「世界最強戦車の1つ」と呼ばれるドイツ製の主力戦車「レオパルト2」が、ウクライナに供与されることになった。ドイツ政府が1月25日に発表した。
NHKニュースやドイツ与党「社会民主党」のツイートによると、ウクライナにレオパルト2による戦車大隊2つ(合わせて約80両)を迅速に編成することが目標。最初のステップとして、ドイツ軍の在庫から「レオパルト2A6」14両を供与する。他のヨーロッパの国が配備しているレオパルト2も、ウクライナに提供されるという。ウクライナ兵による操縦訓練もドイツですぐに開始される。
2022年2月から始まったウクライナ戦争は、これまで「T-72」など旧ソ連製の戦車同士の戦いだった。しかし、ヨーロッパで広く使われているドイツ製の主力戦車がウクライナ軍に供与されることで、戦争は新たな局面を迎える。ロシアのネチャーエフ駐ドイツ大使は25日、ドイツの決定が「紛争を新たなレベルの対立へと導く」と非難声明を出した。
レオパルト2とはどんな戦車なのか。分かりやすくまとめてみた。
■欧州で約2000両が配備されている戦車「レオパルト2」
「レオパルト」はドイツ語で、ヒョウを意味する。クロヒョウを意味する「パンター」、トラを意味する「ティーガー」など、ネコ科の猛獣の名前をつけるドイツ軍の伝統にならったものとみられる。
第二次大戦で敗戦したドイツは東西に分割。東ドイツと国境を接する西ドイツは、アメリカが率いる北大西洋条約機構(NATO)の最前線となった。旧ソ連の戦車を使う「ワルシャワ条約機構」に対抗するため、1965年の「レオパルト1」に続く戦車として、西ドイツは「レオパルト2」を開発、1977年に制式採用された。
120mm滑腔砲や複合装甲、1500馬力のエンジンなどの先進的装備を備えており、いわゆる「第三世代戦車」のさきがけとなった。このうち複合装甲は、1973年の第四次中東戦争で旧ソ連製の対戦車ミサイルにイスラエルの戦車が次々に撃破されたことを受けて、複数の素材を組み合わせた最新技術だった。
1991年のソ連崩壊で冷戦は終結。過剰在庫となった「レオパルト2」は、ドイツから世界各国に売却された。イギリスの国際戦略研究所(IISS)によると、ヨーロッパの計13カ国でレオパルト2を配備しており、その合計は約2000両にもなる。
軍事アナリストの毒島刀也さんは「世界の傑作戦車50」 (SBクリエイティブ)の中で、レオパルト2について「世界最強の戦車の1つ」に数えられると評している。
■なぜレオパルト2に白羽の矢が?
フィナンシャルタイムズによると、ウクライナは戦争開始以降、ロシア軍から500両を超える戦車を奪ったほか、ポーランドとチェコから240両の旧ソ連製の戦車「T72」を供与された。だが、ロシア軍の攻撃で多くの戦車を失っている。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は2022年12月、英誌エコノミストのインタビューの中で「ロシアが占領したすべての領土を解放できるようにするには、ウクライナには300両の戦車が必要だ」と訴えていた。
ウクライナはヨーロッパで普及しているレオパルト2の供与を求めてきたが、朝日新聞デジタルによるとドイツ政府はこれまで否定的だった。ロシアを刺激することを恐れていたとみられる。これまでにポーランドとフィンランドが供与の意向を示したが、決定には生産国であるドイツの承認が必須だった。
イギリスは1月14日、主力戦車「チャレンジャー2」を14両、ウクライナに提供すると発表。バルト3国のリトアニア、エストニア、ラトビアの外相は21日、レオパルト2をウクライナに速やかに供与するようドイツ政府に要請するなど外堀が埋まりつつある中での決断だった。アメリカも25日、自国の主力戦車「M1エイブラムス」31両をウクライナに供与することを発表した。
軍事研究者の小泉悠さんはTBSの「報道1930」の中で以下のように指摘してる
「ドイツ製の『レオパルト2』は、ほぼ欧州標準戦車みたいになっていて、ドイツだけじゃなくポーランドもスペインもいっぱい持っている。これを搔き集めれば300両は非現実的な数字じゃない。逆にこのくらいなければ反撃できない」