「日本の未来を担う若者に、福島の課題を自分ごと化してもらいたい」
そんな思いからスタートした「福島、その先の環境へ。」プロジェクト。今年も若手社会人や大学生を中心としたメンバーが集まり、福島の環境再生に資するオリジナルツアーを企画する検討会議がおこなわれた。
ハフポスト編集部では、2023年から引き続き、「福島、その先の環境へ。」ツアー検討会議を取材。若者たちはどのように福島の課題を捉え、未来に向けた議論を交わすのか――?
「除去土壌の県外最終処分」期限は2045年。若者の認知に課題。
8月3日。抜けるような夏空のもと、「福島、その先の環境へ。」ツアー検討会議が開催された。プロジェクトのコアメンバーたちが、続々と環境省へ集まってくる。2023年から2度目の参加となるメンバーの姿もちらほら見られる。
今年3月におこなわれたシンポジウム以来の集合。ひさしぶりの再会に笑顔で挨拶を交わす。
会議室に入ると、19名のメンバーたちはグループに分かれて着席。3つのテーマ「地域・まちづくり」「福島の食」「新産業・新技術」に沿って、福島の環境再生に資するオリジナルツアーを企画していく。
12時半。定刻に検討会議がスタート。
環境省・服部弘さんが登壇し、コアメンバーたちへ福島の現状と課題、環境省による環境再生事業について説明していく。
「東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、大量の放射性物質が放出してしまった。その結果、福島県全体の避難者はピーク時で約16.5万人にのぼった。
第一原発に近い浜通り地区を中心に、今も避難をしている方々がいらっしゃる。つまり、いまだに住めない場所がある」
2011年に発生した未曾有の複合災害。その甚大な被害に対して、環境省では福島の環境再生事業をおこなってきた。
家屋や道路、畑、山々の木々や土にいたるまで、第一原発事故により飛散した大量の放射性物質が付着し、環境を汚染した。それらを取り除く「除染」が、同事業の主な取り組みだ。
除染により環境再生が進む一方、放射性物質が付着した土壌や廃棄物など「除去土壌等」が大量に発生した。その量、約1400万立方メートル。およそ25mプール2万8千杯分に相当する。
この膨大な除去土壌等は現在、大熊町と双葉町にまたがり建設された中間貯蔵施設で一時的に保管されている。大熊町と双葉町は第一原発にほど近く、事故による被害がとくに深刻だった地域でもある。
町の住民は過酷な避難生活のさなか、中間貯蔵施設建設のために土地を譲ることを余儀なくされた。
「苦渋の決断だった」
服部さんは、被災者である地域住民の感情について、コアメンバーたちに語りかける。
被災者である福島の人々に、除去土壌等の処分(※)まで負わせることはできない。そうした判断から、除去土壌の最終処分は福島県外でおこなうことが法律で定められた。その期限は、2045年だ。
※除染に伴い発生した除去土壌等は、放射能濃度に応じた再生利用や、県外での最終処分がなされる
国の責務である「県外最終処分」だが、その認知度は非常に低い。
福島県内で約半数、県外だと2割程度にとどまるという。今後、除去土壌の再生利用や県外最終処分を進めるうえで、認知を広め議論を深めていく必要がある。
「若年層でとくに認知度が低い。日本の未来を担う若者の皆さまに、福島の課題を自分ごと化してもらいたい」
服部さんは、力強く語った。
原発事故で住民がゼロに。「大熊町で子どもが育つ意義を考えたい」
いよいよオリジナルツアーを企画するグループワークが始まった。
訪問先候補の資料を机一面に広げ、睨めっこするメンバーの姿が目に入る。「地域・まちづくり」の社会人グループだ。
「『学び舎 ゆめの森(※)』が気になる」
そう語るのは、ツアー検討会議に初参加の大谷さん。
※「学び舎 ゆめの森」は大熊町に位置する教育施設。0~15歳の子どもたちが共に遊び、学んでいる
「大熊町(※)は、最近まで住むことができなかった。そんな大熊町に子どもたちが戻り、育つこと。その意義や影響について考えてみたい」
※大熊町は、2019年まで町全域が帰還困難区域に指定され、住むことができなかった。24年現在も、一部区域は立ち入りが制限されている
「実際に住民の人たちと交流し、リアルな話を聞くのもいいかもしれない。いっそのこと、ツアーの訪問先を大熊町だけに絞るとか……」
ユニークなアイデアを返すのは、ツアー検討会議参加2度目の蛸島さんだ。
「大熊町をディープにめぐる旅。いいね」
ツアー企画のアドバイザーを務める、農業・食品産業技術総合研究機構の万福裕造さんは、アイデアを後押し。議論に花が咲いた。
「廃炉技術を知らなければ、議論はできない」福島の未来をつくる知の力。
「残り15分でグループワークを終了します」
時間を忘れ議論に没頭していたメンバーたちは、ハッとしたように時計に目をやる。各グループ、企画内容のまとめにとりかかっていく。
時刻は14時半。滑り込むように、グループ発表が開始。
「私たちの考えたツアータイトルは、ジャンッ! 『Tech Shima(テクシマ)』です」
会議室に明るい声が響く。
「新技術・新産業」社会人グループの澤浦さんがツアータイトルを読み上げると、発表を聞くメンバーたちの顔にも笑みが浮かぶ。
「福島第一原発事故によって、『原子力発電は怖いものだ』という感情的な認識が広がったように感じる。だけど、原子力発電や廃炉の技術について学び、知識をつけないことには、福島の未来に向けて建設的な議論はできない。
東京電力廃炉資料館を見学するなど、『テクシマ』を通じて技術を学び、ツアー参加者に自分なりの意見を持ってもらいたい」
アドバイザーの万福さんは「テクシマ」について、次のように評価。
「原発の廃炉技術は、日本が世界に売ることができる貴重なテクノロジー。いわば『廃炉ビジネス』が期待できる。未来を見据えた、面白い着眼点」
残る「地域・まちづくり」「福島の食」グループも、個性豊かなツアー企画を発表した。
議論の熱が冷めやらぬまま、「福島、その先の環境へ。」ツアー検討会議は幕を閉じた。
*
除去土壌をはじめ、町の復興や原発の廃炉など、さまざまな視点から熱心な議論がなされた「福島、その先の環境へ。」ツアー検討会議。
2023年から2度目の参加となるメンバーがいたこともあり、単なる訪問にとどまらず、「人との交流」を通じて福島への理解を深めることに焦点を当てた企画が多かった印象だ。
福島の課題について当事者意識を持ちはじめた若者たちが企画する、オリジナルツアー。10月の開催が待ち遠しい。
「福島、その先の環境へ。」ツアーの予約情報は、こちら。
福島の環境再生に関する情報は、こちら。
写真:tomohiro takeshita
取材・文:大橋翠
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