『カイジ』なぜバラエティー化? 総合演出の藤井健太郎氏が語る"狙い"
福本伸行氏の人気漫画『カイジ』を原作にした視聴者参加型バラエティー『人生逆転バトル カイジ』(TBS系)が、きょう28日午後10時から放送される。芸人から一般人まで、個性的で大なり小なり借金を抱えた選りすぐりの"クズ"12人による戦い。番組の総合演出は『水曜日のダウンタウン』をはじめとした"悪意"と"こだわり"の演出で人気を集める藤井健太郎氏。『カイジ』をバラエティー化しようと思ったきっかけや、ひとつの番組として作り上げるまでの過程などに迫った。
■『カイジ』をバラエティー化したワケ "クズ"12人選定の苦労とこだわり
最初に企画書を提出したのは2008年。福本伸行氏の漫画全般を読んでいた藤井氏だが、『カイジ』をバラエティー化しようと思った決め手が2つあったという。「漫画原作でバラエティーをやるっていう入り口は、今までに聞いたことのないパターンだなというのと、ゲームバラエティーの要素と、何らかの事情でお金が必要な人たちが主人公となるっていうドキュメンタリーの要素が両立するところがよいなと。ただ、同じようなことを『カイジ』の冠なしでやったら、そこまでキャッチーなものにはならないなという思いはありました」。
約10年越しに実現した今回の特番では、人生の一発逆転を夢見る12人の参加者たちが、賞金200万円とゲーム内で獲得できる金(ペリカ)を目指して、精神と肉体を駆使した真剣勝負に挑戦。原作ファンにはおなじみのゲームから、原作の世界観を再現したオリジナルのゲームまで、漫画原作バラエティーならではの見どころが用意された。番組のキモとなる参加者には希望が殺到し、選りすぐりの"クズ"を見つけ出す過程でもひと苦労だった。
「種類は一色じゃ面白くないですから、出演者にパターンをつけたいなというところで、自業自得の人と不遇の人というようにバランスを見て選定していきましたが、本当にハードな人はけっこうダメなケースも多かったです。話を聞いているとオンエアまでになんか問題起こしちゃいそうだな...っていう人もいたり(笑)。不幸系の人は、親に問題がある場合がほとんどなので、その親がNGを出したりとかで、けっこうヘビーではありました。芸人の方も数人出ていますが、全員お金が必要な事情がしっかりあって、クズな部分もある。面白いからということだけでは選んでいません」。
■原作の"空気感"伝えるための演出 出演者たちの本気が見えた瞬間とは?
優勝者が決まるまでの過程はシンプル。「まずは、原作にもある『鉄骨』をやって12人から何人かに絞られます。その次は、原作で言うと『限定じゃんけん』のような『多数決カード』。簡単に言うと、赤と青のカードがあって、1時間後にどっちかのカードを出して、少ないほうが負けるというものです。それから、勝ったのになぜか地下に落とされて(笑)、ゲームで稼いだペリカで2日過ごしてもらいます。最後は『ペリカ双六』というゲームです」。原作の空気感がどこまで再現されているのか気になり、鉄骨レースの開催地・清水港付近に向かった。
ゲームがスタートする前に、鉄骨のスタート地点に立たせてもらうと、怖さと潮風で体が安定しない。本番のゲームでは、さらに出演者たちを追い詰める。目隠しでスタート地点まで移動させられ、合図とともに目を開けると、2本の鉄骨が目の前に広がる。1回のゲームにつき、参加するのは3人。遅れをとれば、勝つために相手を蹴落とすという選択をしなければならない。「2本の鉄骨に3人ということは...みたいな部分でのゲーム性が出たらいいなと思いました。普通にやると、ただの体力ものになっちゃう。精神的な部分や戦略性が入ってくる余白は残しておきたかったです」。
鉄骨レースに命綱はなく、出演者たちはパッと見た限りでは安全対策の状況も分からないため、「失敗したら、本当にヤバいかも...」との思いに駆られる仕組みとなっている。「命綱をつけたり、鉄骨から落ちても安全なのが見えているというのが嫌でした。もちろん安全じゃないといけないんですが、本人たちも視聴者たちも『これ大丈夫なのか?』っていうドキドキする要素は残したいなと思っていました」。こういった細かな演出も、藤井氏ならではだ。
出演者たちの戦いを藤井氏はどう見守ったのか。「お金がかかって必死になった人のすごみのようなものが見られる瞬間もありました。地下生活をしたメンバーたちは、そこで仲良くなって、変な一体感ができていましたね。ステージとかフィールドは、こっち(スタッフ側)が作りますが、そこでの振る舞いに関してコントロールはしないし、できないので『こういう風にやってほしい』みたいなことは言っていません。特に今回の出演者は素人さんがほとんどなので、ありのままの姿が撮れたと思います」。年の瀬に繰り広げられる、一攫千金を夢見る者たちの戦い。このヒリヒリ感は、めったに見られるものではない。
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