育児休業の取得を拒否された男性社員らが、雇い主であるJPモルガン・チェースを訴えていた集団訴訟は5月30日、JPモルガン・チェースが原告側に500万ドル(約5億4600万円)を支払うことで和解した。
和解金は、2011~2017年の間に育休を申請して却下されたか、申請を止められた男性従業員らで分配するという。
■女性と同等の育児の担い手と見なされなかった
最初に訴訟を起こしたのは、JPモルガン・チェースのオハイオ州コロンバスオフィスで働いていたデレク・ロトンド氏だ。
JPモルガンは2016年に「主な育児の担い手」に対して、16週間の有給の育児休業の付与を決めた。
ところが、ロトンド氏がこの育休を申請したところ、JPモルガン・チェース側は申請を却下した。
ロトンド氏によると、会社は「育休を取得するには妻が育児をできない、もしくは妻が出産後に職場に戻らなければいけないことを証明しなければいけない」と説明した。
教師であるロトンド氏の妻は、育児ができる状態だった。また出産後に当たる夏の期間は、家にいた。
そのため、JPモルガン・チェースはロトンド氏を主な育児の担い手ではないと判断。2週間の育休しか付与しなかった。しかし、女性であれば同じ状態で育休を拒否されることはない。
「主な育児の担い手は母親であり、あなたではない、とデレクは言われたのです」と、ロトンド氏を弁護したACLU(アメリカ自由人権協会)のガレン・シャーウィン弁護士は話す。
■今回の訴訟を機に、変えていきたい
JPモルガン・チェース側は、「同社は常にジェンダー・ニュートラル(男女の性別で区別しない)であろうとしている」と説明する。訴訟を起こした直後に、同社はロトンド氏に16週間の休暇を付与した。
加えて、和解の中に「管理職が、女性と男性を同等に扱うための社内教育の実施」も含めた。
JPモルガン・チェースのレイド・ブローダ次席法務顧問氏は「合意に達することができて嬉しい。今後、男性と女性の従業員が会社の福利厚生をより使いやすいようにしていきたい。この問題を取り上げてくれたロトンド氏に感謝します」と声明文で述べた。
■「これは全ての人にとっての勝利」
会社からパタハラを受けたロトンド氏。ハフポストUS版の取材に対し、「家で赤ちゃんと過ごす時間はとても価値があり、育休中に子育てのスキルを磨くことができた」と話す。
16週間の育児休業の間、ロトンド氏は妻と夜の育児を交代で担当し、夜泣きする赤ちゃんを泣き止ませる方法を身につけた。
だから、現在2歳になる息子のリンカーンちゃんが夜中に目覚めて泣き出しても、ロトンド氏は簡単にあやして、眠らせることができるという。
しかしそれは、最初の息子が生まれた時にはできなかったとロトンド氏は話す。最初の息子が生まれた時には、1週間しか休みを取ることができなかったからだ。
「今回は睡眠を取らずに仕事に行く心配をしなくてよかったです」
集団訴訟の弁護士の一人であるロマー・フライドマン氏は「ロトンド氏の訴訟に、大勢の男性従業員が助けられた」と話す。
ロトンド氏が訴訟を起こした後、多くの人たちがロトンド氏のもとにきて、問題を提起したことに感謝したという。
「デレクのような人が、自分たちのため、そして他の従業員のために立ち上がってくれなかったら、社会は変わりません」
500万ドルの和解金を何人で分け合うのかは不明だが、一人当たりの支払いは837~5362ドル(約9万~58万円)になるのでは、とシャーウィン氏は述べる。
男性と女性の両方に、育児の責任があることを示したという意味で、和解は大きな意味を持つ。ロトンド氏は「これは全ての人にとっての勝利です」と話す。
「女性がすべき育児の量はこれくらいで男性はこれくらいだ、と決めるのは、性別で仕事を分けてきたこれまでのやり方を助長してしまいます」
「かつて、女性の仕事は、家にいて子供を産んで料理することだと言われていました。でもそれは、私たちの時代にはもはや効果的ではありません」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。