トランスジェンダー選手がオリンピックの歴史を変えた。「スポーツは万人のもの」出場への感謝を語る

東京オリンピックにニュージーランド代表として出場したローレル・ハバード選手。「私の参加をめぐる論争に完全に気づいていなかったわけではありません」と振り返りました。
東京五輪・ウエイトリフティング女子87キロ超級に出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手(8月2日撮影)
東京五輪・ウエイトリフティング女子87キロ超級に出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手(8月2日撮影)
Edgard Garrido via Reuters

オリンピック史上初、トランスジェンダーを公表した選手の歴史的なデビュー戦の結果は、ほろ苦いものだった。

東京オリンピックの開会から11日目となる8月2日、ウエイトリフティング女子87キロ超級に出場したニュージーランドのローレル・ハバード選手(43)。120kgのバーベルを上げるのに失敗し、2回目と3回目は125kgのバーベルに挑むもいずれも失敗。「記録なし」となったが、ハバード選手の出場はオリンピックの新たな歴史を刻んだ。

■トランスジェンダー選手の出場をめぐって議論も

トランスジェンダー選手の参加資格について、国際オリンピック委員会(IOC)は2015年にガイドラインを改定。血清中の「テストステロン」値が一定以下の状態が12カ月以上続くなどの条件を満たせば、トランスジェンダー女性は女子種目に参加できるとしており、2013年に性別適合手術を受けたハバード選手も基準を満たしていた

トランスジェンダー選手の女子競技への参加をめぐっては「他の女性選手より優位な立場にある」と反対する声も出ていた。

一方、オリンピック憲章では「いかなる種類の差別も受けることなく」と定めていることから、中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は「ルールで定められた範囲であれば、排除されることがあっては絶対にいけない」とハフポスト日本版のインタビューに答えていた

■「私の参加をめぐる論争に完全に気づいていなかったわけではありません」と記者団に語る

競技後に記者団の囲みに応じるハバード選手(8月2日撮影)
競技後に記者団の囲みに応じるハバード選手(8月2日撮影)
Laurence Griffiths via Getty Images

ハバード選手は競技後、母国SkyTVのインタビューに対し「オリンピック会場にいる興奮に圧倒された」と述べた。ニュースサイト「Stuff」によると以下のような言葉だった。

「どちらかというと、オリンピック会場にいる興奮に圧倒されただけだと思います。重量挙げだけでなく、このレベルで競い合うどのアスリートにとっても、ここは本当に特別な場所なので、アドレナリンが出ます。今夜、私はちょっと加熱しすぎたのかもしれません」

外部での議論をどうやって遮断したかを問われると、「世界で起きていることをすべて遮断できるかは分かりませんが、できることをして、進んでいくだけです」と答えたという。

またハバード選手は、記者団の囲み取材に応じた。ロイター通信によると「私の参加をめぐる論争に完全に気づいていなかったわけではありません」と話した上で、以下のように続けたという。 

「国際オリンピック委員会(IOC)に特に感謝します。IOCのオリンピック憲章への取り組みは本当に肯定したいです。それはスポーツは万人のためのもので、包括的でアクセスしやすいものであることを確立しています」

■ライバル選手からもエール「メダルを取ってほしかった」

ハバード選手と同じ87キロ超級に出場したオーストラリアのサラ・フィッシャー選手もエールを送った。ロイター通信によると、出場に反対する人を黙らせるためにも「本当はメダルを取ってほしかった」という。

「彼女が3度、バーベルを持ち上げることができなかったのは本当に悲しかったです。彼女の経歴ゆえに、多くの人が彼女に負けてほしがりました。彼女はここで苦しい戦いをしました。本当はメダルを取ってほしかったんです。それが一番良かった、そうすればみんな黙るのに」

注目記事