「子ども」「野菜」という言葉を聞いて、皆さんは、どんなことが頭に浮かぶだろうか? 「我が子が好き嫌いで困っている」「自分も野菜が苦手だった…」という人が多い一方、自分たちで野菜を育てた記憶がよみがえった人もいるのでは?
野菜の栽培から調理、喫食まで――。そんな経験を子どもたちにしてもらうべく、小学校等にトマト苗の提供を25年間続けてきた(2024年時点)のが、トマトケチャップなどの製品でおなじみのカゴメだ。
提供されたトマト苗は、累計400万本以上。その取り組みは、フードロスの学習や地域とのコミュニケーションなど、教育現場で多様な広がりを見せている。そんなカゴメの「りりこわくわくプログラム」に参加する横浜市立六浦南小学校の教諭と、カゴメの担当者に話を聞いた。
「育てる」から「食べる」までを体験
横浜市立六浦南小学校が、カゴメの提供するトマト苗「凛々子(りりこ)」の栽培を始めたのは、2019年度。中心になったのは、野菜づくりを趣味としていた養護教諭の荒木結美さんだ。
「うちの学校は、もともと給食の野菜の残量がかなり多くて…。子どもたちに、もっと野菜を好きになってもらいたい、という思いがありました。それに、自分でつくった野菜は安心安全だし、味が濃くておいしいと実感していたので、エディブル・スクールヤード(*1)みたいな活動が広まったらいいな、と思っていました」(荒木さん)
*1:1990年代にアメリカで始まった、持続可能な菜園学習プログラム。近年、世界中で広がりを見せている。
そんな時に知ったのが、カゴメの「りりこわくわくプログラム」だ。同プログラムでは、全国の小学校、保育園等にトマト苗を無償で提供。ガイドブックの配布、栽培方法のアドバイスなどサポートを受けつつ、「育てる」から「食べる」まで、総合的な体験学習ができる。
六浦南小学校では、初年度に3年生83名が栽培をスタート。子どもたちは早速、自分の苗に名前を付けたりしながら、愛情を持って水やりなどの世話をするように。病気や害虫の対処法を調べたり、色見本をもとにトマトの収穫どきを見分けたり…。自分たちで行動を起こしていった。
収穫したトマトを、給食メニューとして全校児童が食べることに。保護者の協力を得て、トマトケチャップづくりにも挑戦した。「親御さんからは、『野菜を食べられるようになりました』とか『他の野菜にもチャレンジするようになりました』といったコメントを多くいただきました」当時、3年生の担任だった小山雅代さんは、そう振り返る。
さらに、子どもたちは、活動で得た知識や経験を、新聞や紙芝居、絵本などにして発信。「教えられた知識ではなく、実際に自分で感じたこと、調べたことは、自然と誰かに『伝えたい』と思うようになるのだと実感しました」(小山さん)
フードロスを学ぶ活動へと発展
同校の取り組みは高く評価され、プログラムの優れた実践を表彰する「りりこ賞」を二度受賞。さらに、近年はフードロスやSDGsを学ぶ、新たな活動へと発展している。
「『りりこ賞』の賞金でコンポストを購入し、給食で余った野菜などを入れる活動を始めました」と教えてくれたのは、以前4年生の担任をしていた三井達也さん。
「実物のコンポストがあると、子どもたちの主体性が全然違いました。例えば、給食にミカンが出たときは、『皮をちょうだい。コンポストに入れて堆肥をつくるから』と他クラスにまで活動を広げていましたね。フードロスやSDGsといった言葉に対して、子どもたちが実感を抱けるようになったこともよかったです」(三井さん)
「フードマイレージ(*2)の授業では、『カレーをつくろう』ということで、子どもたちに産地の違う食材を選んでもらいました。その中で、遠くから食材を運ぶ際には、二酸化炭素が多く排出されることに気づき、自分たちのトマト栽培のような『地産地消』の大切さを学んでいきました」(6年生担任の熊﨑優香さん)
*2:食糧の輸送距離。輸送に伴い排出される二酸化炭素が地球環境に与える負荷に着目した指標
普段おとなしい子の新たな一面を知るきっかけにも
子どもたちの多様な学びやアクションに結びついてきた同プログラムは、先生たちの新たな発見にもつながっている。三井さんはこんなエピソードを語ってくれた。
「算数や体育といった普段の科目ではおとなしい子が、本当に野菜を大事に思ってくれて。みんながちょっと飽きてきたことを察して、自分から『先生、見に行こうよ』『今日はこうだったよ』と話しに来てくれたりしました。プログラムを通して、教員も子どもたちの良いところに気づき、成長を見る機会を得られたんです」
「苗を配って終わり」ではない
1999年から「りりこわくわくプログラム」を続けるカゴメは、2022年から「植育から始まる食育」というメッセージを打ち出している。活動を通して、子どもたちにどんなことを期待しているのだろうか。同プログラムを担当する田口るみこさんは、次のように語ってくれた。
「野菜を栽培する経験を通じて、育てる喜びや生産者の苦労を知ったり、自然への感謝や好奇心を育んだりすることが、食育の始まりだと考えています。カゴメは創業当時から『畑は第一の工場』というものづくりの哲学を持っています。『野菜の栽培、収穫体験がある人に野菜好きが多い』という調査結果(*3)もあり、活動を通じて、子どもたちが少しでも野菜を好きになってくれるといいな、と思います」
*3:カゴメ「野菜定点調査2021」
現在は、毎年約1000校に2種類のトマト苗を配布。参加校のリピート率は75%ということから、満足度の高さが窺える。「ただ『苗を配って終わり』にはならないよう、強く心がけています。自由度の高いプログラムでありつつ、自由研究等に使える副教材を作成したり、『野菜の専門家』とも呼べるような社員との交流機会をつくったり…毎年いろんな工夫をしているんです」
1つの苗から、社会との関わりを生み出していく
今、同プログラムが目指すのは、人と人のつながりを通じて「野菜の持つ可能性」を高めていくことだ。「1つの苗から、社会との関わりをもっと生み出していけたら、と思っています。例えば、ある特別支援学級では、収穫したトマトでつくった料理を、子ども食堂や地域のパン屋さんに持って行ってくれたんです。新たな地域のつながりが生まれた事例でした。現場の先生からは『他の学校と関わってみたい』といった声もいただいています。今後は、参加者などが対話する機会をつくっていきたいですね」(田口さん)
「食育は保護者だけでなく、教育現場や私たちのような企業、地域社会…皆で関わりながら取り組んでいくべきものだと思います。まずは、土のにおいを感じるとか、栽培過程の実の変化を楽しむとか、暮らしの中で野菜を身近に感じてもらえたら嬉しいです。そして、野菜好きの方が増えれば、生涯の野菜摂取量のアップにもつながると考えています。そのために、カゴメの『植育から始まる食育』の体験機会を増やしていきたいです」
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「野菜の持つ可能性」を一緒に感じませんか?
今回、一番驚いたのは、トマト苗をきっかけとして子どもたちが楽しく学び、人々のつながりが広がっていることだった。
カゴメでは、りりこわくわくプログラムだけでなく、例年トマト苗のプレゼントキャンペーンを企画しており、2024年は4月28日(日)まで実施中。また、ホームセンター等でカゴメの苗を購入することもできる。この春から、「野菜の持つ可能性」を、あなたも一緒に感じてみませんか?
(取材撮影=川しまゆうこ)