唐沢寿明主演『ハラスメントゲーム』に見る、理想の上司像【記者コラム】
悪意があって、わざとしているのなら、論外だが、そんなつもりはなく、何気なく掛けた言葉もでさえも、職場でハラスメント扱いされるかもしれないこのご時世。どこまでがセーフで、何がアウトか、法律の知識とともに「ハラスメント」について学べるドラマがスタートした。テレビ東京系で月曜午後10時から放送される『ハラスメントゲーム』。第1話で起きた食品への異物混入事件が、社員による内部犯行であることがわかった時など、主人公・秋津渉(唐沢寿明)の対応には胸がすく思いだったし、じんわり温かい気持ちにもなれた。「理想の上司」「うちの会社にもこんな上司がいてくれたら...」と思った。
原作・脚本は、ドラマ『白い巨塔』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』『BG~身辺警護人~』などの脚本家・井上由美子氏。唐沢が演じる秋津は、スーパー業界大手老舗会社「マルオーホールディングス」の社員で、7年前に「パワーハラスメント」が原因で本社勤務から左遷され、地方にある店舗で店長をしていた。そんな秋津が、丸尾社長(滝藤賢一)直下のコンプライアンス室の室長として本社に呼び戻されるところから、ドラマは始まった。
第1話では異物混入、第2話(22日放送)では開店を3日後に控えた品川店で騒動が勃発。企業にとっては、ひとつの不祥事が文字通り命取りになりかねない。秋津は、会社を守るために、会社で働くすべての人とその家族の生活を守るために、奔走することになる。
タイトルバックで秋津が「今日は被害者、明日は加害者、これは理不尽な世の中を生き抜くすべての人の物語」という言葉どおり、"職場あるある"が散りばめられたストーリーには、さまざまな「ハラスメント」が登場する。
第1話で、秋津はコンプライアンス室の女性社員・高村真琴(広瀬アリス)に向かって、容姿端麗な役員担当秘書・小松美那子(市川由衣)の方が「タイプだったのに。君、恐そうじゃん。カミさんが恐い人だからせめて会社ではやさしい女の子と仕事したいんだよ。いまのはセクハラ? パワハラ?」と言って笑い、真琴のこと「先輩」「真琴ちゃん」と呼んで凍りつかせた。
これに対し、真琴は「他の女性と比較して優劣をつけること、女性に優しさを強要することはセクシャルハラスメントにあたります」とバッサリ。さらに、「よろしくね」と握手を求めたことも「不執拗な接触を強要する行為は人事権を持つ上級職によるパワーハラスメントにあたります。減俸、けん責処分の可能性があります」と言い放って、逆に秋津を固まらせた。
真琴から見れば、秋津は「ハラスメント爆弾」のような上司かもしれないが、秋津はすべており込み済みで、度量が広く、一枚上手。そんな秋津が「許せない」と感じた時、メガネをかけ直し、握りこぶしに力を込める。
第1話では、「パワハラで訴えられても構わない」と啖呵を切り、店長から注意されたことを逆恨みして、異物混入事件を起こした社員に言ってやるのだった。「(店長が注意したのは)あなたのようなクズ中のクズを見捨てず育てようとしたからです。間違ったことをしていている人間を注意すらしないことを『見殺し』と言います。その方がよぼど残酷で、無慈悲なパワハラなんだ」と。
しかも、秋津は、真相を上(社長)に報告せず、「今回は被害も出ていない。僕が飲み込めば会社は守れる。そしてお二人も(店長と犯人の社員)」と清濁併せ呑む度量の広さ、責任を負う覚悟を見せる。
「働く」って本当に大変。でも、ほとんどの人が生活のために働かなければならないし、「働く」ことが「そんなに嫌じゃない」「好き」という人もたくさんいるだろう。秋津のような理想の上司(同僚や部下でもいい)が身の回りにいてくれたら幸い。「いない」と嘆く必要もない。ドラマになるということは、ドラマを観ている人がいるということは、「自分は一人じゃない」ということでもあり、少なからず救いになるはずだから。そして、秋津のように「働く」ことができたら、と自分の成長につなげられるかどうかは自分次第だ。
パワハラは上司から部下だけでなく、部下から上司にも当てはまることや、ハラスメントという大義名分を武器に周囲を困らせる行為は「ハラスメントハラスメント」、略して「ハラハラ」ということ、「頑張れ」という励ましのことばも「パワハラ」になることがあるなど...観ていて本当に勉強になる。
第2話では、大竹満寿子(余貴美子)をはじめとするパート18人が突然辞めると言い出し、秋津たちの調査で、丸尾社長のセクハラが原因だと判明する。社長と直接会ったこともないパート従業員たちにセクハラとは、どういうことなのか。さらに店内では、女性社員に対する満寿子らパート従業員の"世話焼きハラスメント"のいざこざも起きていた。この緊急事態を秋津はどう乗り切るのか、楽しみだ。
このドラマを放送している「ドラマBiz」(毎週月曜 後10:00)は、テレビ東京が今年4月に新設したドラマ枠。第1弾『ヘッドハンター』(主演:江口洋介)で「転職」をテーマに、第2弾『ラストチャンス 再生請負人』(主演:仲村トオル)で「人と企業の再生」を描いた。『ハラスメントゲーム』は第3弾。「これまでになかった働く人のための連続ドラマを」といった意気込みはブレずに伝わってくる。
【関連記事】