「これは魚なのか?肉なのか?」
私がコンビニで買い物をしていたとき、外国人の男性客から「ツナマヨおにぎり」を差し出され、不安げに尋ねられたことがある。事情を聞くと彼はイスラム教徒で、ハラールの肉以外は口にできないのだという。
食品から日用品まで全てが揃う日本のコンビニ。
しかし、日本語が分からない外国人が見る「景色」は少し違う。商品の中身が分からず、ジュースと間違ってチューハイを買ったという失敗も耳にしたことがある。
訪日外国人の数は2019年に過去最高の約3188万人に達したが、買い物での苦労はたえない。
そんな外国人客に配慮して、コンビニ大手のローソンはこの春、PB(プライベートブランド)の一部商品で、多言語での表記を始めた。「外国のお客さまが商品を選びやすいように、優しいパッケージを追及した」(同社広報)という。
賛否両論を呼んでいるローソンの新PB。今回の記事では「外国人の視点」から分析してみたい。
アメリカ出身男性「低脂肪牛乳を間違えて買わずに済む」
ローソンPBの新しいパッケージで使われている外国語は、英語・韓国語・中国語の3つ。食パンや牛乳、豆腐などの食品を中心に多言語表記が用いられている。
新パッケージのデザインを巡っては「商品名が小さくて、見えづらい」「デザインのメッセージ性が分からない」などの意見がある一方、ローソン広報によると「多言語表記だが情報量が多いと感じない」という声も届いているという。
実際に外国人に取材をしてみた。
日本在住3年目のアメリカ出身の男性は、「成分無調整牛乳」と「低脂肪牛乳」を買い間違えてしまうことがよくあるそうだ。だが新パッケージは、商品名の英語併記とパッケージの色分けで両者の区別が分かりやすいという。
「日本の商品パッケージは、商品名と写真以外にも情報が多すぎてゴチャゴチャと分かりづらい印象です。LOW FAT MILKと上の方に書いてあるローソンのデザインはシンプルで分かりやすいです」
トルコから留学に来ている女子学生はイスラム教徒。戒律によって口にできない食べ物がある。そのため、スーパーやコンビニでは、スマホの翻訳機能を使って商品名や成分を全て確認する。「英語で品名がわかると、翻訳の手間が少し省けます」と話す。
イタリア出身女性「セブンのオレンジジュースは遠くからでも分かる」
ほかにも「外国人客を歓迎してくれるような気がして嬉しい」「日本らしい繊細で、素朴なデザインなのでお土産に買って帰りたい」という声もあった。
一方、競合のセブンイレブンのパッケージを好む人もいた。
イタリア出身の女性は「私が見たセブンイレブンの商品は、オレンジの写真が全体にデザインされていて、遠くから見てもすぐにオレンジジュースだと分かります。一方で(同じく私が見た)ローソンの商品は文字が小さく、近くに寄らないとオレンジジュースだと気づかない」と話す。
「温泉たまご」を分かりやすく伝えるコンビニとは
日本のグローバル化とともに、コンビニ各社は外国人のお客さんへの対応を進めてきた。
セブン&アイ・ホールディングスは、ビーガン(菜食主義者)やイスラム教徒向けに食材の使用状況が分かる画像認識アプリの実験を積極的にすすめている。
コンビニによっては、外国人集住地に輸入食品を揃えたり、イスラム教徒が多い地域には「ハラールフード」を取り扱ったりする店もある。
そんなお店の一つがローソンの「新宿靖国通店」。都内で最も多くの外国人が暮らす新宿区にあるこの店舗には、在日中国人や韓国人・ベトナム人客が多く訪れる。
現在は新型コロナの影響で一時的に輸入食品の品揃えが悪いというが、通常ならば、麺にじゃがいもでん粉などを練り込んだ韓国の「カムジャ麺」や、中国のハーブティー「王老吉」など日本ではあまり見慣れない輸入食品が約30種類並ぶ。
この店舗で輸入商品の品揃えや棚割などを担当してきたのが、韓国出身の趙美蘭(チョウ・ミラン)さんだ。
留学生として来日した趙さんは「この値段で、こんなに美味しいスイーツが買えるんだ」と日本のコンビニに感動。10年前に新卒でローソンに就職した。入社後は、店舗での勤務などを経て、本社にて外国人観光客や在日外国人向けの店舗作りの担当をしてきた。(現在はプロモーション部で活躍している)
「在日外国人が多い地域では、その国の出身者がたまに食べたくなる『故郷の味』を棚に並べます」と趙さん。
外国人観光客が多い店舗では、手作りの「ポップ」で丁寧に商品説明をする。
「たとえば、中国や韓国では“温泉たまご”を食べる文化がないんですね。生たまごだと思って購入して、びっくりしてしまう旅行客も多いです。そのため、あらかじめ外国語のポップを付けて説明をするようにします」
全国どこにでもあるコンビニは外国人観光客にとって最も身近な買い物の場所であり、日本の生活や文化を知ることができる情報収拾の場でもある。
趙さんは「言葉や文化の壁をできるだけ取り払い、外国人のお客さんにも“100%伝わるお店”作りを目指したい」と意気込む。
コンビニがめざすのは「標準化」か「多様性」か
これまでコンビニといえば、全国どこでも同じ商品を購入できるという「標準化」の印象が強かった。しかし最近のコンビニ各社は「地域やお客さんの多様性に寄り添った店舗」をめざしている。
「同じコンビニでも地域ごとにニーズは違う。外国人のお客さんに対応したお店作りは多様なお店のあり方のひとつです」とローソン広報の杉原弥生さんは話す。
ローソンにはこの他にも、介護相談窓口を併設した高齢者向けの店舗やレジ無し店舗「ローソンゴー」など、客層や地域性に応じてユニークな店舗を展開しているという。
今回のローソンのプライベートブランドをめぐっては、表記の文字が小さいため、「お年寄りや障害者にとって見にくい」「ユニバーサルデザイン(障害の程度や年齢などに関わらず、誰もが使いやすいデザイン)の視点から疑問がある」などの声もあった。
一方、取材した外国人には、外国語表記を評価する声もあった。
コンビニやスーパーなど小売業にとって「分かりやすい」とはどういう意味なのだろうか。ビジネスで考えないといけない「多様性」とは何だろうか。コンビニは私たちの生活にとってどのような意味を持つサービスなのだろうか。
プライベートブランドの話だけでなく、そんなことも6月9日21時からの「ハフライブ」で、Retail Futurist の最所あさみさんと一緒に、ローソンの竹増社長に聞くつもりだ。小売業の未来を通して、今の社会を見つめたい。
6月9日(火)21時からの「ハフライブ 」、番組アーカイブはこちらから⇨
https://youtu.be/EkSXb75Gsfw
番組に出演した最所あさみさんがローソンのPBについて分析した、3本のnoteはこちらから⇨その1
ローソンのPBデザインリニューアルは「これでいい」から「これがいい」への第一歩
その2