いよいよ「小池劇場」の終幕が来たのかもしれない。
10月22日投開票の衆院選。小池百合子都知事率いる新党「希望の党」は、過半数を上回る235人を擁立したが、朝日新聞デジタルによると公示前の57議席を下回り50議席となった。
一方で躍進を見せたのが、同じく新党で枝野幸男代表が立ち上げた「立憲民主党」だ。公示前の15議席から3倍を超える55議席に。一躍、野党第1党となった。
1993年、共に「日本新党」から国会議員に初当選した小池知事と枝野氏。奇しくも同じ時期に新党を旗揚げした。だが、「希望の党」と「立憲民主党」、その選挙結果は対照的なものとなった。
今回の衆院選における明暗は、どこで分かれたのか。選挙から一夜明けた今、これからの政治を考えるために、両党の成り立ちをもう一度振り返ってみる。
■小池知事は「これは政権選択選挙になる」とぶちあげたが...
2016年の都知事選、今夏の都議選に続く「小池劇場」の第3幕は9月25日にはじまった。
この日の夕方には、安倍首相が衆院解散を表明する記者会見が予定されていた。
小池知事は、これに先んじる形で同日午後に都庁で記者会見し、自らを代表とする「希望の党」の設立を発表した。
側近の若狭勝氏らの新党構想を「リセット」するとした上で、「これは政権選択選挙になる」とぶちあげた。
安倍首相が抜いた「伝家の宝刀」という解散権を利用する形で、小池知事は自民党・安倍政権に挑戦状を叩きつけた。その身には「戦闘服」の緑色のスーツをまとっていた。
臨時国会での野党の攻勢や「小池新党」の動きを警戒していた安倍首相にしてみれば、突然の衆院解散で機先を制するどころが、それを逆手にとられた格好となった。
「度胸がいいというか、たくましいというか。たいしたもんだよ」。小泉純一郎元首相も小池氏の勝負感を讃えた。
■「排除」の一言で全ては変わった
9月28日、衆院は解散。この日、野党第1党の民進党は、小池百合子都知事が率いる「希望の党」との合流を決めた。前原誠司代表が「打倒、安倍政権」を御旗に掲げて放った「奇策」だった。
小池ブームによる政権交代か――。にわかに、そんな雰囲気が出始めていた。
ところがそんな空気は、翌日の小池知事のひと言で一変した。
排除いたします。
9月29日、小池知事は安保法や憲法改正などで政策が一致しない民進党のリベラル系の公認希望者について、こう明言した。
民進党からの合流希望者に署名を求めた「政策協定書」も波紋を呼んだ。
「公認希望者は民進から離党を」「政策不一致なら公認はしない」――。公認希望者に「踏み絵」を迫った小池知事は、かつて政権を担った野党第1党を瞬く間に事実上解党へと追い込んだ。
だが、「小池ブーム」の潮目はここで変わった。
「排除」発言に反発した民進党リベラル系の枝野幸男氏が10月2日、新党「立憲民主党」を結成。選挙戦を通じて、第3極として存在感を持ち始めたからだ。
「右でも、左でもない。上からか、下からかだ」
「永田町の論理ではない、草の根の民主主義を」
「安倍さんも小池さんも、保守ではない」
「私はリベラルでもあり、保守でもある」
「私には、あなたの力が必要です」
「踏み絵」に反発し、理念を貫く姿勢をアピールした枝野代表の言葉は、SNSで広く拡散された。立憲民主党のTwitterアカウントのフォロワーは18万を超え、国政政党ではフォロワー数1位となった。
■お膝元の都議会「都民ファースト」からも離反者
小池知事のホームグラウンドである都議会でも、反小池の動きが出た。小池知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」所属の音喜多駿都議と上田令子都議が10月5日、同党に離党届を提出した。
「都民ファーストはブラックボックスそのもの」
「(希望の党は)詳細な公約も発表されないうちから右から左まで、思想・政策・理念も異なる政治家が200名近く集まっておられる。私には選挙目当ての野合のようにしか思えない」
「仮に私が都民ファーストの会に残れば、姉妹政党として無条件で、希望の党を応援しなければならなくなる。私の政治家としての許容範囲を超えている」
2016年の都知事選でいち早く小池知事への支援を表明した音喜多氏。離党会見では、「都民ファースト」と「希望の党」を、強い言葉で批判し、小池知事と袂を分かった。
■「いじめられる側」から「いじめる側」に...
都知事選と都議選では、自民党のしがらみを打ち破る「ヒーロー」として映った小池氏。だが、今回の衆院選では、「排除」の一言によって、ヒーローではなく「ヒール(悪役)」として映るようになってしまった。
「花粉症ゼロ」などを掲げた「希望の党」の公約にも疑問の声があがった。急場しのぎの政権公約という印象はどうしても拭えなかった。
そんな小池氏に代わって、ヒーロー役が回ってきたのが枝野氏だった。希望の党に合流せず、安保法への反対姿勢を貫き、新党を結成した枝野氏を、有権者は「筋を通した」と好感している面があるようだった。
立憲民主党の街頭演説では保守派の人物もマイクを握った。
10月14日、漫画家の小林よしのり氏は「希望の党にはもう未来はない!希望はない!」「小池百合子と前原誠司は腹を切れ!」と気勢をあげた。
この街頭演説会には、政治団体「一水会」元最高顧問の鈴木邦男氏も応援演説に立ち、「テレビやネットをみてもものすごい人気。ただの判官贔屓じゃない」と枝野氏を持ち上げた。保守・右翼運動の重鎮の登場に、年配の支持者に一部からはどよめきが上がった。
石原慎太郎元都知事も、Twitterで「節を通した枝野は本物の男に見える」と絶賛した。
「いじめられる側」として支持を集めた小池氏は、いつの間にか「いじめる側」と見られるようになっていった。選挙中の情勢取材でも、その失速ぶりは顕著だった。
■結果は与党の圧勝だった
小池氏が「政権選択選挙だ」とぶち上げた総選挙だが、結局フタを空けてみたら、与党の圧勝に終わった。自民・公明で312議席となり、衆議院の3分の2超を占めた。
日本経済新聞によると、出口調査では18~19歳の有権者の39.9%が自民党と答えた。若年層の多くが安定した政権運営を期待しているようだ。
小池知事から「排除」の対象とされた面々が集った立憲民主党は、野党第1党に大躍進。同党から立候補した前職は全員当選した。全年代を合わせた政党支持率でも、自民の36.0%に次ぐ14.0%だった。
一方で、「希望の党」は公示前議席を維持できなかった。
小池知事も「安倍政権のおごりについて申してきたが、私自身にもおごりがあったと反省している。非常に厳しい結果だと思う」「完敗だ」と語っているが、その求心力は急激に低下。早くも解党論まで出始めた。
結党メンバーで小池氏の側近だった若狭勝氏(東京10区)は、都知事選・都議選のリベンジとばかりに「総力戦」を仕掛けてきた自民党の攻勢の前にあえなく敗れた。
■有権者は「政局」ではなく「政治」を望んでいる
「希望の党」は結局のところ、野党共闘の分裂を誘発しただけだったのかもしれない。「小池ブームは終わった」。そんな声も出はじめた。
だが、仮にも「希望の党」は野党第2党となった。政権公約を掲げ、有権者の信託を受けた議席を持つ以上、国政の場でどんな活動をするのか。ブームにとらわれることなく、私たちは、そしてメディアは、そこに注視しなければいけない。
手垢の付いた言葉かも知れないが、有権者は数合わせの「政局」ではなく、いかに安心して暮らしやすい国をつくるかという「政治」を期待している。
これは、躍進した立憲民主党にも言えることだ。衆院で野党第1党にはなったが、立憲民主党は現時点で参院に会派を持っていない。立憲民主党に所属する参院議員は、民進党を離党した福山哲郎幹事長ただ一人だ。
ハフポスト日本版が参議院事務局広報課に問い合わせたところ、23日午後4時30分現在、福山氏は「まだ民進党会派所属となっている」という。
【※注】参院で会派を離脱するには、参議院事務局に会派離脱を届け出なければならない。参議院事務局広報課によると、福山氏から会派離脱届は現時点(23日午後4時30分現在)出ていないという。ただ、同課は「政党からの離党と会派離脱のタイミングはずれることもある」と説明する。
参院の会派は2名以上で結成できるが、質問時間は所属議員数によって割り振られる。このままだと立憲民主党は、満足に質問に立てないことになる。
枝野氏は選挙前、ハフポスト日本版のインタビューに対し、こう語っていた。
国政政党の党首である以上、総理を目指さないと無責任です。
ただ、国会で与党に対抗する政党にならなければ、結局はその他の野党と同じになってしまう。
民進党に残っている参議院議員が「合流」する可能性はあるのか。ハフポスト日本版は23日、記者会見の場で枝野氏に質問した。
枝野氏はこう答えた。
「参院で残っている方を中心に、民進党がこれからどういう風に変わっていくのかということは離党した我々が口を出すことではないと思っていますので、まずはどういう判断をされるのか見守りたい」
「我々としては民進党を離党して、新しい旗を立てて、永田町の事情でそれをぐらつかせてはいけないという期待をいただいている。『立憲民主党の旗、理念と政策を、数を増やすためにグラつかせた』という誤解を受けないように、そのことに注意して進めていきたいと思います」
参院民進党は24日、参院議員総会で今後の方針を話し合う予定だという。
立憲民主党は参院会派を組むのか。「希望の党」に参加した元民進系の衆院議員は、小池氏の求心力低下で何らかの動きを見せるのか。
2つの新党を巡る情勢は、特別国会までまだ動きそうだ。