日本最後のヒゲワシが好物の骨をごくり 静岡市立日本平動物園

ヒゲワシは骨を溶かす強力な消化器官を持ち、野生では死んだ動物の骨を空から落として割って食べます。

今年の干支「酉」と同じ鳥類で、日本に1羽しかいない鳥がいます。静岡市立日本平動物園のヒゲワシです。もう高齢のようです。

動物園はえさの骨を特別に用意するなど、残された時間を少しでも豊かに過ごせるように工夫をこらしています。

小さく切った牛の骨を口に運ぶヒゲワシ「クリッパー」=どれも2016年12月、静岡市立日本平動物園、猪野元健撮影

ヒゲワシの横顔。くちばしの下にひげ(羽毛)があります

正面から見たクリッパー。ネット上では「イケメン」という声も

日本平動物園のヒゲワシ「クリッパー」。きりっとした表情、翼を広げると約3メートル。トレードマークは、名前の由来にもなったくちばしの下のひげ(羽毛)です。

コンコンコン。獣医師でクリッパーの飼育を担当する太田智さんはドアをノックして飼育舎に入り、ゆっくりと掃除します。

「クリッパーが驚いて、とまっている場所から落ちてけがをしないようにするためです」

クリッパーはもともとこわがりなことに加えて、年もとりました。一方、好奇心は強いようです。高齢の体に気を配って飼育する太田さんをキョロキョロと見て様子をうかがっています。

日本平動物園によると、1985年に中国から日本との友好の証しとしてヒゲワシのつがいが贈られました。

おすが翌年に死に、クリッパーは1羽で過ごしています。年齢は不明ですが、少なくとも日本に来てから30年以上過ぎています。寿命は40年ほどです。

太田さんはクリッパーに充実した時間を過ごしてほしいと願いますが、広い飼育舎に移すなど環境を大きく変えると、ストレスにつながる可能性があります。そこで注目したのがえさです。

業者に小さく切ってもらった牛の骨を持つ飼育係の太田智さん

クリッパーのえさは、骨の他にホッケや馬肉、ニワトリの頭などがあります

ヒゲワシは骨を溶かす強力な消化器官を持ち、野生では死んだ動物の骨を空から落として割って食べます。骨には栄養価の高い骨髄が詰まっています。

動物園では長さ20センチほどの牛の骨をやったことがありましたが、クリッパーは天井が低く骨を割れないため、周りの肉だけを食べていました。

去年12月に数センチ角の骨を特別に用意したところ、記者の取材中に骨を食べている姿が初めて確認されました。「本能が残っていたのかもしれません」と太田さん。今では肉や魚より骨を好むようになりました。

くちばしで骨をくわえ・・・・・・

そのまま飲み込むように食べました

野生のヒゲワシは死んだ動物を食べるので、感染症などの病気を広めない「地球の掃除屋」の役割があります。しかし、古くはヒツジや人の子どもを襲うと考えられ、銃撃によって絶滅した地域があったといいます。

ヒゲワシは数が少なくなり、クリッパーは高齢で繁殖が難しいため、日本平動物園が新しく飼う予定はありません。クリッパーが国内で見られる最後のヒゲワシになるかもしれません。

太田さんはクリッパーがたくさんのことを教えてくれるといいます。誤解を受けて殺された過去から「事実を知る」大切さ、動物の変わった生態などです。

「興味をもってくれたら会いに来てほしいです。そのときは、そっと見守ってくださいね」

【ヒゲワシ】 タカ目タカ科に分類されるヒゲワシ。アフリカやヨーロッパ、中国などの高山に生息。国際自然保護連合は、環境の変化によっては絶滅するおそれがある「準絶滅危惧種」に指定しています。野生下では食事のほとんどが骨です。

小学生向けの日刊紙「朝日小学生新聞」1月16日付に掲載した記事を再構成しました。媒体について詳しくはジュニア朝日のウェブサイト(https://asagaku.com/)へ。

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