立憲議員が「オーガニックで子どもの発達障害の症状が改善」と投稿。専門家は「魔法の薬なんてない」と指摘

立憲民主党の川田龍平・参議院議員が「オーガニックな食事で子どもの発達障害の症状が改善できる」と投稿し、物議を醸しています。発達障害について正しく理解するため、専門家を取材しました。
川田龍平議員(2019年5月29日撮影)
川田龍平議員(2019年5月29日撮影)
時事通信

立憲民主党の川田龍平・参議院議員が12月7日、Xに「オーガニックな食事で子どもの発達障害の症状が改善できる」と投稿した。

川田議員は、農薬「ネオニコチノイド」が子どもの発達に影響していると発信しているが、国立環境研究所が公表した調査結果では、「関連はみられない」と因果関係が否定されている。

そもそも発達障害は「改善すべきもの」なのか。そして、国会議員が根拠のない情報を発信する危険性は何か。

発達障害を正しく理解するため、ハフポスト日本版は「オーガニックで全て良くなるという『魔法の薬』なんてない」と話す専門家にインタビューした。 

「オーガニックな食事で子どもの発達障害の症状も改善!」などと投稿

川田議員は12月7日、「アメブロを投稿しました。 『【お知らせ】オーガニックな食事で、子どもの発達障害の症状も改善!』」とXに投稿。

投稿には、「【新版】EU、米国、韓国、中国等で禁止されているネオニコチノイドの最新情報が出ました」とタイトルのブログ記事が添付されていた。

記事は主に、サイエンスライターが農薬「ネオニコチノイド」に関してまとめた本の宣伝で、川田議員は次のような趣旨のことを書いていた。

子どもの発達への影響を及ぼしている農薬ネオニコチノイドの危険性をわかりやすく伝えている」

 「オーガニックな食事で子どもの発達障害の症状も改善!と題し、有機農産物を活用した学校給食の拡がりを取り上げている」

川田議員のブログ
川田議員のブログ
ハフポスト日本版

「子どもの発達との間に関連はみられない」

ネオニコチノイドは本当に子どもの発達に影響を及ぼしているのか。

国立研究開発法人国立環境研究所は11月14日、 「母親の尿中ネオニコチノイド系農薬等濃度と子どもの発達との関連について—子どもの健康と環境に関する全国調査」を公表した

ネオニコチノイド系の農薬は多くの国で使用されており、害虫に対する優れた防除効果があるため、日本では出荷量が約20年で2倍以上増えているという。

これまでの研究はあくまで農薬のばく露(人が化学物質などの環境にさらされること)を使用頻度などの質問票で評価していたため、今回は実際に妊娠中の母親から尿を採取した上、ネオニコチノイド系農薬等のばく露を定量的に評価し、子どもの4歳までの発達との関連を調べたとしている。

その結果、「母親の妊娠中のネオニコチノイド系農薬等ばく露と、子どもの発達との間に関連はみられなかった」ことが判明した。

また、ネオニコチノイド系農薬などの推定1日摂取量が、許容1日摂取量を超える母親はいなかったという。

なお、許容1日摂取量とは、環境汚染物質などの非意図的に混入する物質について、人が生涯にわたって毎日摂取し続けたとしても、健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量のことを示す。 

「オーガニックフードで良くなるというような『魔法の薬』はない」

川田議員の投稿を発達障害の専門家はどうみたのか。

ハフポスト日本版は12月13日、「ハートクリニック横浜」の柏淳院長を取材した。

一問一答形式で紹介する。

ーーそもそも発達障害とは何ですか。

基本的には生まれつきのものです。よく知られているのは「ASD(自閉スペクトラム症)」、「ADHD(注意欠如・多動症)」、「SLD(限局性学習症)」。例えばSLDで言うと、「読む・聞く・計算する」などのうちどれかが抜けるというものです。

人との関わり方に悩む人が多く、社会的な場面での振る舞いやコミュニケーション、集中力の欠如などが挙げられます。私は成人の専門医ですが、どうしてもチームワークの仕事で同僚の輪に入れなかったり、目の前の仕事しかできなかったりする人が多いです。

本来の知的な能力は高いのに仕事ができない人たちがいて、その場合はここで発達障害と診断されることがあります。

ーーどのように診断していくのでしょうか。

診断基準というものがあり、基本的にはそれに従います。例えばADHDは12歳までに症状が出ることになっていますが、そのような幼少期から現在まで続いている症状を確認していきます。ただ、症状があっても困っていない人もおり、その場合は特に診断をつける必要はありません。 

ーー川田議員の投稿に「発達障害の症状も改善」と書かれていました。診断をつけない場合もあるということですが、そもそも発達障害というのは改善させるべきものなのですか。

改善という意味をどう捉えていいのかという論点はありますが、当然ながら病院に来る人は治療をしてもらう目的で来ています。ただ、基本的には生まれつきのものなので変わらない部分もあり、私たちからすると病気というよりは「特性」だと思っています。

つまり、大多数を占める定型発達(発達障害ではない多数派の人々)の人たちが作った社会では非常に困ってしまうことも多い。ただ、学校で1日中机に座ることはできなくても、他に得意なことはたくさんあり、活躍の場さえ用意できれば力を発揮する人もたくさんいます。

ーー川田議員の発信で問題だと思われたことは何でしょうか。

やはり「オーガニックフードで発達障害の症状が改善する」という点ですね。

オーガニックフードそのものを否定するつもりはないですが、根拠のない情報を国会議員が発信してはならないと思いますし、そもそも何をもって「改善した」と言えるのか分かりません。

農薬を取り除けば解決すると考えているのかもしれませんが、世の中そんなに簡単ではない。発達障害は生まれつきの脳の神経回路に由来する話なので、食べ物だけで変わるのであれば苦労はしません。

私たちは発達障害の特性とどう工夫して向き合っていくか、職場にどう馴染むか、仕事を行うためにはどういう支援が必要か、といったことを考えていますし、そのようなことの方が大事だと思います。

ーー根拠のない発信が発達障害のある人に影響を及ぼす可能性はありますか。

心配しています。小児の発達障害を専門としている先生の場合、「何を食べさせたらいいのですか?」と聞かれることも出てくるかもしれません。もっと言うと、この川田議員の話を真に受けて医療機関に行かず、食事だけでなんとかしようという親も出てくる可能性があります。

発達障害には様々なものがあり、オーガニックフードで全部良くなるみたいな「魔法の薬」はありません。 発達障害は悪いものだから改善しないといけないと捉える人が出てくると、差別につながる心配もあります。 一冊の本だけを根拠としないでほしいですね。

ーーもし子どもが発達障害ではないかと思ったら、親はどのように行動すればいいのでしょう。

福祉、教育、行政などで様々な支援がありますが、やはり診断が必要となりますので、最初は医療機関にかかるシステムになっています。

正しい知識を持った専門医と、どの程度自分の症状と向き合うのか、どれくらいを目標とするか、といったことを話し合い、方向性を決めることが重要です。

先ほど申した通り、子どもの頃から勉強ができてハイレベルな大学に通っていても、会社に入ったら馴染めないケースがあります。その場合、まずは目標を落とすことから始めないといけないし、違う分野では力を発揮できる可能性があるので、向き合い方、方向性を決めることが大事になってきます。

凹凸があったとして、その人の凸(得意なこと)をいかせるようにしていきます。

ーーやはり発達障害を正しく理解し、特性として向き合っていくことが重要なのですね。

発達障害は悪いもの、というのは古い考え方です。確かに、日本では「学校の席に座ってられるようにすること」が求められており、確かにそれは必要なことではありますが、海外では森の中で教育するような学校がある国もあります。

まだ日本はそういう考え方が普及していないので、どうしても発達障害は悪いもので、改善させなければならないといったことを言う人が出てきます。

日本の社会では「自分の努力が足りない」「自分が悪い」と思ってしまいますが、病院で診断されたらホッとする人もたくさんいます。これまでうまくいかなかった理由がわかるのでしょう。

そういう意味で自由度の高い社会になってほしいです。ADHDは子どもで5%、ASDは2〜3%いると言われています。広くとると、日本人の約10人に1人はなんらかの特性があるとも言われています。本当の少数派というわけではありません。

学校のシステム、社会のシステムが変わり、この10人に1人の特性を持った人々が活躍できるようになれば日本のためにもなると思います。

ハフポスト日本版は川田議員の事務所に質問状をメール送付している。返信があり次第、追記する。

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