ハフポスト日本版は9月6日からニュース番組「ハフトーク」を始める。NTTドコモの動画配信サービスを通して、パソコンやスマートフォンなどで見ることができる。
私は日本のテレビキャスターが、よそよそしく感じるときがある。自分の感情を押し殺しているように見えてしまうのだ。キャスターの中には、子育てや転職を経験したもいるはずなのに、そうした体験をあまり語らない。
打ち合わせではスタッフに、すなおな疑問を口にしていたはずのに、放送中は「全部知っている」という風に涼しい顔でニュースを伝えている。
動画で伝える強みは、見ている人に優しく語りかける「話し言葉」にあるはずだ。自分の人生経験を交えて話せば、コーヒーを飲みながら友達に話しかけるように、政治や経済のことを伝えられる。少し堅苦しい「書き言葉」にはない魅力だ。
顔の表情を変えたり、身振り手振りをしたり。そして、キャスターやゲストが、「わからない」ことは「わからない」と言うことができれば、視聴者と同じ立ち場で、いっしょに考えることができる。「ハフトーク」は、そんなニュース番組をつくっていく。
「わからない」と認めることから会話を始める
「ハフトーク」は、複数のネットメディアが参加する新しいニュース番組「NewsX」の一部だ。NTTぷららとイースト・ファクトリーが共同制作をする。
ハフポストのほかにも、ネットメディア「Business Insider Japan」、ジャーナリストの堀潤さんが運営する「8bitNews」、評論家の宇野常寛さんの「PLANETS」が9月から日替わりで登場し、NTTドコモの配信サービス「dTVチャンネル」(10月からは「ひかりTV」のテレビ放送サービスも加わる)で生配信される。
ハフポストの「 #ハフトーク 」は毎週木曜日午後10時から1時間の生番組。次の3つのポイントを大事にする。
①平成が終わる前に、日本の課題を見つめ直す。大人のための「再入門」となる番組
「ハフトーク」は会話を大切にする番組だ。前向きな会話は、「わからない」と素直に認めるところからはじめる。
2018年9月1日号の経済誌「週刊ダイヤモンド」の表紙には次のように書いてあった。「自動車・電機・IT 40年で完成した日中逆転」。日本の経済が、かがやいていた時代は終わった。
1978年に鄧小平が「改革開放」政策を掲げて以来、中国の経済はどんどん伸びていった。日本を圧倒する中国の企業が次々と出てきた。なぜ日本は追い抜かれたのか。どこで成長がストップしたのか。
経済だけではない。医学部の大学入試の女性差別。スポーツ界で広がるセクハラや暴力。そして、性の多様性や生き方の自由さを認めず、同じタイプの人間ばかりを育てようとする日本の社会。
「ハフトーク」では、「昭和的価値観」が残っている日本を見つめ直し、改めてゼロから考えるべきテーマを取り上げる。平成の30年間でも解決できなかった課題を視聴者といっしょに話し合いながら、「おとなの再入門」となる番組をつくっていくつもりだ。
学校って何のためにあるの?どうして最近LGBTに関するニュースが増えているの? 事実婚って何か問題あるの?
日本の問題は多くの人が見て見ぬふりをして放置してきた。平成を振り返ると、ネットが広まり、iPhoneが出てきた。海の向こうのアメリカでは、若い20代が世界的な企業をつくっていった。
そうした変化を、日本の偉い人たちは、「どう捉えればいいか」わからなかったのかもしれない。「わからない」と素直に認めて、早いうちからみんなを巻き込んで会社や政治を変えていれば、日本の進路は違っていたのかもしれないのに。
「ハフトーク」を見てくれた人には、わからないことを、誰かと会話してみてほしい——。これがゴールだ。
②「生の会話」の価値を最大限生かす。
古代ギリシアの哲人、ソクラテス。西洋哲学の基礎となる考えを生み出した人物だが、意外なことに1冊も本を残さなかったとされる。その代わり、街中でいろんな人と直接会話をしていた。
彼は「文字」を嫌っていた。発達心理学者のメアリアン・ウルフが書いた「プルーストとイカ」という本に詳しい。
ソクラテスは、書き言葉である文字を「死んだ言葉」として捉えていたという。たしかに、言葉は、一度「文字」として書かれてしまうと、論理が固まってしまう。読み手の反論を許す隙間がなくなる。語りかけても、文字は黙っている。
一方の生の会話は「生きた言葉」だ。リズムがあり、対話があり、リアルタイムのやり取りを通して、疑問や質問を相手にすぐ伝えられる。そして結果的に、お互い考えを深められる。
今の私たちにも分かるところがある。
たとえば、ネットに書かれた文字。Twitterの言葉。ビジネスパーソンが書いた報告書。「書き言葉」はニュアンスや文脈が無視されやすく、時には冷たく感じられ、的外れとも思える批判を呼び、誤読を生むことがある。
だが、「生の会話」は違う。
冷たくて事務的なメールを書いた人に、実際に会って話をすると、意外なやさしさを感じることがある。自分と反対の意見を言っていると思ったけど、話してみると、「考えが似ている」と思うこともある。細かい語尾やトーンに耳を進ませ、相手とのキャッチボールを楽しむからだ。
ハフポストは、月間約2200万人の読者に「書き言葉」で情報を伝えている。とても大事な武器だ。
そうした発信に加え、「ハフトーク」では「生の会話」という別の伝え方にチャレンジする。結論を固めないスタンスで読者・視聴者とやりとりをしたい。
③「日本のテレビニュース文化」から脱却する
日本のテレビニュースを見ていて、悲しくなるときがある。プロのアナウンサーを「女子アナ」と言ってタレント扱いをしたり、出演している理由が分からない「女性アシスタント」が画面の隅っこにいたりするときだ。
「ハフトーク」に出る人は、全員を「会話の相手」としてリスペクトする。私は、「キャスター」としてではなく、転職経験があり、ネット文化が好きで、妻も私も働きながら、小学校5年生の長男を育てている38歳男性としての意見を言っていこうと思う。
お茶の間でテレビを見なくなり、手のひらのスマホで、スポーツやバラエティ番組を楽しむ時代になってきた。番組制作の主役の座も、テレビ局から、新しいネット企業に移り変わりつつある。NHKがテレビとネットの同時配信の準備を進めている。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックは、スマホを「テレビ代わり」に使ってスポーツを見る人が圧倒的に増えるだろう。
そんな中、私たちのようなネットメディアが「ニュース番組」にチャレンジすることで、新しい文化を生み出していきたい。そして、「書き言葉」と「生の会話」。どちらが本当に自分らしい言葉を発信できるのだろうか。
・NewsX「ハフトーク」の公式ページはこちら。
・ハフトークの視聴方法はこちら。