90年代初頭生まれのアラサー世代である私は、上の世代からは「若い子にはついていけないよ~」と言われながらも、すでに2000年代以降生まれの人たちの感覚には「ついていけないよ~」と思い始めている。
TikTokがその最たる象徴である。
インカメを駆使してとんでもなく難しい動きをしながらリップシンク(口パク)ムービーを撮ったり(大変そう)、表情筋をフル稼働させて笑顔、泣き顔、変顔のオンパレードを披露したり(疲れそう)、カンマ1秒単位で振りつけられたダンスを覚えて友達と踊ったり(難しそう)、00年代生まれの子達のバイタリティはすごい…と思わされるばかりだ。
写真を1枚撮ってInstagramに投稿したり、「今日も学校疲れた~」などとTwitterにつぶやくほうが幾分か楽そうである。
一方で、TikTok世代の知人に話を聞くと、「インスタのほうがよっぽど大変」「ツイッターじゃつまんない」と言われてしまう。
一体、どうしてTikTokなのか。
向学のため、超人気TikTokerたちの動画を観あさった。
私が中高生たちに聞いた話も織り交ぜながら、人気TikTokerのTikTokの使い方を紹介したい。
ファン数110万人、「ねおちゃん」は当たり前
TikTokerといえば、ねおちゃん。
Popteen専属モデルであり、TikTok上でのファン数(フォロワー数)は110万人。TikTok公式のCMにも出演していた。
いまやチャンネル登録者数400万人超のトップYouTuberグループ「東海オンエア」のメンバーにも、「今をときめく時代の象徴」「あの子には『現代』という文字で勝てん」と言わしめている。
ポップでワイワイしたイメージが先行するTikTokだが、彼女の使い方はちょっと違う。
・モノトーン、ダークカラーの一色で構成された動画が多い
・シック、またはダークポップな印象の曲調
・大人っぽさ、悟り、孤独感の演出
・コマ撮りなど、細部にこだわった編集
上記のような特徴を持つファッショナブルな動画が多い。
コメント欄を見ても、「ほんと編集うまい」「おしゃれ」などのコメントが目立つ。
自作音源「全力顔」が人気、「こたつ《にょ》🙈」
TikTok上で最も影響力のあるクリエイターの一人が「こたつ《にょ》🙈」だ。
TikTokにおいては、洋楽・邦楽問わず人気曲に合わせて口パクやダンスを披露する動画が定型だが、彼は常に「BGM」の新しい使い方を発掘している。
動画のタイトルを見ると、
・定員オーバーなのに、(エレベーターに)無理やり入ろうとする自分とそれを必死に止める友達
・(iphoneの)パスワードを忘れた時
・遅刻して急いでるのに全然タクシー捕まらん
と、コント調のものが続く。
音源に合わせて、自作のコント等ストーリー性のある動画をリズムよく披露するのが芸風だ。
彼の人気は、誰かが考えた既存のダンスや定型の撮り方ではなく、自分で音源を発掘したり、ダンスを創作したりするクリエイティビティによるものだと考えられる。
そのセンスは、彼の自作音源「全力顔」に表れている。
「全力○○始めるよ」という掛け声に始まり、「全力笑顔」「全力キメ顔」などリズムに合わせて表情を作っていくための音源は、すでに95万5,000個の動画で使われている。
おしゃれなインスタグラマーと違って、Tik Tokerは自然体
ねおやこたつのような使い方を見ていると、TikTokは彼らの創作力や編集力=クリエイティビティやセンスを発揮する場所として機能していることがわかる。
YouTubeとは違い、曲やリズムに合わせることが定型なので、バラエティ番組のような企画をつくるまでしなくてもよい。だが一方で、Instagramとは違い「動画」を簡単に編集できる機能が備わっている。
TikTok世代の知人は、「インスタは大した編集機能がないから、いい画像撮るために30分くらい悩まなきゃいけない。しかもほかのアプリで編集したのをインスタに上げる、とか、行き来しなきゃいけないのが面倒」という。
使いやすく、かつ、つくり込みやすい編集機能を備えたTikTokは、気軽に扱えるアプリという位置づけなのかもしれない。
そうしたTikTokの特徴は、そこに出現するインフルエンサーたちの使い方にも表れている。
彼・彼女らは、「インスタグラマー」に対して私たちが抱いている「“きれいでおしゃれでかわいくてかっこいい自分”だけを見せるインフルエンサー」とはほど遠い。
TikTokで人気を博すユーザーは、自然体、あるいは、面白い自分を見せるのがとても巧いのだ。
Erika・Marinaは圧倒的に美しく、圧倒的に「変顔」が上手い
そうしたジャンルでいま最も波にのっているのは、Erika・Marinaの姉妹だ。
ルーマニアと日本のハーフである彼女たちは、それぞれ54万フォロワー、72万フォロワーを超えるTikTokアカウントを持っている。その人気はとどまることを知らず、昨年には姉妹そろってグラビアデビューを果たした。
そもそも彼女たちは圧倒的に美しくかわいいのだが、人気になった理由はそれだけではない。とんでもなく「変顔」が上手いのだ。
モデルのように整った顔にも関わらず、自分をかなぐり捨てた変顔を次々に披露する様子が、好感度を一気に上げた。コメント欄にも「振れ幅が大きくて最高」「かわいいのに全力で変顔してるの好感度高い」とある。
Tik Tok界にも“子役”現る。12歳の「hinata」に注目
2006年生まれの12歳のhinataも、同様に変顔の名手だ。
芦田愛菜、本田望結、寺田心など、テレビで様々な子役が人気を博してきたが、今度のキッズはTikTokだ。
あどけない笑顔で250万フォロワーの心を掴んでいる彼女は、絵に描いたような”芸達者”。12歳にして、かわいいだけではなくクールな表情も多彩に見せ、編集技術にも長けている。彼女もまた、表情筋をフル活用した変顔を動画で披露して見せる。
レベルの高い自然体、「♡ゆな♡たこ🐙」
「自然体」を見せるのがうまいのは、「♡ゆな♡たこ🐙」も一緒だ。
彼女の特徴はナチュラル、カジュアル、ボーイッシュ。基本的に“はにかみ笑顔”を用いた動画を多く投稿している。
また、友人やほかのインフルエンサーとコラボした動画を多く投稿していて、「自分だけじゃなくて隣の人をたくさん映すゆなちゃん、本当にいい子」というコメントが多数見受けられる。
「TikTokでは、私かわいいでしょみたいな動画ばっかり撮ってる子は叩かれる」
TikTokにおけるスターたちのこうした振る舞いを見ていると、とにかく「自然体」「身近な存在」であることが重要であるように感じられる。
10代の友人曰く「なんていうか、インスタは公式な感じ。TikTokはもうちょっとゆるくて簡単な感じ。だから、わたしかわいいでしょみたいな動画ばっかり撮ってる子は結構叩かれてる」とのこと。
90年代初頭生まれである私の世代にとって、FacebookやInstagram等のSNSは、これまで自然体で生きてきた自分が急に「気取った自分」を切り取らなければならない場所、突然、「自分の生活を充実したように見せなければならない場所」となった。
おしゃれなカフェに行き、時間をかけて写真を撮り、一生懸命加工してInstagramに上げることには、少なからず「自分の生活がおしゃれであることを皆に見せるのが楽しい」という動機がある。
小さいころからInstagramと共に生きてきた下の世代にとっては、もはやそうした「気取った自分」を見せる/見ることは大前提。その前提に疲れたからこそ、TikTokに「自然体の自分」「身近な自分」を見せる/見る場所としての役割を求めているのかもしれない。
気軽に世界に発信できる“ちょうどいい”プラットフォーム
しかも、TikTokは編集機能が優れていて、使いやすく、つくり込みやすい。編集に時間がかかるInstagramとは気軽さが違う。
そうした意味でも、TikTokは気軽に世界に発信できる「ちょうどいい」プラットフォームなのだ。
私たちがアメブロでエビちゃんや田中美保ちゃんを見つめたように、彼らはねおちゃんやゆなちゃんを見つめている。
私たちが「前略プロフィール」で友人たちと繋がったように、彼らは動画で語り合っているのだ。