脱北者が見た南北首脳、米朝会談

急激な朝鮮半島情勢の動向に目が離せない
(Photo credit should read SAUL LOEB/AFP/Getty Images)
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SAUL LOEB via Getty Images

急激な朝鮮半島情勢の動向に目が離せない

体制の安定と発展か、崩壊を早めるのかの岐路(※2018年4月現在の寄稿です。編集部)

最近の朝鮮半島の動向に目が離せません。鳴り物入りで始まった北朝鮮の平昌オリンピックへの参加と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の中国訪問を契機に、朝鮮半島情勢には急激な変化の始動が感じられます。  

国際社会と中国の引き止めにもかかわらず、6回の核実験と、大陸間弾道ミサイルの試験を強行し緊張を極大化させるだけ極大化した後、条件付き会談に乗り出したのは、すでに入念に計算して計画したものと思われます。入念な計算とは以下のようなものではないかと推測します。

金正恩委員長は、核と大陸間弾道ミサイルがある程度完成できたら、国際社会はもちろん、中国との外交でも、自分たちの主張を通させることができると判断したのでしょう。現実に党委員長が意図したとおり、中国は北朝鮮の主張どおりに動き始めたのです。

中国が保護していると知られていた金正恩の腹違いの兄の金正男を白昼堂々とマレーシアの国際空港で殺害したことは、世界を驚愕させました。北朝鮮に対する嫌悪感は高まり、金正恩政権に対する反感と不信感がさらに大きくなりました。

中国は国際世論の空気を読み、北朝鮮について本格的な経済制裁に乗り出したのです。中国はアメリカ主導の国連安保理決議に反対し北朝鮮をこれ以上孤立させないだろうと観測されていたが、実際には決議に驚きの賛成票を投じました。 

これで、北朝鮮との関係はさらに悪化しました。中国の経済制裁が本格的に始まり、今年に入って、北朝鮮の経済は窒息状態に入り始めたと北朝鮮国内から届く情報は伝えていました。

中国は朝鮮半島への影響力の行使維持をより重視

私は6年前に北朝鮮を出て日本に来ました。北朝鮮を出る時は親の故郷、私の家族がいる日本に行きたい一念で、命がけの脱北逃避行でした。 基金のみなさんの助けで日本に無事に着いた時は喜びと幸せで胸がいっぱいでした。しかし日本社会を知れば知るほど、あんまりにも無力な自分にがっかりしました。日本は独裁政権の北朝鮮で教育を受けた私にとって夢の世界でした。言葉はもちろん政治、経済、文化、すべてが初めてのことでした。

生き延びたい北朝鮮指導層にとって時間は有利

最近、金正恩党委員長が妻・李雪主(リ・ソルジュ)と一緒に中国を訪問し、韓国芸術団の公演を観覧し、歌手たちと写真を撮るなど破格的な行動をとったのも核武装をした自信からでしょう。 その最大のポイントは、選挙によって選出される民主国家の指導者とは異なり、時間は自分に有利であるという自信だと思う。その上、定年退職がなく、終身職業が保証されている70歳、80歳以上のベテラン外交政策者が70年以上にわたり、米国と交渉してきたノウハウを持っている北朝鮮との非核化の協議は難航するでしょう。

 2015年の北朝鮮2千300万人の国内総生産は約1兆8237億円で、日本で収入が最も低いという鳥取県のGDP、1兆8000億円と同様の国力です。米国のGDPと比較すると約千分の1。 このような国力で、米国との戦争も辞さないと公言している北朝鮮の行動を見ると、勇敢なのか、それとも自爆しようとしているのか、分からない。 はっきり言うと、世界で最も貧しい国の北朝鮮だが、むしろ絶大な権力と富を持った指導層が生き延びたい意欲は誰よりも強いのです。 労働党規約と憲法に核保有を明記し、核兵器を維持すれば体制と権力維持が可能であると考える北朝鮮の指導部が本当に非核化の意思があるかは、多くの疑問があります。 北朝鮮が核放棄する時は核保有する事が安全なものではなく、むしろ、核を持つことで、体制が崩壊するというリスクを感じる場合のみでしょう。 5月末に予定されている米朝首脳会談の結果次第で、北朝鮮は体制の安定と経済発展を遂げる道に行くのか、または体制の崩壊を早めるのかという最終的な岐路に立つでしょう。 

(文/北朝鮮出身者 金田久雄/北朝鮮難民救援基金 NEWS Apr 2018 № 108より転載)

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