フランスは、前渡金を使い切るつもりなのだろう。
フランスがロシア向けに作っている揚陸艦だが「2隻目も公試を始めたが、引き渡しの予定もない(大意)」という記事がある。
この揚陸艦はいわくつきである。ロシアから2隻の発注を受け、1隻目は去年の完成したものの、ウクライナ情勢によっていつ引き渡せるか、そもそも引き渡せるか分からないる。その上、2隻目が完成した状況にある。下手をすると数年間は在庫として港に係留しっぱなしとなる。
■ 建造費を使いきるフランス
フランスは、引き渡せない軍艦の建造を継続し続けたということになる。手許にある前渡された建造費を使い切るつもりが伺える。
揚陸艦2隻を引き渡す目処はまったくないが、契約解除もされていない。それなら「今のうちに、相手から預かっている建造費は使い切ろう」となる。仮に契約解除されても、精算時に「費消されている」として、返還しないで済むからだ。
使い切らせる理由は立つ。工事中断は高くつくといえばよい。ドックが塞がれる分お金がかかるよとか、今の状態で引き出しすと海水で腐食するよ、中断して再工事では、着手コストとしての労務契約費や仮設工事費、資材手配費用が膨らむよ、といったものだ。
■ ロシアは弱い立場にある
ロシアには弱みがあるので文句は言えない。ウクライナ情勢では四面楚歌にある。その状況で、フランスは、ロシアに対しまた妥協的な雰囲気がある。ロシアは、外面では孤高を気取っている。だが、欧州で話ができるフランスとの関係維持には、汲々としなければならない。
また、ロシア体制は失敗を認められない体制である。民主主義を装っているが、政治的には後進的な権威体制にある。失敗は「強いロシア」や「強力な指導者プーチン」のイメージを損ない、その指導力低下をもたらしてしまうためだ。
フランスとの関係や、国内での権威を考慮すれば、全く強くは出られない。たかが揚陸艦である。そのためトラブルは起こせない。それでフランスの心証が悪化し、ロシア外交の行き詰まりを世界に印象づけることを避けたい。
だから、ロシアは揚陸艦では泣き寝入る。その引き渡しや、造船所の建造費使い切りを黙って見ているしかない。
■ 足許を見るフランス
実際に、ロシアは契約解除に着手する素振りはない。一時期、口先では勇ましいことをいっていたが、現実には何もできない。
フランスも見透かしている。造船所が手許の建造費を使い切ろうとしても、文句をいう勢力はない。フランスにとっては国内経済の問題でもあるため、政治は使い切りに何も言わないし、その他の勢力をみても、労働界はむしろそれをけしかける立場にあるためだ。
※ Pugliese,David"Second Mistral-class ship completes first sea trial but no delivery to Russia""Otawa Citizen"(POSTMEDIA,2015.3.23)http://ottawacitizen.com/news/national/defence-watch/second-mistral-class-ship-completes-first-sea-trial-but-no-delivery-to-russia