シエラレオネ、リベリア、ギニアの西アフリカ中心に感染が拡大しているエボラ出血熱。死者は4000人を超え、アメリカでも2人目の国内感染者が確認された。
この女性看護師はリベリアとシエラレオネでエボラ出血熱に感染し、スペインに搬送された2人の患者の治療に当たっていた。治療の際に手袋をつけたまま自分の顔を触ってしまったことが感染の原因と伝えられている。
しかし、シエラレオネで活動中のスペイン人医師ホセ・マリア・エチェバリアさんは、ハフィントンポスト・スペイン版に寄稿したブログの中で、現在使われている防護服の不備を解消し、万全な予防対策が取られない限り、感染の拡大は食い止められないことを警告している。スペインのアナ・マト保健相に宛てた手紙の形式で寄稿されたブログの全文を掲載する。
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シエラレオネで活動中のスペイン人エボラ出血熱専門家からの手紙
拝啓 スペイン・マト保健相殿
私はNGOの、International Rescue Committeeと共に、シエラレオネでエボラ出血熱の対策に取り組むスペイン人の医師です。ご存知の通り、エボラ出血熱は、6カ月以上もの間、アフリカの一部の国で猛威を振るっています。そして今、とても残念なことにエボラ出血熱はスペインに上陸し、感染者が出てしまいました。エボラ出血熱がアフリカ以外の国で直接感染に至ってしまったのは歴史上初めてのことです。
私たちは今、シエラレオネ第二の都市ボーでエボラ患者のための隔離治療センターを立ち上げようとしています。このセンターにはエボラ出血熱への感染が疑われる人、もしくは感染が確認された人が、初期症状が現れた時点で入所することになります。エボラ出血熱の初期症状は、通常発熱ですが、それは他者への感染の可能性が出てきたことを意味します。入所した患者には検査を行い、研究所から結果が来るまでセンターで看病を続けます。結果が陰性だった患者は自宅に帰ることができますが、その後の3週間は医療チームが毎日患者の家を訪れ、患者本人と患者の親戚の経過を見ます。一方テストで陽性反応が出た患者にはセンターで集中治療を行います。
これが、これまでに2400人以上が陽性反応を示し、約700人が死亡したと保健省に報告された国で私たちが行っていることです。もっとも、情報伝達手段がうまく機能していなかったことや、確認できていないケースがあることを考慮すると、この数字はもっと増えると考えておかしくないでしょう。それにメディアがエボラ出血熱に関する報道に力を入れているため、今では1人の感染者から2人〜6人に感染する可能性があるということが分かっています。
マト保健相、僭越ながら申し上げますが、何か誤解があるように思います。率直に言えば、エボラ出血熱に感染した私たちの仲間を、悲しく不運なケースとしてスペイン国内のメディアに伝えていらっしゃることが、間違いでないけれども、正確とも言えないと思うのです。現場で毎日エボラと向き合っている私たちには、状況は違って見えます。私たちの見解は、政府や役人の方々とはかなり違います。
いたずらに警鐘を鳴らしたり、必要以上に人々の心配をかきたてるつもりはないのですが、政府や役人は事実を作り上げているのではないかと感じているのです。もしくは、事実をありのままに伝えていないかです。これを意図的になされていると思いたくありません。そうではなくて彼らがこの問題についてよく知らず、どう伝えてよいかわからない、ということが原因なのではないかと思いたいのです。
お気づきかもしれませんが、感染予防のために使われていた個人用防護服(専門用語でPPE(Personal Protection Equipment)ですが、以下防護服とよびます)はエボラ出血熱に対して十分な防護能力がないものでした。ご存知の通りWHOは対策を講じる病気の種類によって予防のレベルを段階分けしていますが、エボラ出血熱は、感染したときの重症度や高い感染率、何より知識を持つ専門家の少なさから最も高い予防レベルに指定されています。エボラに有効な防護服は周りの環境から完全に隔離されるものでなくてはなりません。1ミクロンたりとも防護されていない素肌の部分があってはならないのです。さらに手袋などは、二重にする必要があります。
日常的に危険地帯や隔離地帯へ行き、感染している人や感染の可能性がある人たちと接触することもある私の仲間たちは、防護服の着用に加え、専門家の指導の下、研修所で2週間のトレーニングを受けています。ここシエラレオネでは、私たちは経験豊富なベテランが多数所属しエボラ出血熱に対処する方法を一番良く知っている「国境なき医師団」 のもと指導を受けています。
防護服の着用以外にも予防対策はたくさんあり(塩素処理水によるスプレー洗浄、手洗い用の塩素処理水容器の各所への配置、塩素処理水による靴底消毒など)、継続的に実施されています。状況が分かっていただけたでしょうか。防護服の正しい装着には10分、防護服を脱ぐのに20分から25分かかりますが、正しい手順を守り、2人の人間に立ち会ってもらわなければなりません。1人は、継続的にスプレー洗浄を行い、もう一人は手順が正確に行われているか確認するためです。防護服は1時間以上着ていると脱水症状を起こす恐れがあるため、1日に何度も危険地域に出入りしている人は、手間のかかる防護服の着脱には慣れたベテランになっていますが、それでも時には手順を忘れてしまったり、着脱のプロセスや規定を間違ったりして感染してしまうこともあるのです。
実際、感染した医療従事者の90パーセント以上(これはとても多い数です)が、防護服の着脱を正しい手順通りに行なわなかったか、適切な防護服を着用しなかった、などの人的ミスによるものです。残りの10パーセントは、身内との接触や性行為など、仕事外での感染です。
今回の手紙はこのあたりにしておきたいと思います。しかしながら、事態は非常に複雑化しています。感染が広がっているということも、残念ではありますが不思議ではありません。私の願いは、事態が早く収束し、出回っている誤解について知っていただくことです(もし誤解があればということですが)。そして、とりわけ、感染した仲間が早く回復することを祈るばかりです。
敬具
医師ホセ・マリア・エチェバリア