千葉県・柏の葉キャンパス駅周辺に広がる「柏の葉スマートシティ」の進化が加速している。
2005年のつくばエクスプレス開業以降、ゴルフ場があったエリアに、ゼロから街がつくられたのが柏の葉スマートシティだ。コンパクトな街だが、大学や企業の研究施設、スタートアップなどが徐々に集積し、公民学連携のイノベーションが生まれ始めているという。
2024年10月26日から10月27日に開催されたオープンイノベーションの祭典「柏の葉イノベーションフェス2024」について、その成果を取材した。
同イベントは今年で6回目の開催となる。今年は「共創」をテーマに、参加型のコンテンツが増えたことが特徴だという。実際に、多くの住民たちが楽しそうにイベントに参加する様子が見られた。
100名以上の住民らが声を吹き込むARコンテンツ
まちがおしゃべりしはじめるARコンテンツ「TALKING CITY」は、昨年も実施されたメインコンテンツの1つだ。街中の様々なモノに顔のマークが設置されていて、スマートフォンをかざすと、そのキャラクターが動き出しておしゃべりしてくれる。
設置箇所は100か所あり、それぞれ異なる話を聞くことができる。内容は、街の秘密や魅力についてだ。「現在工事中の場所に何ができるのか」や、「街に電柱がない理由」など、住民でも意外と知らないことを、楽しみながら知ることができる。
キャラクターの声は、柏の葉に住む人や働く人が吹き込んだ。100名以上が参加し、事前に収録したという。
今年からは、新たな試みである「TALKING TREE」も行われた。設置されたツリーのオブジェの裏側に収録ブースがあり、住民に街のことを話してもらう。そして当日収録された声を、参加者が聞くことができるというインタラクティブな企画である。当日は「ねえ知ってた?東大の池には、金色の鯉がいるらしいよ、見つけたらラッキーだね!」などの声が吹き込まれ、聞いた人たちに笑顔が見られた。
TALKING CITYは、ARを通じて情報を交換することで、街に愛着を持ってもらうことが主な目的だ。中には「AEDの設置場所」などについて話されることもあり、知っておくと有益な情報が得られる。
当日は、子どもから大人まで楽しそうにスマートフォンをかざす姿が街中で見られた。1日で100か所全てをめぐる人もいたという。
住民と共に審査するビジコンで、高校生が優勝
もう一つのメインコンテンツである「ハツメイノハ」は今年で3回目の開催となるビジネスアイデアコンテストだ。
テーマは「柏の葉スマートシティを舞台に、世の中に広がっていくビジネスアイデア」。応募者の年齢や経歴などの条件はない。また、柏の葉スマートシティとの親和性があれば、どのような事業領域でも応募可能であるという間口の広いコンテストである。
過去には、防災のゲーミフィケーションやサステナブルジンなどのアイデアが評価され、柏の葉エリアで実装されてきた。さらに今年は、住民投票を交えた審査が行われることもあり、住民の注目が集まっていた。
当日は、住民と審査員が見守るなか、ファイナリスト5組によるプレゼンテーションが行われた。
優勝したのは、北海道の高校生が率いるチームだ。子育てにやさしい社会の実現を目指す「こまもりプロジェクト」を提案した。チームは、賞金100万円を獲得し、柏の葉スマートシティでアイデアを実装するための様々なサポートを得られる。
柏の葉スマートシティは、大学や企業の集積が注目されるが、住民を含む幅広い人と共に街づくりをしていることが大きな特徴だ。高校生のアイデアを住民らが評価し、企業や研究所がサポートするというハツメイノハは、柏の葉スマートシティの「共創」がよく表れたコンテストだといえるだろう。
同イベントでは、ロボットコンテストや、ハロウィンなども行われた。街中が賑わい、共創によるイノベーションの成果と萌芽が見られる2日間となった。
普段から住民が街づくりに参加
柏の葉スマートシティでは、なぜ共創が生まれているのか。イベント終了後、柏の葉スマートシティの街づくりについて三井不動産 柏の葉街づくり推進部の金田昂さんに話を聞いた。
「柏の葉スマートシティの街づくりは、とても幅広いんです。ライフサイエンスも、モビリティも、エネルギーも、いろいろやっている。正直わかりづらいと思います」
柏の葉スマートシティは、「環境共生」「健康長寿」「新産業創造」の3つのテーマを掲げているが、内容は多岐にわたる。わかりやすく発信したいという思いから、2019年にイノベーションフェスを始めた。当初は、著名人を呼んだトークイベントなどが中心だったが、近年は変化してきた。
「柏の葉の魅力は、身近なところで共創が起きていることです。だから、街に住む人や働く人が参加できて、共創を感じられるようなイベントに変わっていきました」
街の人々が楽しむことで、街の魅力が外に発信されていく。実際に、イベントでは住民の熱量の高さが感じられた。イベント中だけでなく、普段から住民が活発に街づくりに参加しているという。
「実証実験を行う時も、インセンティブ目当てというより、社会や街の発展に貢献したいという思いで参加される人が多い印象です。街づくりに参加できることを魅力と捉えて、ここに住まれている方もいると思います」
柏の葉スマートシティは、街づくりを通して日本が抱える課題を解決することを目指し、約20年前に開発が始まった。もともとゴルフ場だった土地が、今では約1万3千人が住む街になった。
「通常の郊外のベッドタウン型の開発とは違うし、投資もすぐ回収できるわけではありません。覚悟を決めて、僕らしかできない街づくりをやろうと思って取り組んできました」
様々な街づくりをしてきた三井不動産にとっても新たな挑戦だったと金田さんは話す。成果が生まれてきた今、柏の葉の特徴をさらに活かしていきたいという。
共創を加速する新プログラムがスタート
柏の葉の特徴は、人や大学、企業が集まっているだけではない。ハツメイノハで生まれたアイデアが実装されているように、街を巻き込んだ実証実験が活発に行われていることだ。
なぜ、それが可能なのか。
「コンパクトな街で、普段からコミュニケーションが取れているからでしょうか。見ず知らずの人たちだと、なかなか進まないじゃないですか」(金田さん)
この20年で、住民、大学、自治体、企業が有機的につながるコンパクトで濃いコミュニティをつくり、実証実験をするためのインフラを整備してきた。共創しやすい条件を揃えてきたのが柏の葉スマートシティなのだ。
イノベーションが生まれる土壌ができた今、柏の葉スマートシティは企業向けビジネスプログラム「CO-GROWTH」をスタートさせた。研究開発から実証実験、社会実装までを、柏の葉スマートシティで実行するワンストップのプログラムだ。
金田さんは、CO-GROWTHの狙いを次のように語る。
「社会課題解決を見据えて、参画企業と街が共に成長することを目指します。柏の葉の街を舞台に、様々なプレイヤーが結集し、イノベーション創出や新産業創造を目指していきたいです」
柏の葉スマートシティのビジョンに共感するパートナーを更に増やし、”世界の未来像をつくる街”の実現を目指す。ゼロから開発された街から、日本の課題を解決するイノベーションが近々生まれるかもしれない。
◇柏の葉イノベーションフェス 2024
https://kashiwanoha-innovation.jp/
◇共成長ビジネスプログラム「CO-GROWTH」
https://www.kashiwanoha-smartcity.com/cogrowth/
取材&文:kayuko murai 編集:磯本美穂