【鬼滅の刃】炭治郎の柄は「いわゆる市松模様」。商標出願に拒絶査定。集英社の反論は届かず

集英社は「正方形だけでなく長方形も含まれている」「黒い枠線で囲まれている」などと反論。しかし、特許庁は「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」と判断しました。
特許庁の拒絶査定が出た「商願2020-78058」(竈門炭治郎が着ている羽織の柄)
特許庁の拒絶査定が出た「商願2020-78058」(竈門炭治郎が着ている羽織の柄)
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より

大ヒット作品『鬼滅の刃』で、主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)が着ている服の柄の商標出願に、9月24日付けで「拒絶査定」が出た。特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」で公開されている。

炭治郎の柄は「いわゆる『市松模様』の一種と理解される」として、商標登録できないことを伝える「拒絶理由通知書」を特許庁が出して、集英社が意見書で反論していた。しかし、特許庁の見解は覆らず「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」と判断を示した。

炭治郎の妹である禰豆子(ねずこ)と、友人の我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)の服の柄についても同日、「拒絶査定」が出ている。

■国内歴代トップ興収を記録、新作も放映へ

『鬼滅の刃』は、吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さんが、集英社の「週刊少年ジャンプ」で連載していた漫画が原作。鬼と人間の熾烈な戦いを描いており、幅広い世代から人気を集めている。

9月26日時点の興業通信社のデータによると、劇場版『鬼滅の刃 無限列車編』は興行収入403億2000万円と、国内歴代トップだ。 新作のテレビアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』の放送が12月5日から始まるなど、勢いに衰えはみられない。

■商標出願は「悪質な便乗商品を阻止するため」と集英社。煉獄杏寿郎ら3人分の商標は登録済みだった

主人公の炭治郎は作中で、緑と黒の市松模様の羽織を着ているシーンが多く、『鬼滅の刃』での印象的な模様となっている。

原作の版元である集英社は2020年6月、炭治郎を初めとする『鬼滅の刃』の主要キャラ6人分の服の柄を特許庁に商標出願した。対象となる商品はスマホ用カバー、ゲームソフト、衣類やタオルなど多岐に渡っている。

集英社は「ファンのみなさまを混乱させ、ご心配をおかけしている大量の悪質な便乗商品、違法なコピー商品を阻止し正規品の流通を守るため、作品に由来する色・形状比率、指定商品等を限定して、図柄の商標を出願いたしました」と、ハフポスト日本版の取材に答えている。

2021年6月3日付けで冨岡義勇(とみおか・ぎゆう)、胡蝶しのぶ、煉獄杏寿郎(れんごく・きょうじゅろう)の3人が着ている羽織の柄については商標登録がされた。

その一方、炭治郎と禰豆子の兄妹、我妻善逸(あがつま・ぜんいつ)の3人の柄については商標登録することができないことを伝える「拒絶理由通知書」が5月26日付けで特許庁から出されていた

■「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」と特許庁

特許庁は炭治郎の柄を商標登録できない理由について「いわゆる『市松模様』の一種と理解されるもの」と説明。これに対して集英社は意見書を7月6日に提出。「構成要素には、正方形だけではなく長方形も含まれている」「黒い枠線で囲まれている」という理由から「装飾的な地模様」に該当しないとして、商標登録を認めるように求めていた。

しかし9月17日、特許庁は以下のような理由から「拒絶査定」を出した。

「本願商標は、黒色と緑色の正方形を互い違いに並べ、連続反復的に配置した構成からなる、いわゆる「市松模様」の一種と理解されるものであって、自他商品の識別機能を果たすべき特徴的な部分を見出すことができない」

 

「正方形の商標の縁に黒線が見受けられますが、該黒線は、外側に余白がないため、一見しては、認識しがたいものとなっています」

 

「『市松模様』は、伝統的な柄模様として親しまれ、被服などの装飾的な図柄として普通に使用されている実情があります。そうすると、本願商標は、出願人が主張するような特徴が見られるとしても、全体として看者に与える印象から見ると、普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」

禰豆子の柄については「いわゆる『麻の葉模様』の一種と理解される」。善逸の柄は「被服などの装飾的な柄として用いられている鱗文様に通じる」としており、どちらも 炭治郎の場合と同様に「普通に使用されている装飾的な図柄を超えているということはできません」と、拒絶査定が出た。

集英社は今回の査定に不服がある場合、3カ月以内に特許庁長官に対して、審判を請求することができるという。

■拒絶査定、専門家はどう見る?

今回の商標出願が拒絶査定を受けた件について、知的財産権に詳しい東北大学特任准教授の稲穂健市氏は以下のようにハフポスト日本版に回答した。

――-集英社が意見書で主張していた内容が採用されなかったことについてどう思いますか?

集英社の主張は、周囲の黒線が商標の一部であり、外観上の特徴を備えた正方形の図形商標であるから、全体として識別力があるというものです。これに対して審査官は、黒線が一見して認識しがたいことに加え、全体の印象としても普通に使用されている装飾的な図柄を超えているとはいえないとして、その識別性を否定しました。無難な判断だと思います。正直、黒線があることは私も言われて初めて気が付きました。

――今後、集英社がこの査定に不服を申し立てる場合はどのような手段があるでしょうか?

拒絶査定の謄本の送達を受けた日から3か月以内に審判請求をすることができます。これを「拒絶査定不服審判」といい、3人または5人の審判官の合議体によって審理が行われます。集英社が審判請求をするかどうかはわかりません。審判において拒絶理由が解消したと判断されて登録審決に至る可能性もありますが、「正方形の図形商標」で同様の図柄に対してどのような権利行使をできるのかは気になるところです。

■拒絶査定が出た「商願2020-078059」(竈門禰豆子の着物の柄)

竈門禰豆子が着ている着物の柄
竈門禰豆子が着ている着物の柄
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より

■拒絶査定が出た「商願2020-078060」(我妻善逸の着物の柄)

我妻善逸が着ている羽織の柄
我妻善逸が着ている羽織の柄
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より

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