持続可能な社会の実現に向けて、各領域で取り組みが進む現代。
ファッションやラグジュアリーなどの業界でも、代替原材料の開発・活用や循環型(サーキュラー)の仕組みづくりなどを通じた、多様なアプローチが実装されている。
グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガなどのブランドを擁するケリングは3月13日(木)、スタートアップ成長支援の専門部隊であるCIC Instituteのサポートのもと、ラグジュアリー、ファッション、ビューティ分野における持続可能なイノベーションの加速を目的とした「ケリング・ジェネレーション・アワード」を日本で初開催した。
日本のスタートアップの特徴は?

本アワードは、持続可能性の課題に取り組み、社会や地球環境にポジティブな影響をもたらすスタートアップ企業を支援する取り組みだ。
同社会長兼CEOのフランソワ=アンリ・ピノーさんは、日本での開催について「グループのビジネスにおいて重要な拠点であり、イノベーションとクラフトマンシップに対する深い理解のある日本において、本アワードを開催することは自然な選択でした。本アワードを通じて、ファッション業界の新しいパラダイムに貢献できるアイデアや、ソリューションを促進したいと考えています」とコメント。
審査員の1人を務めた同社チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼渉外担当責任者のマリー=クレール・ダヴーさんは「日本のスタートアップ企業は新しいテクノロジーとクラフトマンシップが、同じ組織の中に存在するユニークさを持っています。日本には洗練されたマーケットがあり、クオリティにおける水準が世界トップクラスである点も特徴だと感じます」とコメントし、本アワードや日本のスタートアップ企業に寄せる思いを語った。
財務目標だけでは虚しい、これからのラグジュアリー

イベントの冒頭では、ピノーさんと、プロテイン繊維「Brewed Protein ファイバー」を開発・生産する日本発バイオスタートアップ Spiber 代表執行役の関山和秀さんによる対談が行われた。
サステナビリティという領域でさまざまな課題の解決に取り組んでピノーさんは、自身のキャリアにおける非常に早い段階で、父親の影響もあり「企業は財務目標を超えた使命を持っているべきだ」という考えに至っていたという。
ピノーさんは「ビジネスを継続するためにお金を稼ぐことだけでは不十分」と話し、ラグジュアリーブランドの「2つの使命」について説明した。
1つは「ファッション業界に創造性をもたらすこと」だ。ピノーさんは、業界でリスクを取って創造性を推進することはラグジュアリーブランドの使命であり責任だという。
もう1つは、同社グループが2007年から本格的に取り組み始めた「持続可能性」だ。取り組みを始めた当時、周囲からは「サステナビリティは事業の足枷になるのではないか?」という声もあったが、各ブランドのクリエイティブ・ディレクターたちは非常に先進的で、積極的にプロダクトやブランドの世界観を通じてサステナビリティを表現していったという。
ピノーさんは「もしグループ全体が単に財務目標だけを掲げてしまえば、それは正直、非常に虚しいことだと思います」と話し、ラグジュアリーブランドにおける、サステナビリティ向上のための取り組みを牽引する責任を強調した。
山形県鶴岡市に本社を置くSpiberは、ケリングがサステナビリティに本格的に取り組みはじめた時期と同年に誕生したバイオベンチャーだ。関山さんは、バイオテクノロジーやコンピュータ・サイエンスとの出会いを通じて、「平和維持活動」として事業をはじめたことが始まりだと明かした。
また、現在までの道のりを振り返り「20年ほど挑戦を続けてきましたが、正直に『成し遂げた』という感覚はなくて、今も『来年こそはスタートラインに立てるのではないか』と感じています」「事業を展開していると、たくさんの想定外の危機が訪れますが、それと同じくらい想定外の機会もあります。弊社が大変なときも、ケリングやさまざまなブランド、メーカーとの協業のチャンスがあり、それを掴んで、なんとか乗り越え、大きく成長できました」と話し、ファイナリストの企業にエールを送った。
発酵と材料科学、そして海藻も。サステナビリティの多様な形

アワードで最優秀賞を受賞したのは、発酵技術を用いてさまざまな資源を循環させる事業を展開するファーメンステーション。食品廃棄物をはじめとする植物由来の未利用資源を活用しており、サステナビリティと機能が両立した原料や、ビジネスにおけるスケーラビリティー(規模の変化に対する適応性の度合い)が評価された。
同社代表取締役の酒井里奈さんは「本当に感慨深く、誇らしい気持ちです。16年間がんばってきたこのチームを誇りに思っています」「世界でサステナビリティに対する逆風がある中、サステナブルビューティという領域で、我が社も貢献していけたらと考えています」と話し、受賞の喜びと未来への思いを語った。
第2位を受賞したのは、材料科学の視点から環境問題の解決に取り組むアンフィコ。アメリカや欧州におけるPFAS(有機フッ素化合物の一種)規制を背景に、PFASフリーで機能性透湿防水テキスタイルを実現する技術に加え、6色の糸から独自染色アルゴリズムにより1000種以上もの色を表現するコンセプトが高く評価された。
第3位を受賞したのは、藻類の研究開発を通じて社会課題の解決を目指すアルガルバイオ。特別賞は、化学品製造の脱化石資源化を目指し、バイオマス由来の原料を活用したサステナブルな化学品生産に取り組むマイクロバイオファクトリーが受賞した。
今後も、サステナビリティへの歩みを進めるラグジュアリー、ファッション、ビューティ分野の日本のスタートアップ企業に、多くの注目が集まりそうだ。