毎日の生活に欠かせないスマホやパソコン、SNS、ECサイト…。
アメリカの巨大IT企業GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)によって私たちの生活は支えられていると言っても過言ではないだろう。
彼らがリードするのは、ITテクノロジーの分野だけではない。
GAFAMは積極的に環境問題に取り組み、CO2の排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を掲げて再生可能エネルギーへの移行を牽引している。
なぜITの巨人たちが環境問題に取り組むのか。
世界経済のトレンドに詳しい夫馬賢治さんは、こうした流れの背景には「ESG投資の加速」があるという。
“GAFAM”が本気で取り組む再エネ移行
ここ数年で急速に進んでいるGAFAMの取り組みとはどんなものか。
いずれの会社も製品の開発や製造、輸送などの過程で、それぞれ排出されるCO2の削減に向けて、主に3つの言葉で目標を掲げている。
1.カーボンニュートラル
事業を通して排出するCO2に対して、排出権の購入や植林などにより同じ量だけ吸収・除去することで、排出量を全体として実質ゼロにすること
2.カーボンネガティブ
事業を通じて排出するCO2よりも、排出権の購入や植林などによって吸収・除去する量の方が多くなっている状態のこと
※「カーボンポジティブ」という表現をする企業もある
3.カーボンフリー
再生可能エネルギーなどの使用により、CO2を排出しないこと
それらを達成するためには、CO2を多く出す従来型の電力から再生可能エネルギーへの移行が不可欠だ。
グーグルは、創業から10年の2007年にカーボンニュートラルを達成し、2017年には電力を100%再生可能エネルギーに切り替えたことを発表している。2030年までにカーボンフリーとなることを目標としている。
再生可能エネルギー電力を大規模かつ長期的に入手するために、アイオワ州の風力発電所から発電量の全てを購入する契約を結ぶなどして、世界で最も再生エネルギーの購入量が多い企業となっている。
アップルは、2030年までにカーボンニュートラルの実現を宣言している。しかも、自社だけではなく、世界中の部品を製造する取引先を含むサプライチェーン全体で、アップル製品の製造に使用する電力を100パーセント再生可能エネルギーに振り替えていくという。取引企業の110社以上が、すでに賛同し、足並みを揃えている。
フェイスブックは、2020年までにCO2排出量を75%削減する目標を掲げていたが、達成できる見込みとなったため、2020年9月には新たに、2030年までにカーボンニュートラルを実現する目標を発表。取引のあるサプライヤーからの排出量や、従業員の通勤や出張などの他の要因を含め全体で取り組むとしている。
アマゾンは、環境NGOと共に森林保全などのプロジェクトに1億円を投資したり、再生可能エネルギーを購入したりするなどし、2040年までにカーボンニュートラルを目指すと発表。2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す「パリ協定」より10年早く達成するとしている。
マイクロソフトは、2025年までに再生可能エネルギーの100%供給に移行し、2030年までにカーボンネガティブにすることを発表。
温室効果ガスを実質ゼロにするだけでなく、植林を手がけたり、空気中から温室効果ガスを取り除く新技術の開発に投資をするなどして、自社が排出する量よりも取り除く量の方を多くするという。
最近、耳にするようになったESG投資とは?
GAFAMがこれだけ本気で再エネに取り組む理由の一つに、「ESG投資の加速」があると夫馬さんはいう。
ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視して投資を行うこと。
環境・・・環境問題などへの取り組み
社会・・・人権問題や女性活躍などへの取り組み
企業統治・・・取締役の多様性担保など
もともと、投資家がどんな企業に投資するかの判断基準は、企業の売上など数値化されているものが基本だった。
それに対して、「E・S・G」の項目に対して企業がどれだけ取り組んでいるかを考慮するESG投資の額が大幅に増えてきている。
GAFAMが環境問題対策および再エネへの移行に必死で取り組む背景に、こうした流れがあることも見逃せない、と夫馬さんは指摘する。
「投資」と言われても自分には関係ない、と思っていませんか?
世界でESG投資が加速したきっかけは、2008年のリーマンショックだ。
「リーマンショック後に起きた暴動などにより、経済格差、情報格差といった社会課題が浮き彫りとなり、企業はそれまで見えていなかった、自分たちのリスクを洗い出しました。例えば2008年に多くの死者を出したハリケーン・カトリーナ。気候危機も企業が向き合うべき大きなリスクの一つだと気づかせたのです」(夫馬さん)
そこから、環境課題、人権問題などに本気で取り組む企業が増え、投資家たちもESGを考慮している企業にお金を投資する流れができたという。
一見、働く一人一人にはあまり関係ないように思われるESG投資。しかし夫馬さんは「働きがいに直結します」と語る。
「みなさん、夢のある仕事をしたいと思いますよね。でも、会社で新しいことをやろうとすると、お金が必要です。じゃあ、そのお金はどこからくるのか?会社の外から調達しないといけないこともあります。
今、投資家や銀行がどういう企業だったらお金を出してくれるのか。感度高く知っておくことは、一人一人の働きがいにつながってくるのではないかと思います」
普段、何気なく手にしているGAFAMの製品やサービス。その背景にある世界経済のダイナミックな潮流にも、思いを馳せてみませんか?
【夫馬賢治(ふま・けんじ)】
ニューラルCEO。ESG・サステナビリティ専門家。ハーバード修士。環境省や農林水産省等の有識者委員。
Sustainable Japan編集長。国際NGO理事。著書に『ESG思考』『データでわかる2030年地球のすがた』。5月21日発売の新著『超入門カーボンニュートラル』予約受付中。
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