若手芸人の小保内太紀(おぼない・たいき)さんが6月15日にツイッターに投稿した文章が話題になっている。
小保内さんは芸歴4年。今春からは知恵の輪かごめさんと「カフカと知恵の輪」というコンビを組んでいる。
ツイッターに投稿したのは「ある日起こったこと」という文章だ。
その文章は、複数の芸人が登場する舞台にコンビで出た際、女性の相方に対して複数の男性芸人から「エロい」という「いじり」が続き、それに怒った小保内さんに対し、他の芸人から「人によって色んな価値観がある」「NGなら最初に言っておくべき」などと反論が出たという内容だった。
文章が拡散されると、小保内さんの考えに否定的な意見から、「色んな価値観があるからこそ他者を尊重せねばならない」という小保内さんの発信に共感する声なども寄せられた。
今回のことで何を感じたのか。小保内さん本人に聞いた。
■「女である」ことが「キャラクター化」されてしまう
小保内さんは、この「ノリ」のきっかけは、他の芸人から「(小保内さんの相方が)頭いいと思ったらエロく見えてきた」というような発言があったことだったと振り返る。相方は京大生で、小保内さんも同大院の卒業生だ。
そこから7人ほどの男性の芸人から相方への、「エロい」「エロく見える」などという発言が続いていったという。
「セクシャル」なふりをした訳でもないのに、こうした「いじり」が続くことは「ハラスメントだ」という憤りがあったが、怒った理由はそれだけではなかった。
小保内さんはこう説明する。
「芸人って『〜〜に詳しい』『神経質』とかキャラクター化されることも多い。それは分かりやすいし、面白いと思っています。でも、今回はなぜ、相方の個性の部分じゃなくて、『女』としてくくられたのか」
男女コンビを始めてから感じていたこともあった。
「女性が舞台に上がると『女芸人』とくくられてしまうんですよ。お笑いにおいて女性が少ないという男女比率的なこともあって、『女である』がキャラのように扱われてしまうと感じていました」
■「色んな価値観があるからこそ他者を尊重せねばならない」
Twitterでの小保内さんの「色んな価値観があるからこそ他者を尊重せねばならない」という発信に対しては、そういった笑いを望む共感の声が上がっている。
「人によって色んな価値観がある」「エロいじりがNGなら最初に言っておくべき」など(共演した芸人から)反論されましたが全部大きな間違いです。色んな価値観があるからこそ他者を尊重せねばならないし、エロいじりをするなら事前に許可を取れ、が正解です。
(小保内さんのツイートから)
「この時に言われた『色んな価値観がある』というのが、『俺と同じ価値観になれ』という意味だと感じたんですよね」
「様々な価値観がある時に、他の価値観の存在を受け止めた上で、互いの自由のスペースを調整していくことが大事だと思います。なので、そこで『相互承認』につながらない『他者の尊厳を傷つける自由』は存在できないはずなんです。例えば、『人を殴りたい』という自由が『殴られない私をくれ』という自由に優先することはないんじゃないでしょうか」
■お笑いの技術の問題なのか?
小保内さんの発信に対して、「エロいじり」がダメなのではなく「いじる際の、技術不足だったのでは」という指摘もネット上で出た。
そこにも小保内さんは疑問を持っている。
「ウケる角度を探す視点も技術じゃないですか。安直な下ネタを続けるとお客さんは引いてしまうので、そもそも『エロいじり』を続けるというのはお笑いの技術として違うと思ったんです」
「笑いを取ろうと思って、何かに踏み込んでいくことは絶対必要なことだと思うんですよね。色んな方法や話題を試してみて、ミスったと思ったら下がることが大切だと思っています。僕も過去にやり過ぎてしまったことはあるので…撤退する勇気みたいなものも大切だと感じました」
ただ、今回のことで実感できたこともあるという。
この出来事を友人の芸人たちに話した際、そういった「いじり」について、「まだやんねんや」「さすがに引く」などという反応が上がり、変化を感じた。
「『これを言ったらウケない』『立場がなくなる』というラインは存在する。そこで『昔は良かった』じゃなくて『今のニーズはこっちだ』とかじを切れるのが大切だと思いました。そういった構築主義的な姿勢によって、時代を変えるスピードを速められるんじゃないかと感じました」
■賞レースに刺激を受け、志した
小保内さんは、「M-1グランプリ」などのお笑いの賞レースに刺激を受け、芸人を志したという。
「色んな芸人さんが毎年、工夫をして新しいものを生み出して競っている感じにクリエイティビティを感じました」
まだ若手の芸人だ。これからどう活動していきたいのか。
「意図と目的とやる意義がある、自分でなければできないお笑いをやりたい。お笑いというジャンルに対して、何らかのオルタナティブとなるものをやっていきたいと考えています」