睡眠薬などを悪用して飲み物に混ぜ、相手を抵抗できない状態にして性暴力を加える「デートレイプドラッグ」事件。
この卑劣な犯罪を断ち切ろうと、警視庁が捜査用薬物検査キット「D1D Plus(ディーワンディープラス)」を導入した。
薬物が使われたかどうかを調べる本鑑定は、1か月ほどかかる場合もあるが、キットを使えば数分で簡易鑑定することができる。そのうえで、時間をかけて本格的な鑑定を行う。
初動捜査への貢献や、被害者の心理的負担の軽減につながることが期待されている。
全国各地で起きるデートレイプドラッグ事件
デートレイプドラッグ事件は全国各地で相次いでいる。
岡山県警は5月19日、女性らに薬物を飲ませ、性的暴行を加えたとされる男の一連の捜査を終えたと発表した。
男は宿泊施設を経営しており、客に薬物を混ぜた酒などを飲ませて抵抗できない状態にした上、性的暴行を加えたとされる。
県警が被害を裏付けた女性は計10人に上った。(2023年5月20日付の朝日新聞)
警視庁も5月9日、マッチングアプリで知り合った女性に睡眠作用のある薬を飲ませ、性的暴行を加えたとして、舞台監督で元芸人の男を準強制性交容疑で逮捕したと発表した。
男は別の女性にも同様の行為をしたとして逮捕されており、その際に押収された携帯電話に、今回の事件の様子を撮影した動画が残っていたという。(2023年5月9日付の朝日新聞)
事件は氷山の一角。一過性前向健忘とは?
警視庁によると、睡眠薬などのデートレイプドラッグを使った性犯罪は、都内で年間20件前後発生している。
だが、この発生件数は「氷山の一角」とみられる。
悪意のある人物に薬物とお酒を飲まされると、被害者は事件当時の記憶をなくしてしまう。
この状態は「一過性前向健忘(いっかせいぜんこうけんぼう)」と呼ばれ、被害者は歩いたり、話したりしたことも覚えていない。
そのため、いざ警察に被害を伝えようとしても当時の状況をうまく説明できず、被害申告を諦めるケースがある。
さらに、薬物の本鑑定は1か月程度を要することがあるため、結果を待っている被害者の心理的負担も大きかった。
被害に遭ったショックから、この間に事件化を望まなくなることも十分想定できる。
デートレイプドラッグ事件を断ち切ると決意
このような背景から、警視庁は捜査用薬物検査キット「D1D Plus」を導入した。
同庁によると、キットで尿を鑑定すると、薬物が使われたかどうかと、薬物の種別を、ほんの数分で判断できる。
捜査機関にとっては事件性の有無をすぐに判断し、初動捜査につなげることができ、被害者も数分で結果が出るため、心理的な負担軽減につながる。
D1D Plusという名前は、デートレイプドラッグの頭文字「D」をとった。そこに、この犯罪を断ち切るという決意を込めて、Dの間に捜査1課の「1」を入れた。
また、デートレイプドラッグ関連の事件をめぐっては、被害者が事件当時の状況をうまく説明できないことから、交番の警察官が事件性を疑わず、尿検査の手続きを取らないケースも取材で確認されている。
警視庁は、ハフポスト日本版の取材に対し、「交番に限らず、全ての警察官が被害者の心情を正しく理解し、必要な場合に適切に対応できるよう、各種教養(教育)を徹底していく」とした。
D1D Plusは、昨年から一部の警察署で試験的に導入しており、今年4月から警察署に配布して本格的な運用を始めている。