ジャック・ウェルチは、発明王エジソンを起源に持ち、世界最大級の米国企業であるGE(ゼネラル・エレクトリック)のCEO(最高経営責任者)に、GE史上最年少の45歳で就任した人物だ。1981年からの約20年間で、時代遅れになりかけていたGEの組織と事業を改革。総資産約13倍(2,724億ドル)、純利益約4・4倍(73億ドル)、株式時価総額世界一を成し遂げ、「20世紀最高の経営者」と賞賛された。
最もよく知られた戦略は「市場でナンバーワンかナンバーツーの事業だけで勝負するGEにしよう」という「ナンバーワン、ナンバーツー戦略」で、100を超える事業を売却し、18万人もの社員を削減。「ニュートロン・ジャック」とも呼ばれたが、すべてはGEを世界最高の企業にするためのものであるとして、自らの意志を貫き通している。
ナンバーワン、ナンバーツー戦略によって、それ以下の事業には3つの選択肢が示された。「再建」か、「閉鎖」か、「売却」か。再建できなければ「消滅」である。
当然、不満が噴き出た。市場で3位、4位につけていて、それなりの利益を上げていても事業をたたんでしまうのかと。特にトースターやアイロンなど、電機メーカーとしてのGEの本流だった事業は猛烈に反発した。確かに家電製品は長くGEを支えてきた稼ぎ手だったし、米国のほとんどの家庭に行き渡ったブランドの象徴だった。
しかし、それらが21世紀のGEを支えられるものでないことは明らかだった。すでに安価な日本製品に押され、GEの強みではなくなっていたからだ。
重要なのは伝統を守ることではなく、競争に勝つことである。
ウェルチは、ジェットエンジンや新世代のプラスチック、医療用の画像診断機器など、他社が簡単には真似できない事業を選び、圧倒的に強くするために資金や人を投じることにした。家電製品や炭鉱といった117の事業は売却された。
ウェルチは「穏やかでバランス感覚のある、思慮深いリーダーになろうなどと思っていてはダメだ」と言っている。そんなことでは、過去に大成功した事業や創業者に由来する事業をやめることなどできない。ウェルチは断固とした実行者だった。
「成果が何もなければ、温かな会話や感情も無意味である」はピーター・ドラッカーの言葉だが、成果を上げて競争に勝ち抜くためには、リーダーには信念に裏打ちされた強さが欠かせないのである。
執筆:桑原 晃弥
本記事は書籍「1分間ジャック・ウェルチ」(SBクリエイティブ刊)を再構成したものです。
WISDOM 2015年04月10日の掲載記事「偉人から学ぶ思考法 Part4第1回 穏やかでバランス感覚のあるリーダーになろうと思ってはダメだ ── ジャック・ウェルチ」から転載しております。