【多発性骨髄腫】治療による長期生存に近づいた今、求められるのはウェルビーイングとの「バランス」

Johnson&Johnsonが、多発性骨髄腫において「治療も、やりたいことも諦めない」をテーマにメディアセミナーを開催。医学的な治療目標だけではなく、患者のウェルビーイングの向上を考慮した治療目標を持つことの重要性などについて聞いた。

日本国内における年間死亡者数(2023年)が約4300人の「多発性骨髄腫」。高齢発症が多いため、高齢化の進む日本国内では今後も患者数の増加が予想されている。

多発性骨髄腫は治癒困難な血液がんの一種だが、現在では医療の進歩により長期の生存が可能な疾患になりつつあるという。

Johnson&Johnson(法人名:ヤンセンファーマ)は4月4日、多発性骨髄腫において「治療も、やりたいことも諦めない」をテーマにメディアセミナーを開催。治療の現在地と今後の展望を聞いた。

治療による長期生存に近づいた今、求められること

日本骨髄腫患者の会 代表の上甲恭子さん(左)と群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座血液内科学分野 診療教授の半田寛さん(右)
日本骨髄腫患者の会 代表の上甲恭子さん(左)と群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座血液内科学分野 診療教授の半田寛さん(右)
ヤンセンファーマ

多発性骨髄腫は、白血球の一種である形質細胞が骨髄内でがん化し、骨髄細胞が異常に繁殖することで生じる、治療困難な血液がんだ。

初期は無症状の場合もあるが、骨折や骨痛、赤血球数の減少、疲労、カルシウム値の上昇や腎障害などの症状が現れる患者もいる。また患者の7割に骨病変が認められていることも特徴だという。

群馬大学大学院医学系研究科 内科学講座血液内科学分野 診療教授の半田寛さんは「多発性骨髄腫の治療では、1960年代に開発されたメルファランと、副腎皮質ステロイドのプレドニゾロンを使用した『MP療法』が長きに渡って一般的な方法でしたが、2006年頃から治療薬の開発ラッシュが進み、現在は長期の生存が可能な疾患となりました」と説明した。

患者が疾患とともに生活する時間が長くなるなか、治療においてこれまで以上に重要なキーワードとなってくるのが「患者のウェルビーイング」だ。医学的な治療目標だけではなく、患者のウェルビーイングの向上やQOLの維持を考慮した治療目標を持つことの重要性について考え、議論する段階に来ているという。

半田さんは「人生を治療で埋め尽くさないことも、生きる上で欠かせません。治療には痛みが伴い、生活に支障もきたします。疾患とともに過ごす生活において、明るい気持ちで過ごせる時間を増やすために、医師と患者さん、そして家族や友人をはじめとした近親者が歩み寄ることが大切です」と話し、治療と生活の2つの指針を持つことの重要性を強調した。

治療とウェルビーイングの塩梅を探る

イメージ画像
イメージ画像
cnythzl via Getty Images

日本骨髄腫患者の会代表の上甲恭子さんは、同会会員を対象に実施した独自調査「患者アンケート2022」において、患者の治療目標の首位が「元気でいる」「入院でなく家で過ごす」「身の回りのことが自分でできる」であった結果を踏まえ、「高齢患者が多いということもあり『QOLを保ちながら今を生きたい』という指向の方も多くいらっしゃいます」と説明。さらに「治療するために生きているような状態になってしまわないために、治療との塩梅を探っていくことが大切です」とコメントした。

また、こうした治療目標の設定において「患者と医療者のコミュニケーションが上手くいくような更なる工夫が必要」と話し、患者にも「病気や治療の正しい知識を学びましょう」「良い人間関係を築く努力をしましょう」「かかりつけ医に助けてもらいましょう」とウェルビーイングを支えるための具体的な方法を提案した。さらに「夢中になれること、生きがいとなるような楽しみを探してみてください」と話し、治療において生活の充実をさせることの重要性を強調した。

医師と患者の「ギャップ」を埋める鍵

セミナーが開催された同日に、同社は多発性骨髄腫において、患者が掲げる治療目標や、患者のウェルビーイングが治療に及ぼす影響などを明らかにすることを目的に実施した調査の結果を発表した。調査結果を一部抜粋して紹介する。

【調査概要】

調査主体:ヤンセンファーマ株式会社 

調査期間:2025年3月3日~11日 

調査対象者:【患者】多発性骨髄腫と診断され、薬物治療を受けている(もしくは受けたことのある)患者63 人 【医師】血液内科、血液腫瘍内科に所属し多発性骨髄腫を診療する医師105人

方法:インターネット調査(調査実施会社:株式会社インテージヘルスケア)

患者に治療目標(複数回答)と、そのうち重要度の高いものを聞いたところ、上位3つ(1~3位積み上げ)が「多発性骨髄腫になる前となるべく変わらない生活を送る」(51%)が最も多く、次いで「自分の好きなこと、やりたいことを楽しむ、続ける」(48%)、「長く生きる」(40%)が続く結果となった。

患者に聞いた「治療目標(複数回答)と、そのうち重要度の高いもの」
患者に聞いた「治療目標(複数回答)と、そのうち重要度の高いもの」
ヤンセンファーマ

一方、医師が掲げる治療目標では「全生存期間の延長」(65%)、「無増悪生存期間の延長」(60%)、「副作用や有害事象をなるべく抑えコントロールすること」(35%)が多く、「多発性骨髄腫になる前となるべく変わらない生活を送る」は31%、「患者さんが自分の好きなこと、やりたいことを楽しむ、続けられること」を挙げたのは24%という結果となり、医師と患者の掲げる治療目標に大きなギャップが見られた。

医師に聞いた「治療目標(複数回答)と、そのうち重要度の高いもの」
医師に聞いた「治療目標(複数回答)と、そのうち重要度の高いもの」
ヤンセンファーマ

続いて、患者サイドと医師が治療目標を共有することの重要性を尋ねたところ、医師の93%、患者の94%が「重要である」または「やや重要である」と回答。治療目標にギャップがあるものの、お互いに治療目標を共有することの重要性を認識していることがわかった。治療目標について話し合うため、医師が患者や家族などから聞きたいこと(患者が医師に伝えたいこと)をそれぞれ尋ねたところ、両グループとも「普段どのような生活をしているのか」「治療をしながらでも続けたいと思っていること」「治療法を決める際、何を最も重視しているのか」が上位3つに挙げられた。

さらに、患者が大切にしていることややりたいことに時間を充て、充実した気持ちで過ごすことが及ぼす、多発性骨髄腫の治療への影響について聞いたところ、医師の92%、患者の96%が「良い影響を与える」と回答。この共通認識を中枢に据え、患者と医師が解像度の高いコミュニケーションを取ることが、患者一人ひとりにとって最も納得のいく「ウェルビーイングと治療の塩梅」に近づくための鍵となりそうだ。

注目記事