被災地の復興は教育にかかっています。私も、教育者の一人です。
ときわ塾は職員への福利厚生の一環で立ち上げた学童保育施設として平成25年に開校しました。在籍する児童は約30名、小学校1年生から6年生までをお預かりしています。
ときわ塾は平日半径約25キロの小学校へ子ども達をお迎えに上がり、来塾後宿題や遊びをしながら19時までお預かりしています。長期休み時は7時から19時まで開校し、勉強や遊び以外にも病院見学や介護体験をはじめとし、お寺に行き座禅体験をしたり、各分野のプロの選手を呼び体験教室を開くなど、子ども達に"本物"の何かと触れ合える機会を多く設けています。
今回は我々が子ども達"本物"とふれあう環境を多く設けるきっかけとなった日をご紹介し、子ども達に起こる変化と私自身の教育観の変化を取り上げていきたいと思います。
まず"本物"とふれあう手段として具体的に行っていることは、上記以外にも長期休みを利用した東京大学などこれからの日本を担う学生の皆様による授業、競輪選手による自転車のルールとマナー教室など、多種多様です。幸いなことに、ご協力いただいている皆様は、それぞれ現場の第一線で活躍する方々であり、その分野のスペシャリストであります。
その中で、昨夏行われた競輪選手の新田祐大選手、古川功二選手による自転車のルールとマナー教室(以下、自転車教室)を皆様にご紹介したいと思います。
お二人は福島県のご出身であり、競輪界を牽引している選手です。新田選手は先日行われました全日本選手権でも優勝され、ロンドン五輪に続き、リオ五輪も目指されています。
そんなお二人が故郷である福島の復興のため、何か手伝いたいと声を上げてくださり、この自転車教室が実現いたしました。
授業内容はとても分かりやすく、身近な内容でした。子ども達が自転車に乗る前に確認しなければいけない箇所、安全に自転車に乗るために注意すべきこと、運転中のルールなど、どれも日常的なもので、丁寧にお話してくださいました。その後、実際にレースで使われている自転車に乗ったり、触ったり、両選手の太腿の太さに驚いたり・・・自転車のプロに直に教えてもらう、こんな贅沢な自転車教室があっていいのかと恐縮する私とは裏腹に、子ども達の表情がとても満足気だったことを覚えています。
その後、子ども達とふれあう中で、「競輪選手になって、勝ったお金でラーメン屋を開きたい!」と夢を語る子ども、「自転車に乗れるようにもう一度頑張ってみようかな...」そう言って補助輪なしの練習を何年かぶりに再開した子どもなど、あの日の経験が子ども達の夢ややる気となり、今日まで生きています。
普段学校で学ぶ交通指導だけでは、「自転車を使った競輪というスポーツがあること」「競輪で生活している人がいること」それらは見えない部分です。(目的が違うので当然ですが。)しかしお二人が小学生の目線に立って、"自転車"という一つのカテゴリーの中にある様々な内容や、背景を教えてくださったため、子ども達は自転車や競輪をより近くに感じることができました。私は、そんなお二人の姿や子ども達の表情を見て、この日の経験が、子ども達が描く夢の一つの『きっかけ』になっていくだろうと強く感じました。
甲子園を知らない高校球児が甲子園を目指すことはありません。自分の知らない世界を目指す人間はいないでしょう。
だからこそ、私はこれからも無限の可能性を持つ子ども達に、新田選手、古川選手のような、各分野で活躍されている"本物"の人、"本物"の環境、"本物"の道具とふれあえる機会を設け、子ども達の夢へのきっかけ作りを今後も継続して実施したいと思っております。
最後になりますが、新田選手、古川選手をはじめ、被災地の復興にご尽力いただいております皆様に心より感謝の意を表し、結びとさせていただきます。ありがとうございました。
(2015年5月18日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)