面に関して、日本選手はかなり高いレベルに到達している。しかし、いくら高度なテクニックを持っていようと、それを実戦で発揮できなければ全く意味がない。その点で、ほとんどの日本選手が問題を抱えていた。

■ 実力を発揮できない要因となったW杯とJリーグの差

日本選手が持ち前のテクニックを発揮できなかった最大の理由は、W杯のインテンシティ(プレー強度)の高さにある。

W杯では、選手たちがボールを自分のものにするため、すさまじい勢いでぶつかり合う。また、ジャッジの基準はヨーロッパにあり、少々の身体接触ではファウルを取らない。アジア勢のなかでは大柄でフィジカル・コンタクトに強みを発揮する韓国でさえ、ベルギーには完全に当たり負けしていた。また、メキシコやチリの選手は小柄だが頑丈な体格をしており、体の使い方がうまく、自分たちより大柄な選手にもほぼ互角に渡り合っていた。

W杯の試合とJリーグの試合とでは、インテンシティにおいて大きな差がある。

攻撃の選手の場合は、アイディアの乏しさも痛感させられた。もちろん技術的、身体的な裏づけがあってのことだが、強豪国の選手は相手の意表を突くプレーを大胆にやってくる。そのような場合、日本選手は対応できないことが多かった。それは、Jリーグでは意外性あふれるプレーをする選手が少ないからである。

個々の選手で言えば、内田と長友は概ね特長を発揮し、奮闘していた。それは、彼らが数年前から欧州のビッグクラブに所属し、高い意識を持って練習に取り組み、試合に常時出場して経験を積んでいるからだろう。

本田は、相変わらず堂々とプレーしていたが、フィジカル・コンディションが万全ではなかったように感じた。

香川は、やや不本意なシーズンを送った後だけに、その苦い思いをバネにして奮起し、W杯では活躍するだろうと思っていた。しかし、相変わらず高い技術を持っているものの、試合勘の不足と少しばかりの自信のなさを感じた。彼の実力は、こんなものではない。この経験を糧として、さらに成長してほしい。

■ 力を入れるべき下部組織での選手育成

【写真:Getty Images】

山口は、せっかく最初の2試合で先発出場するチャンスを与えられながら、積極性が物足りなかった。どこか自信がなさそうだった。

コートジボワール戦では、チーム全体が押されている状況で、自分からそれを押し返すようなプレーができなかった。守備ではある程度、持ち味を発揮していたが、もっと攻撃にからんでほしかった。とりわけ、ギリシャ戦では相手が深く引いていてマークする相手がいない時間帯が長かったのだから、もっと積極的に前へ出ていくべきだった。

柿谷と清武は、与えられた出場時間があまりにも短かった。それは、大会前の時点で、監督の信頼を得られていなかったから。日本代表でレギュラーを務める実力はあるのだが、大会へ向けてうまく調整できなかったということだろう。

今回の残念な結果で、わざわざブラジルまで応援にやってきた多くの日本人サポーター、そして日本国内で時差を乗り越えてテレビで応援していたサポーターは、さぞかしがっかりしていることだろう。

日本代表は、2002年大会以降、一次リーグ突破(ベスト16)と敗退を交互に繰り返している。つまり、現時点における実力は、その中間にあると考えていい。

世界の強豪国の仲間入りをするには、まだまだ精神面、フィジカル能力、技術、そしてアイディアを磨く必要がある。そのためには、Jリーグの各クラブが下部組織での選手育成にさらに力を入れる必要があるし、Jリーグのレベルを向上させる必要がある。

プロリーグを創設してから欧州各国は100年前後、南米各国は80年前後の歴史を持っているが、日本はまだ22年にすぎない。ここまでの成長は目覚しかったが、そう簡単に欧州、南米に追いつけるはずがない。

それでも、焦ることなく、しかし着実に成長を続けてゆけば、いずれ世界の強豪に追いつき、追い越すことができる。そのことを信じて、日本のすべてのサッカー関係者に地道な努力を継続してもらいたい。

【関連リンク】

(2014年7月16日フットボールチャンネルより転載)

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