第1回目のパブリテック自治体講座は、鎌倉市長 松尾崇さん、株式会社ぐるんとびー代表取締役 菅原健介さんをお招きし、<共生×鎌倉×パブリック>というテーマで開催いたしました。ご登壇いただいた講演、およびコーディネーターに共創法人CoCo Social work CEO兼ソーシャルワーカーの菅原直敏さんが加わった、パネルディスカッションの様子を紹介させていただきます。
本記事では、鎌倉市長 松尾崇さんのご講演内容を紹介いたします。
主催団体 公式Facebook ☞ https://www.facebook.com/jpolicy.org/
運営団体 公式HP ☞ http://publitech.jp/
*パブリテックの基本的な考え方
「テクノロジーをどう活用してどのような世界観を実現していくのか」というところに重きをおいています。
*パブリテック自治体講座とは
AI・VR・ブロックチェーンなど、テクノロジーが発達している中で、その技術の中身について話すだけでなく、「実装している方」を官民問わずお招きして講演していただきます。最後には、会場の皆様ともパネルディスカッションを通して深めていきます。
鎌倉市が抱える課題とは
年間延べ約2000万人を超える観光客の方が鎌倉にお越しいただきます。
特徴は、その99%が日帰り客で、宿泊するのはたった1%というところで、端的に言うと「お金の落ちない観光地」なんです。
「鎌倉は観光が産業の柱だよね」と言われることがありますが、市の税収面で見ると、観光での収入は見えてきません。ほとんどが市民税と固定資産税で成り立っています。
これは戦後からの話になりますが、高度経済成長期に合わせて「昭和の鎌倉攻め」とも揶揄される、宅造ラッシュが起こりました。
昭和22年人口約5万5千人だったのが、たった20数年で10万人も増えました。
この時期に流入した世代が一斉に高齢化し、人口減少とともに少子高齢化が進行しています。日本全体も同じような状況ではありますが、特に鎌倉は顕著に、急速に、訪れています。高齢化率は30%を超えていて、神奈川県下でもハイレベルです。
その結果、
・税収減
・社会保障費の増加
・老朽化する社会インフラの維持管理
といった問題に直面しています。
右肩上がりの時代とは違った新たな手法が必要となり、
・多様化するニーズ、新たに発生する様々な社会問題への対応
・限られた財源と職員数でいかに効率的に行政サービスを提供するか
・徹底した選択と集中を進めるための市民ニーズの把握
など、新たな課題解決に向け、第4次産業革命と言われる「テクノロジーの進歩」を積極的に取り入れた「新たな時代にまちづくり」に挑戦しています。
他市との差が見える、課題解決の具体策
昨年の市長選挙時にマニフェストを大きく2つ作りました。
この中からいくつか具体的な活動をご紹介したいと思います。
●機構改革
今年の4月に機構改革を行いました。
従来は経営企画部だけだったのですが、行政経営部・共創計画部の2つを新たに立ち上げました。
行政経営部にはテクノロジーを実際に使った取り組みや職員の働き方改革を行う「パブリテック担当」を、共創計画部には公民連携を一層促進していくこと念頭に置き「SDGs担当」を設置しました。
特に「鎌倉が推進的なことをやった」ということではありませんが、これまでも取り組んできた「世界に誇れる持続可能なまち」を目指した様々な政策を、パッケージ化して説明し、未来での取り組みをお話したことで「SDGs未来都市の選定」を受けるができました。
世界課題を意識しながら、鎌倉で何ができるかを考えています。
その中でも「いかに市民ニーズを的確に把握していくか」が鎌倉にとっては永遠に課題となります。
どこの自治体でも言えることではありますが、声の大きい人にどうしても引っ張られます。そこで、どうサイレントマジョリティーとしっかり向き合い、政策に生かしていくかに注力してきました。
●市民ニーズの的確な把握
きっかけとなったのは「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定です。
RESASのデータ活用やフォーカスグループインタビューの実施により、これまでよりも半歩進んだ、効果的な施策を立案することに成功しました。
例えば、鎌倉は合計特殊出生率が低いまちで、今まで様々な要因がなんとなく語られてきました。それを実際にデータとして取ることで、晩婚化・晩産化が原因ということが見えてきました。
集計したアンケートでは、出生率が1.19なのに対して希望出生率は1.74でした。この差こそが、まさに課題であると捉え、「保育所の預け先がない」「家事育児の協力者がない」「通勤不便による転出」といった問題を解決するために企業誘致・雇用政策を充実させました。
また、鎌倉の中でも高齢化率が非常に高く40%を優に超える住宅地の方たちに向けて「リビング・ラボ」という取り組みを始めています。
「まちをどう元気にしていこうか」という話し合いは長年続けていて、継続してきたこと自体も行政としては大きな成果だと思っています。7年程前の最初の頃は、「まちのフィールドを駆使して色々やっていきたい!」と話すと「どんな補助金が下りるのか?」「どんな役所のサービスが優先的に受けられるのか?」といったことに時間ばかりが経過していました。
ここに、鎌倉在住で大学教授をされている方に間に入っていただき、民間と行政の間の立場から「あなたたちそんなことばっかり言ってちゃダメよ!」とビシッと言ってもらえる機会がありました。それにより、住民の方たちの意識も2年3年かけ、少しずつ変化していきました。
ようやくたどり着いた現在は、高齢化率が高いことを強みと捉え、高齢社会・長寿社会に適応した商品開発のフィールドにしていこうとなりました。
リビング・ラボというのは、北欧では取り組みが広がっていますが、今泉台では、まずは企業から依頼を受け、一般に発売される前の商品を試用して、その感想をアンケートで答えるという取り組みを行いました。
●FabCity宣言
ファボラボという場所を鎌倉に作っていただき、地域の課題解決のツールとしてテクノロジーを活用し、政策し、解決しようという取り組みとして「FabCity宣言」を行いました。
これは、フランスで行われた各国のファボラボ関係者が集まる国際的なミーティング「世界ファボラボ会議」において、日本初の宣言となりました。
関連した取り組みをいくつかご紹介します。
・LINEで行政手続きの電子化
市民の利便性向上のため、情報発信の充実・行政サービスの効率化・各種手続きの電子化を目指しています。
例えば、転入・転出届。
LINEから転入の画面を選択すると、必要な手続きが一覧で確認できます。さらに、そこに情報を入力しておくと、市役所に来たらQRコードをプリンターにかざすだけで、情報が反映されたものが出てくるという仕組みです。
これを窓口で提出していただければ市役所での全ての手続きが完了する、というものをこれからリリースしていく予定です。
・LINEで民意を集める
LINEを活用すると市民の方が声を出しやすいんじゃないかということで、民意を集め、アイディアを出していただくために「ハッカソン」を活用した研究を行っています。
・シニア世代と実証実験
スマートスピーカーと音声アプリを活用した実験実験をスタートしました。
シニア世代に、スマートスピーカーを経由し、音声アプリを提供して会話・発生の機会を創出することで、心身健康の維持や認知症予防と共に地域や家族との繋がりをサポートするものです。
例えば、「いまの防災放送なんて言ったの?」「ラジオ体操やりたい」などと話しかけていただき、スマートスピーカーに応対してもらいます。音声だけで様々なことができるので、シニア世代の方々にもスムーズに活用できて好評をいただいています。
・スマホアプリを使った健康増進
こちらもすでに実装しているもので、運動習慣をつけ、生活習慣病を防ぐための取り組みとしてアプリをスタートしました。
健康づくりに関するアプリや専用Webを活用して健康づくりによるインセンティブを付与します。最終的には、これらを通して集めた、習慣や国保・医療・健診などのデータを紐づけていき、「この人が今の状況でどんな病気を発症しやすくなっているか」をアラートとして送れることを目標にしています。
こうした取り組みの中、鎌倉に人材・知的財産を集約していくために重要になってくるのが「テレワーク」だと考えています。
テレワークの推進により、ストレスの軽減や子育てとの両立可能な環境づくりなどに加え、若年層の誘致や新たな生活・経済圏域を鎌倉を中心に三浦半島でつくっていきたいという思いで活動しています。
鎌倉市の目指す未来
テレワークの環境整備を行うことで、雇用創出や地域経済の活性化、職住近接を図り、女性や高齢者の社会参加が促進され、また新たな人材交流によるイノベーションやビジネスが創出される、という好循環をつくっていきたいと考えています。
そして現在「大きな2つのまちづくり」を動かしています。
まず、約32haの深沢整備事業用地に市役所を移転し、さらに消防本部・総合体育館(公式スポーツ大会が行えるアリーナ)・グランドの整備をすることを中心に、周辺の先端技術を持つ企業と連携し、未来のまちづくりを目指します。
市役所の跡地は、図書館・ホールなど芸術や文化の発信拠点とし、観光の入り口となる場所にしていきたいと思っています。
まとめますと、鎌倉市が目指すまちづくりは、伝統と新たな動きを融合しながら様々な地域課題を解決するためのオープンイノベーションプラットフォームを皆さんと協力してつくっていくことです。